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今日も昼間にアルビオルに呼ばれて向かうところだった。最近は一緒に昼食をとって、それから少しソファでイチャイチャしてするのが恒例となっている。廊下で口元が緩んでしまいそうなのを必死に我慢した。アルビオルに好かれている事に喜びを感じる自分と、王様とこんな関係になってしまって大丈夫なのか!?と慌てる自分がいた。それでもジュンは、アルビオルの誘いを断る事はできなかった。ジュン自身も、彼に毎日だって会いたかったからだ。
「あら先生」
不意に声をかけられて、慌てて視線をあげる。
「何か良い事でもあったのかしら。とっても楽しそうな顔をしているわよ」
側室のイネス = バケーロが、妖しげな笑みを浮かべている。
「そ、そんな事はないですよ!」
ジュンは口を引き結ぶ。
「ふふっ……」
イネスは色気のある掠れた声で笑う。
「……陛下の治療は上手くいっているのでしょう?」
イネスは確信を得ているように笑みを浮かべて尋ねて来る。
「そ、それは……」
「まさか三ヶ月もかかって、成果の出ない治療をしているなんておっしゃらないでしょう? あの宰相様が、そんな怠慢を許すとは思えませんし」
ジュンは俯く。それは事実だ、アルビオルはもはや回復魔法をかけなくても勃起する事が可能になっていた。
「それなら、閨事も解禁しても良い頃合いよね?」
ジュンは言葉を選びながら、口を開く。
「いえ……しかし、これは繊細な問題です……事を急いで、また陛下が不能になってしまっては、意味が無いのです……」
以前、宰相にしたのと同じいいわけをする。
「ふっ、でも陛下は貴方と随分お楽しみのようですけど」
皮肉を込めた言葉にはっとする。
「貴方……陛下の愛人になったのでしょう」
ジュンは冷水を浴びせられたように、体が冷たくなっていくのを感じた。
(し、知られていた)
「随分優れた手練手管をお持ちのようね。あの陛下を骨抜きにするなんて」
呆然としてる間にイネスが近づいて来て、ジュンの顎に触れる。
「是非、私もご教授願いたいわ」
体に蛇が絡みつくような感覚と、熟れ過ぎた果実のような匂いがした。強い視線に縫い止められ、頭がぐわんと揺れる。危険だとわかっているのに、動く事が出来ない。女の顔が近づいて来てジュンにキスをした。唇が触れた瞬間、まるで鋭いトゲに刺されたような痛みがあった。同時に全身が何かに締め付けられる。
「陛下の準備を整えなさい。終わったら、私を呼びなさい。わかったわね」
暗くなった視界、頭の中に女の声が響いた。
ジュンは気づくと、ぼうっと廊下に立っていた。
「あれ、なんで僕、こんなところに……」
額を押さえて、窓の向こうの空を見る。
「あ、そうだ。アルビオルのところに行かなきゃ」
ジュンは慌てて、彼の部屋に向かって歩き始めた。最近、診療所の仕事と城の仕事が重なって、疲れているのだろうかと思った。
アルビオルの部屋に行くと、部屋には既に食事の用意がされていた。大きなカーペットの上に大皿が置かれ、こんもりと料理が盛られている。
「遅いぞジュン!」
「ごめん、ごめん」
ジュンも絨毯の上に座る。
「では、いただくぞ」
ボールに入った水で手を良く洗ってから、ジュンも食べ始めた。ここは手掴みで食べる文化だった。
コーンといんげん豆と玉ねぎパセリの入ったサラダを、指先で掴んで食べる。最初は手づかみで食べる事に戸惑ったが、もう最近は慣れて来た。
「ん、美味い」
「ラム肉のシチューもあるぞ」
ナンに付けて食べると、こちらも美味しかった。料理の美味しい異世界に転移して本当に良かった。
「ジュンは本当に美味そうにたべるなぁ」
「いや、だって美味いんだもん。この国の食文化は、世界に誇って良いとおもうよ?」
食後のプリンも美味しくいただいた。生クリームがのっていて、頬が緩む。
「ジュンの顔を見ていると、余も食欲が出てしまう……」
そう言いつつ、アルビオルもプリンを食べ始める。
「アルビオルは少食だよな」
「……子供の時から一人で食事をする事が多くてな。あまり、美味いマズイと意識して食べた事はない」
「そっか……まぁ、俺ならいつでも食事に付き合うよ」
するとアルビオルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
食事後にソファに座ると、アルビオルがもたれかかって来る。頭を撫でてやると、満足そうな笑みを浮かべる。
「余は最近、思うのだが、おまえこそ余の伴侶に相応しいのではなかろうか」
途端に頭がズキンと痛む。
「伴侶とは生涯を共に歩む者なのであろう? 余の両親も仲が良かった。つまり、性格の合う者同士が伴侶になる事こそ、もっとも重要な事なのだ」
頭痛がどんどん酷くなって、こめかみを押さえて目を閉じる。
「どうした、ジュン?」
(頭が割れそうだ……)
こんなに酷い頭痛は初めてだった。痛すぎて、アルビオルに返事をする事もできない。
「アルビオル」
しかし、勝手に口が動く。
(え)
「王の理想の結婚と言うのは、対等な身分で結びつき、互いの権力をより強固にする関係性の事だよ」
アルビオルが目を見開く。
(待って! 僕は何を言ってんだ!?)
「僕だって、この関係性がずっと続けば良いと思ってるよ。けど、そうはいかないだろ?」
口と体が勝手に動いて、ジュンが思ってもいないような事を喋り続ける。
「大人にならないと」
アルビオルがジュンから離れて俯く。表情の無い、呆然とした顔をしていた。
「余だけだったのか? 愛していたのは?」
「君は勘違いしていただけだ。僕は回復師で、少し特殊な治療を行っていたから……君は好意を持ってしまったんだ。けど、それは若い体の勘違いだ。これは恋ではない。僕も君を愛してなどいない」
アルビオルが目を見開き、涙を瞳にためる。
(やめろ! アルビオルを傷つけるな!!)
必死に抵抗しても、体が言う事を聞かない。
「治療は終わった。僕たちの関係も終わりだ。君は側室との義務を果たすと良い」
そう冷たく言って、ジュンは立ち上がる。
「余を好きだと言ったではないか……あれは嘘だったのか……」
涙をためた瞳で見上げて来る。すぐにでも、抱きしめて慰めてやりたかった。
「治療の関係上、貴方を拒否しなかっただけです。歯向かえば、僕の命もありませんからね。宰相に弱み握られていましたから」
アルビオルは一際強くショックを受けたように顔を歪ませて、痛みをこらえるように胸を押さえて泣き始めた。その姿を一瞥して、僕の体は勝手に部屋から出て行く。アルビオルの泣く声を聞いた僕は、胸が張り裂けるような痛みを感じた。
長い廊下を歩いている間も、僕は知らない力に引っ張られていた。視界の端は暗く、意識を保つのもやっとだ。
僕は知らない部屋にノックもせずに入った。
「よくやりました」
部屋で待っていたのは、イネス = バケーロだった。しかし彼女は、いつもと違い全身を黒い布で覆ってはいない。それは、ここが彼女のプライベートな部屋だからだろう。派手な花柄の布地が張られたソファに、ゆったりと腰掛けている。横のサイドチェストには、大きな水晶玉があった。
「ふふっ、これできっと陛下は、私を部屋へと呼んでくれるでしょう」
そこでようやく、自分の体がこの女に操られていた事を理解した。人に害を成す魔法は、呪法と言って禁忌の技とされている。扱えば、罪に問われると師匠に聞いた事があった。だから、それゆえにジュンは呪法への対処方法を知らなかった。犯人がわかり、手段がわかっても、対処方法が無い。意識はあっても、体は相変わらず動かせない。
「さて、あなたには……牢に入って貰います。陛下に真実を告げられても困りますからね、ただ命は生かしておいて差し上げましょう。王を説得するのに、まだ使えるかもしれませんから」
イネスが左側を指差す。すると勝手に棚が右にずれて、地下への階段が現れる。
「さぁ、行きなさい」
体はイネスの命令のままに動く。しかし、それでも抗った。力と魔力で、どうにか抵抗出来ないかあの手この手を試し続ける。
「うぅ……」
唸り声がもれた。
「おやまぁ、私の命令下にありながら声を出すなんて」
イネスが片眉を上げる。
「侮れない方ですね。用心の為に戒めも付けておきましょう」
地下にある牢屋にいれられる。後ろ手に、手枷をつけられた。足枷も付けられて、跪かせられる。イネスがジュンの顎を上にあげる。
「平凡な顔。どうして陛下は貴方に興味を持ったのかしら」
爪先であごをひっかきながら、手が離れた。格子の牢屋に鍵をかけた後、イネスは一度も振り向かずに地下を出て行った。遠くで重い棚が動く音がした。
部屋は静まり返る。暗い牢屋には、明かりは一つも無い。先程はイネスのペンダントが光って明かり代わりなっていたが、今はそれも無い。真っ暗な部屋。入って来る時に見た限りでは、家具も無かった。石ブロックの敷き詰められた、ただの四角い空間だった。
「っ!」
突然、何かが体の中から押し出されていったような感覚がする。一際強い頭痛の後に、体が自由に動くようになる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
床に倒れて荒く息をする。無理やり動かされた体は、呪術が解けた後もガクガク震える。
「アルビオル……」
酷い言葉を投げつけられた彼の、傷ついた表情が脳裏から離れない。泣き叫ぶ彼の声が、まだ聞こえるようだった。
痺れる体で、腕の鎖を取ろうともがく。しかし、太い鎖は千切れそうにない。魔法を使おうとしたが、どうやらこの枷には魔力封じが行われているようだった。膝を立てて移動して、檻に体を当てる。早く、早く彼を助けに行かなければ。
つづく
今日も昼間にアルビオルに呼ばれて向かうところだった。最近は一緒に昼食をとって、それから少しソファでイチャイチャしてするのが恒例となっている。廊下で口元が緩んでしまいそうなのを必死に我慢した。アルビオルに好かれている事に喜びを感じる自分と、王様とこんな関係になってしまって大丈夫なのか!?と慌てる自分がいた。それでもジュンは、アルビオルの誘いを断る事はできなかった。ジュン自身も、彼に毎日だって会いたかったからだ。
「あら先生」
不意に声をかけられて、慌てて視線をあげる。
「何か良い事でもあったのかしら。とっても楽しそうな顔をしているわよ」
側室のイネス = バケーロが、妖しげな笑みを浮かべている。
「そ、そんな事はないですよ!」
ジュンは口を引き結ぶ。
「ふふっ……」
イネスは色気のある掠れた声で笑う。
「……陛下の治療は上手くいっているのでしょう?」
イネスは確信を得ているように笑みを浮かべて尋ねて来る。
「そ、それは……」
「まさか三ヶ月もかかって、成果の出ない治療をしているなんておっしゃらないでしょう? あの宰相様が、そんな怠慢を許すとは思えませんし」
ジュンは俯く。それは事実だ、アルビオルはもはや回復魔法をかけなくても勃起する事が可能になっていた。
「それなら、閨事も解禁しても良い頃合いよね?」
ジュンは言葉を選びながら、口を開く。
「いえ……しかし、これは繊細な問題です……事を急いで、また陛下が不能になってしまっては、意味が無いのです……」
以前、宰相にしたのと同じいいわけをする。
「ふっ、でも陛下は貴方と随分お楽しみのようですけど」
皮肉を込めた言葉にはっとする。
「貴方……陛下の愛人になったのでしょう」
ジュンは冷水を浴びせられたように、体が冷たくなっていくのを感じた。
(し、知られていた)
「随分優れた手練手管をお持ちのようね。あの陛下を骨抜きにするなんて」
呆然としてる間にイネスが近づいて来て、ジュンの顎に触れる。
「是非、私もご教授願いたいわ」
体に蛇が絡みつくような感覚と、熟れ過ぎた果実のような匂いがした。強い視線に縫い止められ、頭がぐわんと揺れる。危険だとわかっているのに、動く事が出来ない。女の顔が近づいて来てジュンにキスをした。唇が触れた瞬間、まるで鋭いトゲに刺されたような痛みがあった。同時に全身が何かに締め付けられる。
「陛下の準備を整えなさい。終わったら、私を呼びなさい。わかったわね」
暗くなった視界、頭の中に女の声が響いた。
ジュンは気づくと、ぼうっと廊下に立っていた。
「あれ、なんで僕、こんなところに……」
額を押さえて、窓の向こうの空を見る。
「あ、そうだ。アルビオルのところに行かなきゃ」
ジュンは慌てて、彼の部屋に向かって歩き始めた。最近、診療所の仕事と城の仕事が重なって、疲れているのだろうかと思った。
アルビオルの部屋に行くと、部屋には既に食事の用意がされていた。大きなカーペットの上に大皿が置かれ、こんもりと料理が盛られている。
「遅いぞジュン!」
「ごめん、ごめん」
ジュンも絨毯の上に座る。
「では、いただくぞ」
ボールに入った水で手を良く洗ってから、ジュンも食べ始めた。ここは手掴みで食べる文化だった。
コーンといんげん豆と玉ねぎパセリの入ったサラダを、指先で掴んで食べる。最初は手づかみで食べる事に戸惑ったが、もう最近は慣れて来た。
「ん、美味い」
「ラム肉のシチューもあるぞ」
ナンに付けて食べると、こちらも美味しかった。料理の美味しい異世界に転移して本当に良かった。
「ジュンは本当に美味そうにたべるなぁ」
「いや、だって美味いんだもん。この国の食文化は、世界に誇って良いとおもうよ?」
食後のプリンも美味しくいただいた。生クリームがのっていて、頬が緩む。
「ジュンの顔を見ていると、余も食欲が出てしまう……」
そう言いつつ、アルビオルもプリンを食べ始める。
「アルビオルは少食だよな」
「……子供の時から一人で食事をする事が多くてな。あまり、美味いマズイと意識して食べた事はない」
「そっか……まぁ、俺ならいつでも食事に付き合うよ」
するとアルビオルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
食事後にソファに座ると、アルビオルがもたれかかって来る。頭を撫でてやると、満足そうな笑みを浮かべる。
「余は最近、思うのだが、おまえこそ余の伴侶に相応しいのではなかろうか」
途端に頭がズキンと痛む。
「伴侶とは生涯を共に歩む者なのであろう? 余の両親も仲が良かった。つまり、性格の合う者同士が伴侶になる事こそ、もっとも重要な事なのだ」
頭痛がどんどん酷くなって、こめかみを押さえて目を閉じる。
「どうした、ジュン?」
(頭が割れそうだ……)
こんなに酷い頭痛は初めてだった。痛すぎて、アルビオルに返事をする事もできない。
「アルビオル」
しかし、勝手に口が動く。
(え)
「王の理想の結婚と言うのは、対等な身分で結びつき、互いの権力をより強固にする関係性の事だよ」
アルビオルが目を見開く。
(待って! 僕は何を言ってんだ!?)
「僕だって、この関係性がずっと続けば良いと思ってるよ。けど、そうはいかないだろ?」
口と体が勝手に動いて、ジュンが思ってもいないような事を喋り続ける。
「大人にならないと」
アルビオルがジュンから離れて俯く。表情の無い、呆然とした顔をしていた。
「余だけだったのか? 愛していたのは?」
「君は勘違いしていただけだ。僕は回復師で、少し特殊な治療を行っていたから……君は好意を持ってしまったんだ。けど、それは若い体の勘違いだ。これは恋ではない。僕も君を愛してなどいない」
アルビオルが目を見開き、涙を瞳にためる。
(やめろ! アルビオルを傷つけるな!!)
必死に抵抗しても、体が言う事を聞かない。
「治療は終わった。僕たちの関係も終わりだ。君は側室との義務を果たすと良い」
そう冷たく言って、ジュンは立ち上がる。
「余を好きだと言ったではないか……あれは嘘だったのか……」
涙をためた瞳で見上げて来る。すぐにでも、抱きしめて慰めてやりたかった。
「治療の関係上、貴方を拒否しなかっただけです。歯向かえば、僕の命もありませんからね。宰相に弱み握られていましたから」
アルビオルは一際強くショックを受けたように顔を歪ませて、痛みをこらえるように胸を押さえて泣き始めた。その姿を一瞥して、僕の体は勝手に部屋から出て行く。アルビオルの泣く声を聞いた僕は、胸が張り裂けるような痛みを感じた。
長い廊下を歩いている間も、僕は知らない力に引っ張られていた。視界の端は暗く、意識を保つのもやっとだ。
僕は知らない部屋にノックもせずに入った。
「よくやりました」
部屋で待っていたのは、イネス = バケーロだった。しかし彼女は、いつもと違い全身を黒い布で覆ってはいない。それは、ここが彼女のプライベートな部屋だからだろう。派手な花柄の布地が張られたソファに、ゆったりと腰掛けている。横のサイドチェストには、大きな水晶玉があった。
「ふふっ、これできっと陛下は、私を部屋へと呼んでくれるでしょう」
そこでようやく、自分の体がこの女に操られていた事を理解した。人に害を成す魔法は、呪法と言って禁忌の技とされている。扱えば、罪に問われると師匠に聞いた事があった。だから、それゆえにジュンは呪法への対処方法を知らなかった。犯人がわかり、手段がわかっても、対処方法が無い。意識はあっても、体は相変わらず動かせない。
「さて、あなたには……牢に入って貰います。陛下に真実を告げられても困りますからね、ただ命は生かしておいて差し上げましょう。王を説得するのに、まだ使えるかもしれませんから」
イネスが左側を指差す。すると勝手に棚が右にずれて、地下への階段が現れる。
「さぁ、行きなさい」
体はイネスの命令のままに動く。しかし、それでも抗った。力と魔力で、どうにか抵抗出来ないかあの手この手を試し続ける。
「うぅ……」
唸り声がもれた。
「おやまぁ、私の命令下にありながら声を出すなんて」
イネスが片眉を上げる。
「侮れない方ですね。用心の為に戒めも付けておきましょう」
地下にある牢屋にいれられる。後ろ手に、手枷をつけられた。足枷も付けられて、跪かせられる。イネスがジュンの顎を上にあげる。
「平凡な顔。どうして陛下は貴方に興味を持ったのかしら」
爪先であごをひっかきながら、手が離れた。格子の牢屋に鍵をかけた後、イネスは一度も振り向かずに地下を出て行った。遠くで重い棚が動く音がした。
部屋は静まり返る。暗い牢屋には、明かりは一つも無い。先程はイネスのペンダントが光って明かり代わりなっていたが、今はそれも無い。真っ暗な部屋。入って来る時に見た限りでは、家具も無かった。石ブロックの敷き詰められた、ただの四角い空間だった。
「っ!」
突然、何かが体の中から押し出されていったような感覚がする。一際強い頭痛の後に、体が自由に動くようになる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
床に倒れて荒く息をする。無理やり動かされた体は、呪術が解けた後もガクガク震える。
「アルビオル……」
酷い言葉を投げつけられた彼の、傷ついた表情が脳裏から離れない。泣き叫ぶ彼の声が、まだ聞こえるようだった。
痺れる体で、腕の鎖を取ろうともがく。しかし、太い鎖は千切れそうにない。魔法を使おうとしたが、どうやらこの枷には魔力封じが行われているようだった。膝を立てて移動して、檻に体を当てる。早く、早く彼を助けに行かなければ。
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