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カール様にも困ったものだ
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カール様達が去った後、テオの顔を見ると、テオは悪い笑顔を浮かべている。
「どうしたの? 悪い顔してるわよ」
私が小声で言うと、テオは指をパチンと鳴らし、遮断魔法をかけた。今回のは会話だけが周りに聞こえない魔法のようだ。
「殿下は幻影魔法に全く気づいてなかったな」
「やっぱりそう? しかし、私とカール様の15年の付き合いは何だったのかと情けなくなるわ」
「いや、エルのせいじゃない。殿下の問題だ。エルの幻影魔法が見破れないようでは国王になっても先が思いやられるな」
「他の側近達も全く気づかなかったみたいね」
「あぁ、そうみたいだな」
「それって魅了の魔法にかかっているから?」
魅了の魔法にかかると洞察力が落ちるのか?
「いや、もともとの能力だろう」
テオは辛辣だ。遮断魔法をかけていなけば不敬罪で捕まるところだわ。
でも、カール様達が私が認識魔法を使っていると気がつかないのなら動きやすい。
その日の夕方、早く学園を出て王宮で執務をしていると、カール様が部屋に来た。
「エル、従姉妹が留学してきていたんだね。知らなかったよ。何で教えてくれなかったの?」
はぁ? 何を言っているんだ? 本当に私が化けてるって分かってないのか?
「申し訳ごさいません。急に決まりましたし、カール様はお忙しそうでしたのでマチルダ姉様に任せました。たしかテオのクラスに編入したと聞いております」
「うん。今日会ったんだ。テオじゃなくて私のクラスでもよかったのに。そしたら私が色々力になれたのに」
カール様はハイデマリーの世話がしたいのか?
「でも、カール様はミレーユ様とご一緒にいるのではありませんか? ハイディが邪魔をするわけにはいきませんわ」
私がそう言うとカール様は困った顔をしている。
「テオも婚約者がいるじゃないか。ニコランジル嬢と一緒にいると婚約者といる時間がなくなってしまうだろう」
テオの婚約者も私の幼馴染だ。この潜入にテオが気づいた時に、婚約者には私が男爵令嬢を見たいので化けていると話をしている。なので問題はない。むしろ、学園内での生活のフォローをしてくれている。
「あのふたりの絆はそんなことではびくともしませんわ」
「私とミレーユの絆もびくともしないよ。だから今度ニコランジル嬢を王宮に連れてきてよ。色々話をしてみたいんだ」
はぁ? ハイディを連れてこいですって?
「カール様、まさかハイディのこと好きになったのですか?」
「ちがうちがう」
カール様は慌てた様子で両手を振る。
「ただ、可愛いし、感じもいいなぁと思っただけだよ」
あらあら、困った人だわ。これは一目惚れだったのかしらね。
「カール様はミレーユ嬢を正妃にしたいのでしょう?」
「うん。でもそうしたらエルは死んでしまうのだろう?」
「そうですね。毒杯を飲むしかありませんわね」
「エルが死ぬのは嫌だ」
「では、ミレーユ嬢と別れるしかありませんね。それは嫌でしょ? いいではありませんか?私など死んでも、それでカール様が幸せになるのなら私はかまいませんよ」
口から出まかせを言ってみる。何で私が死ななきゃならないのよ。
「でもミレーユは男爵令嬢だ。男爵令嬢とは結婚できないだろう?」
「ええ、どこかの家門の養女にすればいいのではありませんか?」
いわくつきの男爵令嬢など養女にしてくれる家などないだろう。あるならそこが黒幕だと思う。
「養女か。エルの家の養女にしてもらえるといいのにな」
馬鹿か?
「それは多分無理だと思いますわ。娘を死なせた原因になった令嬢を迎え入れる程父母は人間ができておりません。ひょっとすると私が亡くなったら弟に爵位を譲って他国に移住するやもしれませんわね」
ちょっと言い過ぎたかな? カール様は俯いている。
「私は私がミレーユと結婚できて、エルも死ななくていい方法を考えるよ」
結婚できなくていいから、死ななくていい方法を考えて下さいませ。
「嬉しいですわ。よろしくお願いします」
「じゃあね。ニコランジル嬢によろしくね」
カール様は部屋から出て行った。
「エルフリーデ様、ご心中お察し申し上げます」
同じ部屋で仕事をしていた、カール様の従者が情けない顔をしている。
カール様の言動に落胆しているみたいだ。この人も本来の仕事以上の事をさせられていて、私以上に大変だ。
私がやっている仕事は元々はカール様の仕事だ。カール様ではさばけないので私にまわってきた。
「エルフリーデ様が王太子妃にならないのであれば、私は従者を辞職いたします。平民上がりの男爵令嬢などが王太子妃になったらこの国は滅びますよ。」
「不敬で捕まりますわよ」
「みんなそう思ってますよ。エルフリーデ様、男爵令嬢などに負けないでくださいね」
いやいや、勝ちとか負けとかそんな問題ではない。
それにしてもカール様は偽ハイディみたいなのがタイプなのだな。
そりゃ私では恋愛感情は湧かないはずだ。私も湧かないけど。
とりあえず国王陛下と王妃様に報告しよう。
そして明日からは男爵令嬢に近づいてみよう。
私は学園に行っている間にたまった仕事を片付けながら明日の学園で男爵令嬢に接触してみようとあれこれ悪巧みを考えていた。
「どうしたの? 悪い顔してるわよ」
私が小声で言うと、テオは指をパチンと鳴らし、遮断魔法をかけた。今回のは会話だけが周りに聞こえない魔法のようだ。
「殿下は幻影魔法に全く気づいてなかったな」
「やっぱりそう? しかし、私とカール様の15年の付き合いは何だったのかと情けなくなるわ」
「いや、エルのせいじゃない。殿下の問題だ。エルの幻影魔法が見破れないようでは国王になっても先が思いやられるな」
「他の側近達も全く気づかなかったみたいね」
「あぁ、そうみたいだな」
「それって魅了の魔法にかかっているから?」
魅了の魔法にかかると洞察力が落ちるのか?
「いや、もともとの能力だろう」
テオは辛辣だ。遮断魔法をかけていなけば不敬罪で捕まるところだわ。
でも、カール様達が私が認識魔法を使っていると気がつかないのなら動きやすい。
その日の夕方、早く学園を出て王宮で執務をしていると、カール様が部屋に来た。
「エル、従姉妹が留学してきていたんだね。知らなかったよ。何で教えてくれなかったの?」
はぁ? 何を言っているんだ? 本当に私が化けてるって分かってないのか?
「申し訳ごさいません。急に決まりましたし、カール様はお忙しそうでしたのでマチルダ姉様に任せました。たしかテオのクラスに編入したと聞いております」
「うん。今日会ったんだ。テオじゃなくて私のクラスでもよかったのに。そしたら私が色々力になれたのに」
カール様はハイデマリーの世話がしたいのか?
「でも、カール様はミレーユ様とご一緒にいるのではありませんか? ハイディが邪魔をするわけにはいきませんわ」
私がそう言うとカール様は困った顔をしている。
「テオも婚約者がいるじゃないか。ニコランジル嬢と一緒にいると婚約者といる時間がなくなってしまうだろう」
テオの婚約者も私の幼馴染だ。この潜入にテオが気づいた時に、婚約者には私が男爵令嬢を見たいので化けていると話をしている。なので問題はない。むしろ、学園内での生活のフォローをしてくれている。
「あのふたりの絆はそんなことではびくともしませんわ」
「私とミレーユの絆もびくともしないよ。だから今度ニコランジル嬢を王宮に連れてきてよ。色々話をしてみたいんだ」
はぁ? ハイディを連れてこいですって?
「カール様、まさかハイディのこと好きになったのですか?」
「ちがうちがう」
カール様は慌てた様子で両手を振る。
「ただ、可愛いし、感じもいいなぁと思っただけだよ」
あらあら、困った人だわ。これは一目惚れだったのかしらね。
「カール様はミレーユ嬢を正妃にしたいのでしょう?」
「うん。でもそうしたらエルは死んでしまうのだろう?」
「そうですね。毒杯を飲むしかありませんわね」
「エルが死ぬのは嫌だ」
「では、ミレーユ嬢と別れるしかありませんね。それは嫌でしょ? いいではありませんか?私など死んでも、それでカール様が幸せになるのなら私はかまいませんよ」
口から出まかせを言ってみる。何で私が死ななきゃならないのよ。
「でもミレーユは男爵令嬢だ。男爵令嬢とは結婚できないだろう?」
「ええ、どこかの家門の養女にすればいいのではありませんか?」
いわくつきの男爵令嬢など養女にしてくれる家などないだろう。あるならそこが黒幕だと思う。
「養女か。エルの家の養女にしてもらえるといいのにな」
馬鹿か?
「それは多分無理だと思いますわ。娘を死なせた原因になった令嬢を迎え入れる程父母は人間ができておりません。ひょっとすると私が亡くなったら弟に爵位を譲って他国に移住するやもしれませんわね」
ちょっと言い過ぎたかな? カール様は俯いている。
「私は私がミレーユと結婚できて、エルも死ななくていい方法を考えるよ」
結婚できなくていいから、死ななくていい方法を考えて下さいませ。
「嬉しいですわ。よろしくお願いします」
「じゃあね。ニコランジル嬢によろしくね」
カール様は部屋から出て行った。
「エルフリーデ様、ご心中お察し申し上げます」
同じ部屋で仕事をしていた、カール様の従者が情けない顔をしている。
カール様の言動に落胆しているみたいだ。この人も本来の仕事以上の事をさせられていて、私以上に大変だ。
私がやっている仕事は元々はカール様の仕事だ。カール様ではさばけないので私にまわってきた。
「エルフリーデ様が王太子妃にならないのであれば、私は従者を辞職いたします。平民上がりの男爵令嬢などが王太子妃になったらこの国は滅びますよ。」
「不敬で捕まりますわよ」
「みんなそう思ってますよ。エルフリーデ様、男爵令嬢などに負けないでくださいね」
いやいや、勝ちとか負けとかそんな問題ではない。
それにしてもカール様は偽ハイディみたいなのがタイプなのだな。
そりゃ私では恋愛感情は湧かないはずだ。私も湧かないけど。
とりあえず国王陛下と王妃様に報告しよう。
そして明日からは男爵令嬢に近づいてみよう。
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