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***
神獣宮の最高責任者、礼英は神雷の前に膝をついて礼を行った。
「神雷様、ご機嫌麗しゅうございます。近頃は、実に健やかなご様子で神官一同安心しております」
神雷は背筋を伸ばし、胸を張った堂々たる姿勢で神座に座っている。その威厳のある神々しさに、礼英は胸を奮わせる。最近の彼は一日経つ事に、立派な神獣へと成長していっている。
「ユイハン村から、神雷様への献上品が届いております。是非、ごらんください」
部屋の中に宝飾品と、艶々と瑞々しい作物が運びこまれる。神雷はそれを見て頷く。
「では、神獣様を崇拝するユイハン村に祝福をお授けくださいませ」
礼英の差し出した木の札に、神雷が触れる。その瞬間、木の札に神々しい光が宿る。
「おぉ……まことに、ありがとうございます」
以前よりも神気の増した神雷は、札に大きな加護の力を与えていた。おそろくこの札を祀った村は、今年豊作が約束されるだろう。
ふと、華明の視線を感じる。そろそろ退出しなさいと言う視線だった。
「お疲れの事でしょう。 では、私はこれで失礼します。またの面会を楽しみにしております」
深々と礼をして、礼英は立ち上がる。
「礼英」
不意に聞き慣れない声が聞こえた。
顔をあげると、神雷が真っ直ぐにこちらを見ている。
「ご苦労だった」
彼の形の良い唇が動いて声を発した。
ぽかんとした顔で固まってしまう事数秒、礼英はすぐに再び礼をする。
「はっ、ありがたきお言葉恐縮でございます!」
初めて聞いた神雷の声は、とても耳に心地よく、彼の神々しさをより引き立たせた。
彼がまた一歩、尊き神獣へと近づいたのだと礼英は知り、感動に打ち震えた。
***
華明は、神雷の長く美しい絹のような髪を櫛でとかす。
「神雷様、今日はどうなさいますか」
「言葉の授業をもっとしたい」
彼は本を読みながら答える。神雷が人型になって一月経つが、彼はみるみる成長をしていった。最初は生まれた赤子同然で歩くのもままならなかったと言うのに、今は一人で歩き、簡単な会話をできてしまう。歴代の記録では、神獣は成長の早い生き物だとされている。笛を習わせれば、一ヶ月で師範を超え、三ヶ月で国一の笛の名手となったらしい。
「最近は、お出かけにならないのですね」
華明が尋ねると、神雷がピタリと止まる。
「恩人に会いに行かなくても良いのですか?」
彼のこの急速な頑張りには、その恩人が関係しているのは間違い無かった。しかし、二週間以上神雷は外に出ていない。体を鍛え、言葉を覚える事に執心している。
「……喋れないのは不便だ」
彼は喉に手を当てる。
「もっと、人間らしくならなければ……」
鏡に映る神雷は、苦悩の表情をしていた。最近は、以前よりも表情も生き生きとしている。彼が人を観察して学んだのだろう。
「そろそろ一度、会いに行かれたらどうですか? 人の命は短いのですよ。過去の神獣様は、また会いに来ると約束した友人に五十年後に会いに行ったそうですから」
神雷の肩がぶるりと震える。
「あれから、どれくらい経った」
「ニ週間ほどです。種をまいた花の種が、芽を出すぐらいの時間の経過ですね」
神雷が立ち上がる。
「恩人に会いに行く」
「では、お土産を用意しますね」
華明は、月餅と言うお菓子を木箱に詰めて薄紫色の布で包み神雷に持たせた。
つづく
神獣宮の最高責任者、礼英は神雷の前に膝をついて礼を行った。
「神雷様、ご機嫌麗しゅうございます。近頃は、実に健やかなご様子で神官一同安心しております」
神雷は背筋を伸ばし、胸を張った堂々たる姿勢で神座に座っている。その威厳のある神々しさに、礼英は胸を奮わせる。最近の彼は一日経つ事に、立派な神獣へと成長していっている。
「ユイハン村から、神雷様への献上品が届いております。是非、ごらんください」
部屋の中に宝飾品と、艶々と瑞々しい作物が運びこまれる。神雷はそれを見て頷く。
「では、神獣様を崇拝するユイハン村に祝福をお授けくださいませ」
礼英の差し出した木の札に、神雷が触れる。その瞬間、木の札に神々しい光が宿る。
「おぉ……まことに、ありがとうございます」
以前よりも神気の増した神雷は、札に大きな加護の力を与えていた。おそろくこの札を祀った村は、今年豊作が約束されるだろう。
ふと、華明の視線を感じる。そろそろ退出しなさいと言う視線だった。
「お疲れの事でしょう。 では、私はこれで失礼します。またの面会を楽しみにしております」
深々と礼をして、礼英は立ち上がる。
「礼英」
不意に聞き慣れない声が聞こえた。
顔をあげると、神雷が真っ直ぐにこちらを見ている。
「ご苦労だった」
彼の形の良い唇が動いて声を発した。
ぽかんとした顔で固まってしまう事数秒、礼英はすぐに再び礼をする。
「はっ、ありがたきお言葉恐縮でございます!」
初めて聞いた神雷の声は、とても耳に心地よく、彼の神々しさをより引き立たせた。
彼がまた一歩、尊き神獣へと近づいたのだと礼英は知り、感動に打ち震えた。
***
華明は、神雷の長く美しい絹のような髪を櫛でとかす。
「神雷様、今日はどうなさいますか」
「言葉の授業をもっとしたい」
彼は本を読みながら答える。神雷が人型になって一月経つが、彼はみるみる成長をしていった。最初は生まれた赤子同然で歩くのもままならなかったと言うのに、今は一人で歩き、簡単な会話をできてしまう。歴代の記録では、神獣は成長の早い生き物だとされている。笛を習わせれば、一ヶ月で師範を超え、三ヶ月で国一の笛の名手となったらしい。
「最近は、お出かけにならないのですね」
華明が尋ねると、神雷がピタリと止まる。
「恩人に会いに行かなくても良いのですか?」
彼のこの急速な頑張りには、その恩人が関係しているのは間違い無かった。しかし、二週間以上神雷は外に出ていない。体を鍛え、言葉を覚える事に執心している。
「……喋れないのは不便だ」
彼は喉に手を当てる。
「もっと、人間らしくならなければ……」
鏡に映る神雷は、苦悩の表情をしていた。最近は、以前よりも表情も生き生きとしている。彼が人を観察して学んだのだろう。
「そろそろ一度、会いに行かれたらどうですか? 人の命は短いのですよ。過去の神獣様は、また会いに来ると約束した友人に五十年後に会いに行ったそうですから」
神雷の肩がぶるりと震える。
「あれから、どれくらい経った」
「ニ週間ほどです。種をまいた花の種が、芽を出すぐらいの時間の経過ですね」
神雷が立ち上がる。
「恩人に会いに行く」
「では、お土産を用意しますね」
華明は、月餅と言うお菓子を木箱に詰めて薄紫色の布で包み神雷に持たせた。
つづく
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