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神雷に与えられた部屋は美しかった。正直、来る前は金持ちの絢爛豪華な部屋を用意されているのだろうかと想像していた。けれど、実際与えられた部屋は地味で落ち着いていた。けれどよく見れば、調度品の一つ一つに丁寧な職人の仕事が行われている事がわかった。更に窓から外を見れば、遠くの庭に藤の華が咲いているのが見えた。
「綺麗だ……」
落ち着く部屋に、完璧に整えられた庭。調和のとれた美の中に、自分と言う異物が立っているのが、まだ居心地が悪かった。与えらたれた着物は、紺色の布地で、一見地味なのだが、よく見れば銀色の糸で蔦と花が描かれていた。これが質の良い着物なのは、すぐにわかった。
(着てるのは俺だけどな……)
水天は後ろ頭をかりかりと掻く。先程から部屋の中を歩き回って、立ったり座ったりを繰り返していた。部屋が広すぎて、どうにも落ち着かない。それに何もやる事が無いのは、水天にとって苦痛だった。
(生まれてこの方、常に走り回ってる人生だったからな……)
常に何かに追い立てられていた。生きる為に、動き続けるしかなかった。
「はぁ……」
ため息がこぼれる。こんなに恵まれた環境にいて、どうしてこんなに憂鬱な息をもらしてしまうのか、我ながら嫌になる。
(俺は自分に自信が無い)
神雷に、何度『愛している』と言われても、心の中で水天は『そんなはずない』と否定をしてしまう自分がいた。
『自分なんかが、愛されるはずがない』、そう思いたくないのに、反射のようにそう考えてしまう自分がいた。
(嫌だな……)
神官達に落ち度は無い。彼らは、水天を一度も悪く言う事は無かった。どこの馬の骨ともしれない、みすぼらしい水天に恭しく仕えてくれた。神獣宮に来た後も、神雷の愛情は変らない。むしろ一層、深く彼に愛されている事を感じた。それなのに、水天は自分の中の不安を振り払えずにいた。
(俺は本当に彼に愛される価値があるのか?)
『おまえなんか、誰も愛さない』
頭の奥に、憎しみのこもったあざけりの声が響いた。
***
婚礼の儀を整える為に、粛々と儀式は続いていた。神獣の結婚は、一月かけて行われる長い儀式だった。特に人は、その一月の間で身を清めていく。ゆえに、食べる物から身につける着物、とどまる部屋まで決まっていた。儀式の中には、一時的に神獣と離れている期間もある。三日程、水天と離れて過ごして、神雷はなんともいえない寂しさを味わっていた。
(必要な儀式とわかっているが、彼に会えないのは辛いな……)
それでもこの一月を終えれば、水天が真に神雷の伴侶になると思うと、嬉しかった。
(儀式を終えたら、また彼にたらふく美味い物を食わせよう)
美味しい物を食べている時の彼は、目を輝かせ、子供のように無防備でかわいかった。
(それに、新しい着物も贈ろう)
彼の好みを尊重して、地味な色味の物ばかりを揃えていた。しかし、神雷としては、もう少し色のついた物を彼に着て欲しかった。耳飾りや、髪飾りなども贈りたい。
(それから、庭を散策しよう)
神獣宮の庭は広く、一年を通して楽しめるように工夫されていた。水天と歩いて庭を愛でれば、きっと庭師達も喜ぶ。
(楽しみな事ばかりだ……)
水天のいない部屋で、神雷は目を閉じて彼との未来を夢見た。
けれど不意に、寒気がする。
(……彼が、ある日突然いなくなって、私は耐えられるだろうか……)
想像するだけで、脈が乱れる。
(異邦人を、この世界に留める方法は……必ずあるはずだ……私にならできる……私は神獣なのだから……)
けれど、力が万全ではない神雷には、その手段を思いつく事が出来なかった。神気をの薄い神獣はただの地を這う獣と同じである。強い神気をまとう事で、力を得て、この世の理の多くを理解するらしい。
(焦るな……答えは私の中にある……今は、力を蓄積する事に集中するべきだ……)
神雷は乱れた心を落ち着けて、再び水天との明るい未来を夢想した。
■
神獣宮の奥の部屋に用意された祭壇で、最後の婚礼の義は行われた。白の着物に着飾った神雷と、同じく白の着物を来た水天は隣あって座り、祭職の神官の言葉を聞いている。古い言葉なのか、彼の言う祝詞の意味は一切理解する事は出来なかった。二人は柵の向こうにある祭壇の中に入っていた。祭職の神官達はみな、柵の向こうにいる。柵の中は左右にとても広かった。その奇妙な空間の大きさを最初疑問に思っていたのだが、しばらくして理由がわかった。神殿には必ず、巨大な龍の彫り物を飾る場所があった。そこが、神殿内の祭壇の中だった。そして、この神殿には本物の神獣がいる。つまり、この広い空間は本来、龍になった神獣が横になる場所なのだろう。
左右に置かれた松明がパチパチと燃えるのを見ながら、水天は神雷の様子を横目に見る。久しぶりに会った彼は、真っ白な婚礼の衣装を着て、より一層美しく輝いていた。他人を寄せ付けない美しさに磨きがかかっている。
「神と人の永久の誓いをここに」
不意に聞こえた声に、水天は神官を見る。
「誓う」
隣で神雷の重々しい声が聞こえる。
「ち、誓います」
水天も慌てて答えた。最後にこんな問答があるから、『誓う』と答えるように言われていた。
二人は立ってゆっくりと祭壇を出る。左右に立ち並んだ神官達が膝を折って頭を下げていた。前を行く神雷の神々しさに、水天は目を細めた。今でも、自分に起きている事が夢のようだと思う時があった。
***
婚礼の衣装を脱いで、食事を終えた後、風呂に入った。神獣の婚礼は親族や友人が集まるわけでないらいしく、終始静かに儀式は終えた。
そして、水天は寝床の上に座っていた。
「すっごい磨かれた……」
この一月、かなり念入りに手入れされていたのだが、今夜は特に丁寧だった。一本のムダ毛も許さない徹底ぶりである。
「ちょっと……疲れたな……」
体力には自信があるのだが、気疲れしたようだ。
部屋の中は、甘い花の良い匂いがする。
「神雷まだかな……」
ここにいる事に不安はある、けど神雷と会いたくなる気持ちも嘘ではなかった。
シーツの上で指をぐるぐると動かす。
(俺がもう少しまともな奴だったら、こんな風に考えなくても良かったのかな……それとも、神雷がただの蛇だったら……)
しかしそれだと、腕に抱く事は出来ても、体を覆うように抱きしめて貰えない事に気づいた。
(一長一短か……)
お互いにただの人だったら、神雷と苦も無く愛し合えたかもしれない。しかし仮に神雷が役人だったら、利も無く水天を愛す事は無かっただろうと思った。
「ふぅ……」
(結婚前は憂鬱になるって言うけど……それかな……)
どうも最近、考えが暗くなりがちだった。
扉の開く音がする。顔を上げると、神雷がゆっくりとこちらに歩いて来るのが目に入った。
「またせたな」
「うんうん」
寝台の横に立つ神雷を、見上げる。やはり彼は、以前にも増して輝いている。
「なぁ、なんか光が増してないか?」
尋ねると、神雷が目を細める。
「それはおまえの方かと」
「え」
眩しそうに見られて、水天は自分の体を見下ろした。特に神雷のように光ってはいなかった。
「あぁ、おまえ自身には見えない光なんだな」
「え、なに、俺って光ってんの?」
「私にはそう見える。以前から、ほんのり光っているようには見えていたんだが、今は内側から輝いているのがわかるぞ」
水天は意味がわからず、首を傾げる。すると、神雷がくすくすと笑う。
「私も人が光るのを見たのは初めてだ。しかし、神獣の伴侶となる者は、神獣には輝いて見えるらしい。おまえは、婚礼の義を終えて体についた穢れを全て祓ったおかげで、より一層輝きが増したのだろう。曇った鏡を磨いたようなものだ」
「……あの儀式って、意味があったのか……」
冷たい水につけられたり、生魚を食べさせられたり、長々と何かの文字を筆で書かされたりしたのに、耐えたかいがあったようだ。
神雷が隣に座り、水天の瞼に触れて頬を撫でる。
「顔色も良いな」
規則正しい生活をきっりと守らされていたので、おそらく人生で今が一番健康だろう。
「けど、おかげでちょっと筋肉が落ちちゃった……」
婚礼の儀の間、運動を制限されていた。
「それは少し残念だな……儀式が終わった後は、好きに走り回って良いぞ」
「そっか……」
しかし、水天は首を傾げる。
「儀式って終わったんじゃないのか?」
確か、結婚式は終わったはずである。神雷が、水天の目をじっと見つめて来る。その熱っぽい目に、これから行われる事が予想された。そして、彼の目が語る事が答えだった。
「あ……もしかして……これも、儀式の一つなのか……」
「然り」
神雷の手が水天の着物の帯を解く。儀式の間、一月間、彼との触れ合いは極力減らされていた。たまに合って手を触れ合うくらいだった。
「儀式とわかっていたが、この一月は辛かったぞ……」
ぱさりと水天の着物が落ちた。水天も、どぎまぎしつつ神雷の着物の帯をひっぱる。袂を左右に開いて、肩から落とす。久しぶりに見る、神雷の裸に水天は顔が熱くなった。
(あ、相変わらず綺麗な体をしている……)
「なぜ、目を反らすんだ」
「いや、だって、恥ずかしくて……」
直視できずに、視線が泳ぐ。
すると神雷が笑って、水天を引き寄せてキスをした。
「ん……」
久しぶりのキスに、頭の中がとろけていくのを感じた。
寝台に寝かされて、丁寧な愛撫を受ける。
「うぅ……っ、はぁ、んん……」
最中に、以前より大きな声が出るようになってしまった。
(気持ちいいけど、恥ずかしい……)
首にキスを落とされながら、下半身のあれを刺激されて身悶える。
「はぁ……」
しかし、逝く前に手が離される。
「……?」
とびきりの快感をお預けされて、水天は首を傾げる。
神雷が小瓶を取り出して、手に何かを塗っている。
(なんだろアレ……)
「今日は、こちらを使う」
濡れた指が下半身に伸ばされる。開かれた股の男根を通り過ぎ、お尻に触れた。
(ひっ!)
指はぐにぐにとお尻を押している。
「な、なぁ、もしかして、そこに入れるとか言わないよな!?」
「入れるつもりだが」
(おわあああああ!!!!)
なんとなく、男同士がどうやるのかの知識はあった。しかし、神雷とそこまでいくとは思っていなかった。
(なんて言うか神様だし???? そこまで求められないだろうと思ってたな!!!!!?)
「大丈夫、ゆっくりやるから……」
指がぐにっと中に入って来るのを感じた。
「ん!?」
しかし、思ったより痛くない。
「先程付けた薬は、痛みを緩和する作用がある」
「そ、そっか……」
指は奥まで入ったが、確かに痛くない。
(よ、よかった……)
しばし、中で指がぐにぐに動く。
(ん……?)
目を閉じて、中が解されるのを耐えていると、下腹部に違和感が滲んで来る。
(んん……?)
指が動く度に、何故か触れていないペニスがピクピク反応している。更に、玉袋にもくすっぐたさを感じる。
「……ふぅ……」
(なんだこれ……)
指が中で少し動いているだけなのに、下腹部の奥に妙なうずきを感じる。
「痛くはないか」
神雷が、水天の頬を撫でる。
「い、痛くはないけど……」
妙な感じがした。
「少し余裕が出て来た、指をもう一本増やすぞ」
「うぅ……」
水天は唸りながら、それに同意した。
その後も、ゆっくりと丁寧に中を解された。神雷は最初に言った通り、急ぐ事は無かった。
(な、なんかこれ……ヤバいかも……)
三本目の指が入る頃には、水天は寝台の上でぐったりしてしまっていた。ここまで来ると、さすがに水天も、自分の体の反応を認めるしかなかった。水天は、中をいじられるたびに、快楽を感じている。強い刺激では無いのだが、射精と違いすぐに逝くわけでも無いので、快楽は体の中に蓄積された。
指が引き抜かれる。その事に、少し寂しさを覚える。
「そろそろ、私も我慢の限界だな」
ぼんやりと神雷を見ていると、彼のものがお尻に押し当てられるのを感じた。
(は、入るのかな……)
恐怖はあったが、同時に彼の物を内側に受け入れる事に興奮もしていた。
目をぎゅっと閉じる。
ぐっと、押し当てられたモノが、あまり抵抗も無く入って来た。それだけ、しっかりと準備がされていたと言う事だろう。
「ふあっ……」
神雷のモノで押し広げられる度に、体がぞくぞくする。お腹から背中へ、快楽が響いていく。
「っ……」
ぐっと、奥に突きたてられる。
「よかった、全部入ったよ」
「はぁ、はぁ……」
お腹全体に彼のモノがみっちり入っているのを感じた。神雷が、お腹から胸まで、ぴたりと体をくっつけて水天の頬にキスをして来る。
「水天、愛している……私と、これからも先もずっと一緒にいてくれ」
水天は神雷の背を抱く。
「あぁ……」
彼への愛しさで胸がいっぱいになるのを感じながら、抱きしめ返した。
つづく
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