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ハンナは語る
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ハンナはゆっくりと語り出した。
「リュディガー様のお母上のフランチェスカ様はヴェルトミュラー公爵家のひとり娘でいらっしゃったので、現当主であるクラウス様を婿に取り、ヴェルトミュラー公爵家をお継ぎになられました。ご聡明でご立派な方でした。アデレイド様とも仲良くしていただいていたのですが、馬車の事故で亡くなりました。同じ馬車には先代の公爵夫妻とリュディガー様も一緒に乗っていたのですが、3人様は亡くなり、リュディガー様だけ九死に一生を得たのです。夫人が亡くなり、公爵はすぐにボーデ伯爵の令嬢のカミラ様を後添いに迎え、それからすぐマインラート様がお生まれになりました。結婚してすぐにマインラート様がお産まれになったので、おふたりはフランチェスカ様が生きている頃からねんごろな関係になっていたと噂されておりましたが、カミラ様が陛下の側妃様の妹であることもあり、噂はいつの間にか消えてしまいました」
なるほど、リュディガー様はお母様亡くなってから淋しい思いをしていたのだな。ハンナは悔しそうな顔をして話をする。
「ヴェルトミュラー家は代々この国に聖人として守護の祈りを捧げる家でございます。フランチェスカ様も聖女として国の安寧に尽くされておりました。今は忘れがたみのリュディガー様が聖人として国に安寧に尽くされていますが、現公爵や夫人はフランチェスカ様の血を引くリュディガー様を虐げ、迫害を加えていたようです」
ハンナは話をとめ、大きく息を吸った。
「そのことに気がついた、アデレイド様がふた月ほど前に保護し、それからはリュディガー様はあの礼拝堂で過ごされております。ひどく痩せて、傷だらけでいらっしゃいましたが、アデレイド様が回復魔法で傷は回復されております。リュディガー様はイルメラ様の婚約者なのですが、ヴェルトミュラー夫人と息子のマインラート様はありもしない噂を流し、リュディガー様を失脚させ、マインラート様をイルメラ様の婚約者にしようと考えているようです」
淡々と話すハンナに腕組みをしながら聞いていたマイクが口を開いた。
「側妃と公爵の後妻は姉妹ということですか? それなら、側妃がアデレイド様を亡き者にしようとしていたし、フランチェスカ様と前公爵夫妻は後妻に事故に見せかけ殺された可能性がありますよね? 公爵がぐるかとうかはわかりませんが、姉妹と姉妹の親が王家と国の守護のヴェルトミュラー家を我が物にしようとしているのでは?」
ハンナは頷く。
「アデレイド様もそう考えていらっしゃいました。国王に親友であったフランチェスカ様の忘れがたみを傍に置きたいと、リュディガー様を守るために幽閉と偽り、保護したのです」
私は呆れた。国王は何をしていたのだ?
「ということは国王はただの馬鹿王なの?」
「ひょっとしたら何らかの精神拘束を受けているのではないかとアデレイド様はお考えでした。元はあんな方ではありませんでしたので」
精神拘束か……。
「魅了の魔法かしら?」
私の問いにハンナは首を振った。
「そんな魔法を使える者はこの国にはおりません。多分薬だと思います。ハイデマリー様、一度国王陛下を鑑定してはいただけませんか?」
「そうね。会う機会を作って鑑定してみるわ」
やはりこの国にはきな臭い何かがあるようだ。しかし、代々国の守護を司っているヴェルトミュラー家の直系はリュディガー様だろう。リュディガー様を亡き者にしたら国の守護はなくなってしまうのではないのか?
それともそれはただの言い伝えなのか?
間違いなくリュディガー様の祈りには力が宿っていた。もしも、リュディガー様がこの国を見捨てたら、この国はどうなるのだろう? まぁ、どうなろうと自業自得だ。
リュディガー様を排除してマインラート様を聖人としてまつりあげたいようだな。マインラート様には一滴もヴェルトミュラー家の血は流れていない。
これは面白いことになるかもしれない。
母はこの国を潰すつもりで私を潜入させたのではないかと思い始めていた。
◆◇◆
私は鑑定とリュディガー様に大っぴらに近づくために国王陛下に謁見を申し込んだ。小娘には警戒していないようですぐに国王陛下に会えることになった。
「おもてをあげよ」
「輝ける太陽であらせられる国王陛下にご挨拶申し上げます」
「挨拶を受け取る。私に話とは何だ?」
「この国の守護とやらを聖人様に教えを乞いたいのです。叔母から聖人のリュディガー様を推薦されました。リュディガー様から学ばせていただいてよろしいでしょうか?」
私は話をしながらかってに国王陛下を鑑定する。
「そんなことか。勝手にすれば良い。だが、リュディガーより、マインラートの方が適任ではないか? リュディガーは人格に難があるようだ」
人格に難があるのはマインラートの方だろう。
「いえ、叔母の推薦ですので、私はリュディガー様を希望します」
「まぁよい。では、リュディガーに教えを乞うといい。日時はスティーブに調整してもらいなさい。では、これで」
「ありがとうございます」
国王との時間は15分ほどだったがしっかり鑑定ができたし、大手を振ってリュディガー様と会えることになったのでよかった。
私の鑑定でわかったのは、国王はやはり薬を盛られていて、幻覚状態になるような成分が体内にあるということだった。
薬を盛られている時に聞いた言葉を信じてしまうのだ。多分なんらかの薬草と幻影キノコのエキスだろう。
この国は魔法がない分、そういう薬を作る技術があるのだと思う。
身体から薬の成分を抜くのは簡単だがどうしたものか?
とりあえず母に報告することにした。
「リュディガー様のお母上のフランチェスカ様はヴェルトミュラー公爵家のひとり娘でいらっしゃったので、現当主であるクラウス様を婿に取り、ヴェルトミュラー公爵家をお継ぎになられました。ご聡明でご立派な方でした。アデレイド様とも仲良くしていただいていたのですが、馬車の事故で亡くなりました。同じ馬車には先代の公爵夫妻とリュディガー様も一緒に乗っていたのですが、3人様は亡くなり、リュディガー様だけ九死に一生を得たのです。夫人が亡くなり、公爵はすぐにボーデ伯爵の令嬢のカミラ様を後添いに迎え、それからすぐマインラート様がお生まれになりました。結婚してすぐにマインラート様がお産まれになったので、おふたりはフランチェスカ様が生きている頃からねんごろな関係になっていたと噂されておりましたが、カミラ様が陛下の側妃様の妹であることもあり、噂はいつの間にか消えてしまいました」
なるほど、リュディガー様はお母様亡くなってから淋しい思いをしていたのだな。ハンナは悔しそうな顔をして話をする。
「ヴェルトミュラー家は代々この国に聖人として守護の祈りを捧げる家でございます。フランチェスカ様も聖女として国の安寧に尽くされておりました。今は忘れがたみのリュディガー様が聖人として国に安寧に尽くされていますが、現公爵や夫人はフランチェスカ様の血を引くリュディガー様を虐げ、迫害を加えていたようです」
ハンナは話をとめ、大きく息を吸った。
「そのことに気がついた、アデレイド様がふた月ほど前に保護し、それからはリュディガー様はあの礼拝堂で過ごされております。ひどく痩せて、傷だらけでいらっしゃいましたが、アデレイド様が回復魔法で傷は回復されております。リュディガー様はイルメラ様の婚約者なのですが、ヴェルトミュラー夫人と息子のマインラート様はありもしない噂を流し、リュディガー様を失脚させ、マインラート様をイルメラ様の婚約者にしようと考えているようです」
淡々と話すハンナに腕組みをしながら聞いていたマイクが口を開いた。
「側妃と公爵の後妻は姉妹ということですか? それなら、側妃がアデレイド様を亡き者にしようとしていたし、フランチェスカ様と前公爵夫妻は後妻に事故に見せかけ殺された可能性がありますよね? 公爵がぐるかとうかはわかりませんが、姉妹と姉妹の親が王家と国の守護のヴェルトミュラー家を我が物にしようとしているのでは?」
ハンナは頷く。
「アデレイド様もそう考えていらっしゃいました。国王に親友であったフランチェスカ様の忘れがたみを傍に置きたいと、リュディガー様を守るために幽閉と偽り、保護したのです」
私は呆れた。国王は何をしていたのだ?
「ということは国王はただの馬鹿王なの?」
「ひょっとしたら何らかの精神拘束を受けているのではないかとアデレイド様はお考えでした。元はあんな方ではありませんでしたので」
精神拘束か……。
「魅了の魔法かしら?」
私の問いにハンナは首を振った。
「そんな魔法を使える者はこの国にはおりません。多分薬だと思います。ハイデマリー様、一度国王陛下を鑑定してはいただけませんか?」
「そうね。会う機会を作って鑑定してみるわ」
やはりこの国にはきな臭い何かがあるようだ。しかし、代々国の守護を司っているヴェルトミュラー家の直系はリュディガー様だろう。リュディガー様を亡き者にしたら国の守護はなくなってしまうのではないのか?
それともそれはただの言い伝えなのか?
間違いなくリュディガー様の祈りには力が宿っていた。もしも、リュディガー様がこの国を見捨てたら、この国はどうなるのだろう? まぁ、どうなろうと自業自得だ。
リュディガー様を排除してマインラート様を聖人としてまつりあげたいようだな。マインラート様には一滴もヴェルトミュラー家の血は流れていない。
これは面白いことになるかもしれない。
母はこの国を潰すつもりで私を潜入させたのではないかと思い始めていた。
◆◇◆
私は鑑定とリュディガー様に大っぴらに近づくために国王陛下に謁見を申し込んだ。小娘には警戒していないようですぐに国王陛下に会えることになった。
「おもてをあげよ」
「輝ける太陽であらせられる国王陛下にご挨拶申し上げます」
「挨拶を受け取る。私に話とは何だ?」
「この国の守護とやらを聖人様に教えを乞いたいのです。叔母から聖人のリュディガー様を推薦されました。リュディガー様から学ばせていただいてよろしいでしょうか?」
私は話をしながらかってに国王陛下を鑑定する。
「そんなことか。勝手にすれば良い。だが、リュディガーより、マインラートの方が適任ではないか? リュディガーは人格に難があるようだ」
人格に難があるのはマインラートの方だろう。
「いえ、叔母の推薦ですので、私はリュディガー様を希望します」
「まぁよい。では、リュディガーに教えを乞うといい。日時はスティーブに調整してもらいなさい。では、これで」
「ありがとうございます」
国王との時間は15分ほどだったがしっかり鑑定ができたし、大手を振ってリュディガー様と会えることになったのでよかった。
私の鑑定でわかったのは、国王はやはり薬を盛られていて、幻覚状態になるような成分が体内にあるということだった。
薬を盛られている時に聞いた言葉を信じてしまうのだ。多分なんらかの薬草と幻影キノコのエキスだろう。
この国は魔法がない分、そういう薬を作る技術があるのだと思う。
身体から薬の成分を抜くのは簡単だがどうしたものか?
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