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【閑話】フィリップの話
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妹の見合いについて行くと称して、私は自分のこれからの算段の為に隣国に行った。
私の叔父は隣国のメトロファン家の入婿となり、伯爵を継いでいるので、滞在中はメトロファン家にお世話になることになった。
私の身分は第2王子。しかも側妃の子供だ。正妃から生まれた兄がいるので国王になることはない。
私の母は貧乏伯爵家の娘で、元は王宮勤めをしていた文官だった。とても頭が良く、国費で東の国に留学していた程だったそうだ。
父が見染め側妃にしたそうだが、私を産むと産後の肥立ちが悪かったらしく亡くなってしまった。
側妃の子供ではあるが、腹違いの兄と妹も私と普通の兄弟のように接してくれているが、王妃様である義母からは疎まれていた。
私には好きな人がいる。彼女は子爵令嬢だ。ひょんなことで知り合いお互いに思い合っているが、子爵令嬢は王家に嫁ぐことはできない。
それに、私には婚約者がいる。公爵令嬢だ。しかし、婚約者は兄のことが好きで私のことなど見向きもしない。
私も婚約者の事は好きではなかった。兄と結婚すればいいと思うのだが、王妃としての素質がなく、不適合なので、私に回ってきたらしい。
義母に勧められれば、私は断ることなどできない。
兄は今、婚約者がいない。兄の婚約者は2年前に流行病で亡くなってしまい、それ以来婚約者の席は空いたままになっている。私の婚約者は兄と結婚したいようだ。
私は叔父上にそのあたりの話をした。私は王家などどうでもいい。好きな女性と結婚して幸せに暮らしたい。とりあえず2人でこの国に留学との名目で逃げてきたいと。
叔父上は私をこの国の中枢メンバーに繋げてくれた。
王宮で王太子殿下や殿下の婚約者、王妃様、この国の宰相で王太子の婚約者の父親、アルブラン公爵、アルブラン公爵夫人、アルブラン公爵子息らと面会した。
王妃様は私の顔をじっと見た。
「ねぇ、フィリップ殿下、我が国に骨を埋める気はない? 隣国の王家と離れて我が国に仕える気はない?」
どういう意味だろうか?
「あなたはあの国が嫌いなんでしょう? メトロファン伯爵と同じね。我が国の為に働いてくれるなら望みを叶えてあげるわ。我が国に留学して、学校で恋に落ちた侯爵令嬢と恋に落ち婿に入り、あなたはいずれ侯爵になる。そういうのどうかしら?」
「それは無理です。私には恋人がいます」
王妃様はにっこりと微笑む。
「後継者がいない侯爵家があるの。あなたが本気なら、本気で我が国の為に生きると誓うなら、恋人をその侯爵家の養女にするわ。恋人の家は没落しかけの子爵家なんでしょう? あなたが腹を括るだけよ」
私が腹を括るだけか。
「フィリップ殿下、私、あなたのお義母様が嫌いなのよ。あなたも噂は聞いたことがあるでしょう?
あなたの母親はあの女に殺されたの。あの女はね。国王があなたの母親を寵愛するのが悔しかったのよ」
「えっ? 本当ですか」
ただの噂だと思っていた。
「あなたの母親は素敵な人だったわ。私達は東の国に留学していた時に友達になったの。国王が見染めさえしなければあの子は死なずに済んだんだけどね。でも、あなたを残してくれてよかったわ。私達はあなたがあちらの国で不利な立場にならないように影をつけていたの。あなたの執事も侍女も影よ。あなたまで殺されては嫌だもの。あなたを守らせていたの。ちょうどいい頃合いだったから妹の縁談を口実にしてあなたをこの国に呼び出し、話をしたかったのよ」
次から次に出てくる王妃様の言葉に私の心はついていけなかった。
トーマスとモリーが影だったなんて。でも確かにあのふたりはいつも私に寄り添ってくれていた。あの城の中で本当に信頼できるのはあのふたりだけだった。
「妹の縁談は?」
「偽りよ。あんな女の娘と結婚させないわ。それにあの子はだめだわ。あなたもわかっているでしょう」
確かにわかっている。妹は両親に溺愛されて育っているので我儘だ。なんでも自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。私は優しい兄を演じているが、本音はあまり関わり合いになりたくなかった。第3王子のことは気に入っているようだが、母親が他国に手放すのを嫌がっているようだし、まだきちんと婚約が整ったわけでもない。破談になっても対して傷にはならないだろう。
「悩むことはないだろう。首を縦に振ればいい。お前と恋人のことは私達に任せろ。私は妹の事は嫌いだが、お前は聡い、それに剣の腕もたつと伯爵から聞いている。侯爵家に婿入りしたら私の側近になってもらう。それまでは、伯爵の元でリカルドと一緒に修行に励め。恋人の生家のことも悪いようにはしない。フィリップ、腹を括れ」
王太子殿下は私の肩をポンと叩いた。
叔父上も頷いている。信じていいのだろうか。
信じてみよう。自国にいてもは私の居場所は無い。
侯爵家に婿入りし、あの女と一生暮らすなどごめんだ。
私は決めた。
「よろしくお願いします」
私の叔父は隣国のメトロファン家の入婿となり、伯爵を継いでいるので、滞在中はメトロファン家にお世話になることになった。
私の身分は第2王子。しかも側妃の子供だ。正妃から生まれた兄がいるので国王になることはない。
私の母は貧乏伯爵家の娘で、元は王宮勤めをしていた文官だった。とても頭が良く、国費で東の国に留学していた程だったそうだ。
父が見染め側妃にしたそうだが、私を産むと産後の肥立ちが悪かったらしく亡くなってしまった。
側妃の子供ではあるが、腹違いの兄と妹も私と普通の兄弟のように接してくれているが、王妃様である義母からは疎まれていた。
私には好きな人がいる。彼女は子爵令嬢だ。ひょんなことで知り合いお互いに思い合っているが、子爵令嬢は王家に嫁ぐことはできない。
それに、私には婚約者がいる。公爵令嬢だ。しかし、婚約者は兄のことが好きで私のことなど見向きもしない。
私も婚約者の事は好きではなかった。兄と結婚すればいいと思うのだが、王妃としての素質がなく、不適合なので、私に回ってきたらしい。
義母に勧められれば、私は断ることなどできない。
兄は今、婚約者がいない。兄の婚約者は2年前に流行病で亡くなってしまい、それ以来婚約者の席は空いたままになっている。私の婚約者は兄と結婚したいようだ。
私は叔父上にそのあたりの話をした。私は王家などどうでもいい。好きな女性と結婚して幸せに暮らしたい。とりあえず2人でこの国に留学との名目で逃げてきたいと。
叔父上は私をこの国の中枢メンバーに繋げてくれた。
王宮で王太子殿下や殿下の婚約者、王妃様、この国の宰相で王太子の婚約者の父親、アルブラン公爵、アルブラン公爵夫人、アルブラン公爵子息らと面会した。
王妃様は私の顔をじっと見た。
「ねぇ、フィリップ殿下、我が国に骨を埋める気はない? 隣国の王家と離れて我が国に仕える気はない?」
どういう意味だろうか?
「あなたはあの国が嫌いなんでしょう? メトロファン伯爵と同じね。我が国の為に働いてくれるなら望みを叶えてあげるわ。我が国に留学して、学校で恋に落ちた侯爵令嬢と恋に落ち婿に入り、あなたはいずれ侯爵になる。そういうのどうかしら?」
「それは無理です。私には恋人がいます」
王妃様はにっこりと微笑む。
「後継者がいない侯爵家があるの。あなたが本気なら、本気で我が国の為に生きると誓うなら、恋人をその侯爵家の養女にするわ。恋人の家は没落しかけの子爵家なんでしょう? あなたが腹を括るだけよ」
私が腹を括るだけか。
「フィリップ殿下、私、あなたのお義母様が嫌いなのよ。あなたも噂は聞いたことがあるでしょう?
あなたの母親はあの女に殺されたの。あの女はね。国王があなたの母親を寵愛するのが悔しかったのよ」
「えっ? 本当ですか」
ただの噂だと思っていた。
「あなたの母親は素敵な人だったわ。私達は東の国に留学していた時に友達になったの。国王が見染めさえしなければあの子は死なずに済んだんだけどね。でも、あなたを残してくれてよかったわ。私達はあなたがあちらの国で不利な立場にならないように影をつけていたの。あなたの執事も侍女も影よ。あなたまで殺されては嫌だもの。あなたを守らせていたの。ちょうどいい頃合いだったから妹の縁談を口実にしてあなたをこの国に呼び出し、話をしたかったのよ」
次から次に出てくる王妃様の言葉に私の心はついていけなかった。
トーマスとモリーが影だったなんて。でも確かにあのふたりはいつも私に寄り添ってくれていた。あの城の中で本当に信頼できるのはあのふたりだけだった。
「妹の縁談は?」
「偽りよ。あんな女の娘と結婚させないわ。それにあの子はだめだわ。あなたもわかっているでしょう」
確かにわかっている。妹は両親に溺愛されて育っているので我儘だ。なんでも自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。私は優しい兄を演じているが、本音はあまり関わり合いになりたくなかった。第3王子のことは気に入っているようだが、母親が他国に手放すのを嫌がっているようだし、まだきちんと婚約が整ったわけでもない。破談になっても対して傷にはならないだろう。
「悩むことはないだろう。首を縦に振ればいい。お前と恋人のことは私達に任せろ。私は妹の事は嫌いだが、お前は聡い、それに剣の腕もたつと伯爵から聞いている。侯爵家に婿入りしたら私の側近になってもらう。それまでは、伯爵の元でリカルドと一緒に修行に励め。恋人の生家のことも悪いようにはしない。フィリップ、腹を括れ」
王太子殿下は私の肩をポンと叩いた。
叔父上も頷いている。信じていいのだろうか。
信じてみよう。自国にいてもは私の居場所は無い。
侯爵家に婿入りし、あの女と一生暮らすなどごめんだ。
私は決めた。
「よろしくお願いします」
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