『回復魔法店ジュン~主に男の下半身のお悩みを解決します~』

綾里 ハスミ

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 レメイ = イスタルは平凡な男である。昔から腕っぷしには自信があったので、成人したらそのまま王宮の兵士になった。真面目な仕事ぶりを買われて、上司にも可愛がられ、部下達もよく慕ってくれた。二年前に六才も下のかわいい妻を貰って、幸せな結婚生活を送っていた。しかし、一つだけ彼には悩みがあった。
 子供が出来なかったのである。
 その原因は、レメイがどうしても夜のお勤めに励めなかったからだ。若い時はちょっとした事で勃っていた気がするのだが、二十代後半になってから、その反応は鈍くなった。新妻の瑞々しい素肌を見てもピクリとも反応を示さない自分の下半身が情けない。それで、いろいろと薬や治療に手を出していたのだが、全く効果が得られなかった。そんな時、なんと偶然にも王宮にその手の治療をする回復師が通っている事に気づいてしまった。
 『回復魔法店ジュン』は、この手の悩みを持つ男達の間で有名な店である。店に行って治療を受ければ、どんな男もテキメン効果が出るらしい。七十の爺さんですら、元気にしてしまったのだとか。人気店なので予約がとれず、三年先まで予約が埋まっていると言われた。
 そんな素晴らしい技術を持った回復師が城内に来ていたので、レメイはお願いして治療をして貰った。
 彼は城に来る度にレメイの治療をしてくれて、おかげでレメイの妻はこのたびめでたく懐妊したのだった。
 今朝も機嫌よく妻にキスをして、家を出て来た。王宮に入り、鎧に着替えて持ち場に向かった。しかし、今日はどうも様子がおかしい。ひそひそと話している兵士の一人に声をかける。
「おい、どうしたんだ。何かあったのか?」
「実は、陛下が人探しをされているんだ」
「人探し?」
 アルビオ陛下はまだ年若いが、思慮深い方なのでこれまで事件を起こした事がない。
「城に通っていた回復師らしい」
 レメイはとたんに、回復師ジュンの顔が思い浮かぶ。
「回復師だなんて……陛下は何か持病がおありなのか……?」 
 城の大半の人間は、王様が勃起不全で悩んでいる事を知らない。跡継ぎが出来ないとなれば、王位継承者としていろいろと問題が生じるからである。
「今朝は、側室と喧嘩なさっていたそうよ。陛下はいったい、どうなさったのかしら」
 途中から会話に混ざって来た給仕の女が不安そうな顔をする。
 何かただならぬ事が起きているのは確かのようだった。レメイはその場を離れて、ここしばらくのジュン先生の事を考えた。ジュン先生は、以前は一週間に一度程王宮に通っていたが、途中から週に三日になり、最近は週に五日は通って来る程頻繁に王宮に出入りしていた。レメイはジュン先生と会った時は、体調の経過報告を行っていたのだが、その際に彼の近況も少し聞いていた。      
『今日は、お昼ごはんを食べに来ただけですよ』
 王宮にお昼ごはんを食べに来るだけの人間などいるだろうか。それは、王様がジュン先生をとても気に入って、治療だけでなく、友人として付き合っていた証拠だろう。
(ジュン先生は昨日から行方不明なのか……?)
 レメイは、足早に廊下を歩き、訓練場に向かった。そこでは、大きな男が弓を引いて、訓練をしている。彼は、王様の部屋近くを警護する兵士だった。
「カミーノ、ちょっと良いか?」
 声をかけると、大男はゆっくりとレメイの元にやって来る。
「どうした」
「ジュン先生の事だよ」
 声をひそめて言う。すると、カミーノは片眉をあげて、顔を近づけて来た。
「行方不明らしいな」
「そうなんだよ、おまえは何か知らないか?」
 実はこのカミーノも、ジュン先生に世話になった男だった。以前、店に通院して食事改善を行う事で無事勃起不全が完治したらしい。
「実は、ジュン先生が行方不明になったのは、三日も前の事なんだ」
 カミ―ノが眉根を寄せて言う。
「そ、そんなに経っているのか!?」
「俺が警備に付いている時に、陛下の部屋から出て行く姿を見たのが最後のようだった……その時、どうも陛下と喧嘩されていたようなのだが……」
「喧嘩した相手を、陛下は探していらっしゃるのか……? もしかして治療に問題があって、その事で罰を受けない為に身を隠したとか……」
「いや、それは無いんじゃないか」
 口に出した後、レメイもそう感じた。ジュン先生の回復魔法の効果は絶大である。罰を受ける程の失敗など、する可能性は低い。
「じゃあ、なんで行方不明なんだ……」
「……関係あるかわからないが、実はジュン先生が行方不明になった日、側室のイネス = バケーロが陛下の部屋に入って行くのを見たんだ」
「側室は王の部屋に立ち入ってはならない決まりになっていたはずだろう……?」
 王が側室を部屋に入れない決まりについては、一部の兵士にのみ命令されていた。兵士は王の部屋の近くで側室を見つけたら、彼女達を止める必要があった。
「……不思議なんだが、あの女に遠くから見つめられた後、しばらく体がすくんで動かなくなったんだ……恐ろしい女だ……」
 大男を視線だけで射殺す女に寒気がする。
「て事は……ジュン先生は三日前に行方不明になって、それに側室のイネス = バケーロが関わっている可能性が高いと言う事か……」
「はっきりとは言えない。実は陛下も、イネスを疑って彼女の身辺を探っているんだ……だが、あの女の部屋を探してもジュン先生は見つからなかったらしい」
「えっ、見つからなかったのか!」
 カミーノが頷く。
「だが俺は、やはりあの女が怪しいと感じている」
「俺もそうだ……ちっと、他の連中にも声をかけてみるか」 
 この国に、ジュン先生に感謝をしている男達は沢山いた。


つづく

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