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水天の家の前で、神雷は目を見開いた。山に降り立つと、水天の気配が無かった。慌てて家まで尋ねて行くと、彼と夕星が住んでいた家は土砂で流されて崖下に流れ落ちてしまっていた。かろうじて畑の跡地があったので、ここが水天の家のあった場所なのだとわかった。
水天の死を想像して、血の気が引く。しかし、跡地の側に建てられた看板を読んで最悪の自体は免れた事に気づいた。
「都か……」
神雷は憂鬱な気持ちになった。都は、神雷にとってあまりいい思い出のある土地では無い。
「……彼が待っている、行かなければ……」
空に飛び立ち、水天のいる都に向かった。早く彼に会って、慰めてやりたかった。
***
水天は、庭掃除をしていた。青嵐の家は広く、庭もとてつもなく広い。なので、毎日掃いても掃いても終わらなかった。白蛇がいない日々には、少しずつ慣れた。慣れるしかなかった。彼の事を考えないようにして、水天は日々をやり過ごしていた。
「ふぅ……後で焼き芋でもしようかな」
「それは良いな」
独り言に、誰かが返事した。けれど、その声には聞き覚えがある。
「!」
振り返ると、陽の光に照らされた白蛇が立っていた。
「水天、会いたかったぞ!」
彼が歩幅の一歩で、水天の間近に迫り両肩を握って来る。
「家が無くなっていたので驚いた。怪我は無かったか?」
久しぶりに会う白蛇は、相変わらず白い肌が綺麗で、髪も艶めいて美しかった。しかし、それだけでなく以前より大きくなったように見える。
「あぁ、とにかく君に会えて良かった!」
逞しい腕に抱きしめられると、彼の厚い胸板があたった。
(たった、一年でこんなに変わるものだろうか……神様だからか……?)
逞しくなった彼に、水天は自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。
「水天、どうした?」
何も言わない水天に、白蛇が首を傾げる。
「……っ」
何か言おうと口を開いたが、涙が溢れて声が出なかった。我慢していたモノこらえられなくなった。
「……っ……」
すぐに腕で涙を拭ったが、次から次に溢れて来る。
「すまない……また、怒らせてしまったか……?」
水天は慌てて首を横に振る。
「おこって……ない……」
「では、どうして泣いているんだ……」
白蛇が水天の頬に触れる。声が震える。水天は涙を拭って、必死に彼を見た。彼が消えてしまわないように。
「う、うれしくて……」
「うれしい……」
「あいに……きて、くれたのが……」
白蛇に頬にキスをされた。
「ありがとう。私も君に会えて嬉しい」
頬を両手で包まれて、白蛇と見つめ合う。彼は、とても美しく輝いて見えた。眩しくて、思わず目を細める。
目を細めると、視界が涙で滲んで見えなくなる。その時、歪んだ視界で彼が近づいて来たのがわかった。
ふにっと、唇に何か当たった。突然の事に驚く。その後も、何度もふにふにと唇が当たる。
「ん……!」
びくっと体を震わせて逃げようとしたら、唇に柔らかい物が入って来た。
「んん!」
後頭部を押さえられて、腰を引き寄せられる。逃げられず、柔らかいものは水天の口の中をゆっくりと撫でていった。
そして、下唇を吸って彼の唇は離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
滲んだ視界を拭って、白蛇を見る。すると彼は頬を赤くしていた。
「すまない……今はこの段階ではなかったな……せっかく本を読んで勉強したのに……」
彼は小さい声でブツブツ言っている。
水天は唇を押さえたまま、白蛇をじっと見る。顔が熱い、体も熱い。
(俺、今、白蛇にキスされたよな?)
混乱しつつ、自分の身に起きた事を考えた。
(な、なんで?)
そこで、蛇の姿の時にキスされた事があったのを思い出す。
(あ、あの時のコミュニケーションの一貫なのかな……そ、そうだよな……そうに決まってる……へ、変な反応しないようにしないと……)
水天は乱れた息を整えながら、目を伏せる。
「水天、こちらを見てくれないか」
「だ、だめ」
今、彼の綺麗な顔を見たらまた心臓が早くなってしまう。
「どうして……?」
悲しそうに、白蛇が言う。
「少し、待って……」
胸を押さえて、心を落ち着ける。
「なに……?」
白蛇の顔を見る。
「……私は君に聞いて欲しい事があるんだ」
水天を見下ろしていた白蛇が膝をつき、水天の右手を取る。
「?」
彼を見下ろすのは、新鮮な気分だった。白いまつ毛に縁取られた赤い目が、少しうるんでいる。
「私は君が好きだ。私の花嫁になって欲しい」
綺麗だなと、思って見ていたので、反応が遅れた。
「?」
水天は首を傾げる。
(『はなよめ』ってなんだっけ……はなよめ……花嫁!?)
「え、えええええええええ!!!!!!?」
「嫌か?」
奇声をあげる水天に、白蛇は首を傾げる。
「ま、まって、どういう事!?」
水天は確かに白蛇の事が好きだが、まさか白蛇に告白されるとは思っていなかった。
「そのままだよ、君を愛しているから一緒に居たいと言っているんだ」
白蛇が頬を赤くして、嬉し気に笑みを浮かべる。
水天は、再び顔が熱くなって来るのを感じた。混乱で、頭の中が騒がしい。
「君は私の事をどう思っているんだい?」
白蛇が見上げて、尋ねて来る。
「そ、それは……その……好きだけど……」
耐えきれず、目を閉じて告白した。途端、びゅわっと空を切る音がして抱きしめられる。
「すごい、両想いじゃないか! やっぱり、私の感じた事は間違っていなかったんだ!」
目を開けて、彼の言葉に首を傾げる。
「君と私は、想いが通じあってるって、ずっと信じてたんだ」
赤い瞳が真っ直ぐ、水天を見ている。水天は、その瞳を魅入られたように見つめ返す。確かにそれは、あの時、まだ彼が蛇で、水天が飼い主だった頃に感じたものだった。
「うん……通じ合ってる……」
彼が顔を近づけて来る。キスをされるとわかった。けれど、今度は抵抗せずに受け入れた。
つづく
水天の家の前で、神雷は目を見開いた。山に降り立つと、水天の気配が無かった。慌てて家まで尋ねて行くと、彼と夕星が住んでいた家は土砂で流されて崖下に流れ落ちてしまっていた。かろうじて畑の跡地があったので、ここが水天の家のあった場所なのだとわかった。
水天の死を想像して、血の気が引く。しかし、跡地の側に建てられた看板を読んで最悪の自体は免れた事に気づいた。
「都か……」
神雷は憂鬱な気持ちになった。都は、神雷にとってあまりいい思い出のある土地では無い。
「……彼が待っている、行かなければ……」
空に飛び立ち、水天のいる都に向かった。早く彼に会って、慰めてやりたかった。
***
水天は、庭掃除をしていた。青嵐の家は広く、庭もとてつもなく広い。なので、毎日掃いても掃いても終わらなかった。白蛇がいない日々には、少しずつ慣れた。慣れるしかなかった。彼の事を考えないようにして、水天は日々をやり過ごしていた。
「ふぅ……後で焼き芋でもしようかな」
「それは良いな」
独り言に、誰かが返事した。けれど、その声には聞き覚えがある。
「!」
振り返ると、陽の光に照らされた白蛇が立っていた。
「水天、会いたかったぞ!」
彼が歩幅の一歩で、水天の間近に迫り両肩を握って来る。
「家が無くなっていたので驚いた。怪我は無かったか?」
久しぶりに会う白蛇は、相変わらず白い肌が綺麗で、髪も艶めいて美しかった。しかし、それだけでなく以前より大きくなったように見える。
「あぁ、とにかく君に会えて良かった!」
逞しい腕に抱きしめられると、彼の厚い胸板があたった。
(たった、一年でこんなに変わるものだろうか……神様だからか……?)
逞しくなった彼に、水天は自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。
「水天、どうした?」
何も言わない水天に、白蛇が首を傾げる。
「……っ」
何か言おうと口を開いたが、涙が溢れて声が出なかった。我慢していたモノこらえられなくなった。
「……っ……」
すぐに腕で涙を拭ったが、次から次に溢れて来る。
「すまない……また、怒らせてしまったか……?」
水天は慌てて首を横に振る。
「おこって……ない……」
「では、どうして泣いているんだ……」
白蛇が水天の頬に触れる。声が震える。水天は涙を拭って、必死に彼を見た。彼が消えてしまわないように。
「う、うれしくて……」
「うれしい……」
「あいに……きて、くれたのが……」
白蛇に頬にキスをされた。
「ありがとう。私も君に会えて嬉しい」
頬を両手で包まれて、白蛇と見つめ合う。彼は、とても美しく輝いて見えた。眩しくて、思わず目を細める。
目を細めると、視界が涙で滲んで見えなくなる。その時、歪んだ視界で彼が近づいて来たのがわかった。
ふにっと、唇に何か当たった。突然の事に驚く。その後も、何度もふにふにと唇が当たる。
「ん……!」
びくっと体を震わせて逃げようとしたら、唇に柔らかい物が入って来た。
「んん!」
後頭部を押さえられて、腰を引き寄せられる。逃げられず、柔らかいものは水天の口の中をゆっくりと撫でていった。
そして、下唇を吸って彼の唇は離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
滲んだ視界を拭って、白蛇を見る。すると彼は頬を赤くしていた。
「すまない……今はこの段階ではなかったな……せっかく本を読んで勉強したのに……」
彼は小さい声でブツブツ言っている。
水天は唇を押さえたまま、白蛇をじっと見る。顔が熱い、体も熱い。
(俺、今、白蛇にキスされたよな?)
混乱しつつ、自分の身に起きた事を考えた。
(な、なんで?)
そこで、蛇の姿の時にキスされた事があったのを思い出す。
(あ、あの時のコミュニケーションの一貫なのかな……そ、そうだよな……そうに決まってる……へ、変な反応しないようにしないと……)
水天は乱れた息を整えながら、目を伏せる。
「水天、こちらを見てくれないか」
「だ、だめ」
今、彼の綺麗な顔を見たらまた心臓が早くなってしまう。
「どうして……?」
悲しそうに、白蛇が言う。
「少し、待って……」
胸を押さえて、心を落ち着ける。
「なに……?」
白蛇の顔を見る。
「……私は君に聞いて欲しい事があるんだ」
水天を見下ろしていた白蛇が膝をつき、水天の右手を取る。
「?」
彼を見下ろすのは、新鮮な気分だった。白いまつ毛に縁取られた赤い目が、少しうるんでいる。
「私は君が好きだ。私の花嫁になって欲しい」
綺麗だなと、思って見ていたので、反応が遅れた。
「?」
水天は首を傾げる。
(『はなよめ』ってなんだっけ……はなよめ……花嫁!?)
「え、えええええええええ!!!!!!?」
「嫌か?」
奇声をあげる水天に、白蛇は首を傾げる。
「ま、まって、どういう事!?」
水天は確かに白蛇の事が好きだが、まさか白蛇に告白されるとは思っていなかった。
「そのままだよ、君を愛しているから一緒に居たいと言っているんだ」
白蛇が頬を赤くして、嬉し気に笑みを浮かべる。
水天は、再び顔が熱くなって来るのを感じた。混乱で、頭の中が騒がしい。
「君は私の事をどう思っているんだい?」
白蛇が見上げて、尋ねて来る。
「そ、それは……その……好きだけど……」
耐えきれず、目を閉じて告白した。途端、びゅわっと空を切る音がして抱きしめられる。
「すごい、両想いじゃないか! やっぱり、私の感じた事は間違っていなかったんだ!」
目を開けて、彼の言葉に首を傾げる。
「君と私は、想いが通じあってるって、ずっと信じてたんだ」
赤い瞳が真っ直ぐ、水天を見ている。水天は、その瞳を魅入られたように見つめ返す。確かにそれは、あの時、まだ彼が蛇で、水天が飼い主だった頃に感じたものだった。
「うん……通じ合ってる……」
彼が顔を近づけて来る。キスをされるとわかった。けれど、今度は抵抗せずに受け入れた。
つづく
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