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46話 ざまぁ4 (アンネリーゼ視点)
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我が領地は結界が張り巡らされているので、悪意のあるものは何人たりとも入ることはできないが、それは一部の人しか知らない。
結界には他領との領地境に関所があり、そこでチェックを受ける。
関所番から連絡がきた。
「辺境伯夫人と名乗る女が来て中に入れろと騒いでおります」
父母も祖父母もたまたま留守だった。ブルーノが対応しようとしていたのだが、もし、それがあの女なら、私が対処するのがいいかと思った。
「ブルーノ様、私が幻影魔法で大人に化けて対応するわ」
「しかし、何をするかわからないよ。リーゼに何かあったらアルとディーに殺されるよ」
私を心配してくれているが、もし、あの女ならブルーノではらちがあかない。
「私は強いから大丈夫よ。任せて」
「私も一緒に行く。ひとりではダメだ」
仕方がない。まぁ、コンラート様ではなくブルーノ様なら面倒なことにはならないだろう。
それにしてもお父様やディーママがいない時でよかった。あの女のことをまだお父様は自分が忙しくてかまってやれなかったからかもしれないなんてお人好しなことを思っているふしがある。
そんな問題じゃない。あの女は性根が腐っているのだ。
だからお父様やディーママには会わせない。私がカタをつける。
「リーゼ! 私も行く」
どこから話を聞きつけたのかリオネルがやってきた。リオネルはコンラート様の子供で私の婚約者だ。
「私も行くわ!」
マグダレーナも来た。マグダレーナは魔導士、私の親友だ。
「もう、みんな心配症なんだから。わかったわ。でも私はアンネリーゼとしてあの女に会うつもりはないからね。あくまでグローズクロイツ家の者として会うから」
そう言って、姿を大人の女性に変えた。
◆◆◆
関所に着くと、女の金切り声が聞こえていた。
「通しなさいよ! 私は辺境伯夫人よ! なんでこんなところで足止めされなきゃならないの! 辺境伯を呼びなさい!」
派手な化粧、派手な服。出ていった頃に比べたら、ずいぶんみすぼらしくなったような印象だ。見るからに良い生活はしていない。真実の愛はどうした?
「お待たせしました。私が話を伺います」
女の前に出た。
「辺境伯を出しなさい!」
「辺境伯閣下は所用で留守にしています。私はこの領地の犯罪を取り締まっている警務長です」
警務長を名乗った。みんなは驚いている。まぁ、戦うにはこれがベストだろう。
「な、何? 私は辺境伯夫人よ」
女は目を釣り上げている。
「あなたは真実の愛のお相手と出て行かれたと聞いております。その時に離縁し、しばらくして今の夫人がこの地に嫁いできました。今更辺境伯夫人とおっしゃられても、身分詐称で捕らえられるだけです」
「だ、だったらアンネリーゼを呼んでよ!」
「アンネリーゼ嬢はあなたに殴られてた傷がもとで命を落としました。あなたが去った後、アンネリーゼ嬢は脳出血で倒れていたそうです。部屋に仕掛けていた魔道具であなたがアンネリーゼ嬢を殴っているところが録画されており、辺境伯閣下はあなたを娘殺しの犯人として探しておりましたの。ご自分から自首して来られましたのね」
「私を捕える?」
そこは死んだ娘のことを先に聞けよ。まったくあの頃と何も変わっていない。
この女がいったい何をしにきたのか、心の声を聞いてみたくなりチャンネルを合わせてみた。
『アンネリーゼが死んでいたなんて。全くもう、無理矢理連れて帰ってあのロリコンエロジジイに売ってお金にしようと思ったのに』
私を売ろうと思っていたのか? なんて女だ。
「ほ、本当は元夫人かは頼まれただけなの。私はこれで」
「お待ちくださいませ。これを」
帰ろうとした女にマグダレーナが予め仕込んでいた品を持ってきてくれた。
「これは元いた使用人が奥様が来たら渡してほしいといい、私が預かっておりました。奥様にお渡し願えますか?」
マグダレーナ、芝居上手いな。
「これは何?」
「願いが叶う魔石だそうです」
「魔石? あら、いいわね。もらっておくわ。いや、渡しておくわ」
女は踵を返し関所を離れた。
マグダレーナはすぐに魔道具のバードを飛ばした。
小さな鳥の形をした魔道具で、女の姿を上から見ている。
私達はここにあるこの大きな魔石でバードが映すその様子を見ることができる。
◆◆◆
「この当たりまで来たら大丈夫ね。それにしても願いが叶う魔石なんて良いものくれるじゃない。私がお世話した使用人って誰かしら? まぁ、みんな私に憧れていたから当たり前ね」
女はふふふと笑いながら箱を開け、魔石を取り出した。
「何を願おうかしら? やっぱりお金かしらね。それとも美貌? まぁお金があれば美貌はなんとかなるわ。お金よお金。お金があればみんながチヤホヤしてくれるわ。彼も戻ってくるわね」
女は深呼吸をしてから魔石に向かって言った。
「お金が欲しいわ。みんなが驚くくらいのお金を出してちょうだい」
すると魔石が光りだした。
まばゆいくらいの光が魔石から放たれる。そして魔石から金貨が溢れ出た。確かに誰もが驚くくらいのお金が魔石からどんどん溢れ出る。
「もう、いいわ。これくらいで十分よ。もういい! 止まって!」
女は叫ぶ。しかし、お金は止まらず出続ける。女の姿は見えなくなり、声は聞こえなくなった。
◇◇◇
「死んだ?」
「まさか、幻影魔法よ」
「元の家に戻しておく?」
「ええ。お願い」
「夢だと思うようにベッドに寝かしておくかな」
マグダレーナは半笑いしながら指をぱちんと鳴らした。
幻影魔法のお金の山は消え、その下から涎を垂らし失禁している女が出てきて、消えた。
「もうこれでお金なんて怖いと思うんじゃない?」
「ふふ。お金に生き埋めにされる夢を二日おきに見る魔法をかけておいたわ。幸せな夢ね」
マグダレーナは私の顔を見てニヤリと口角を上げた。
「さぁ、帰りましょうか。もう来ないと思うけど、来たらまた魔石をプレゼントしましょう」
「リーゼ、大丈夫か?」
リオネル様が私を気遣い声をかけてくれた。
こんなことごときで傷つく私ではないが、アンネリーゼはちょっと傷ついているようだ。
私はリオネルにもたれかかってみた。アンネリーゼは喜んでいるかな。
さぁ、屋敷に戻ろう。お父様達が戻ってきたらこの話を笑い話として話さなきゃね。
あの女はお金にまみれて幸せそうだったってね。
結界には他領との領地境に関所があり、そこでチェックを受ける。
関所番から連絡がきた。
「辺境伯夫人と名乗る女が来て中に入れろと騒いでおります」
父母も祖父母もたまたま留守だった。ブルーノが対応しようとしていたのだが、もし、それがあの女なら、私が対処するのがいいかと思った。
「ブルーノ様、私が幻影魔法で大人に化けて対応するわ」
「しかし、何をするかわからないよ。リーゼに何かあったらアルとディーに殺されるよ」
私を心配してくれているが、もし、あの女ならブルーノではらちがあかない。
「私は強いから大丈夫よ。任せて」
「私も一緒に行く。ひとりではダメだ」
仕方がない。まぁ、コンラート様ではなくブルーノ様なら面倒なことにはならないだろう。
それにしてもお父様やディーママがいない時でよかった。あの女のことをまだお父様は自分が忙しくてかまってやれなかったからかもしれないなんてお人好しなことを思っているふしがある。
そんな問題じゃない。あの女は性根が腐っているのだ。
だからお父様やディーママには会わせない。私がカタをつける。
「リーゼ! 私も行く」
どこから話を聞きつけたのかリオネルがやってきた。リオネルはコンラート様の子供で私の婚約者だ。
「私も行くわ!」
マグダレーナも来た。マグダレーナは魔導士、私の親友だ。
「もう、みんな心配症なんだから。わかったわ。でも私はアンネリーゼとしてあの女に会うつもりはないからね。あくまでグローズクロイツ家の者として会うから」
そう言って、姿を大人の女性に変えた。
◆◆◆
関所に着くと、女の金切り声が聞こえていた。
「通しなさいよ! 私は辺境伯夫人よ! なんでこんなところで足止めされなきゃならないの! 辺境伯を呼びなさい!」
派手な化粧、派手な服。出ていった頃に比べたら、ずいぶんみすぼらしくなったような印象だ。見るからに良い生活はしていない。真実の愛はどうした?
「お待たせしました。私が話を伺います」
女の前に出た。
「辺境伯を出しなさい!」
「辺境伯閣下は所用で留守にしています。私はこの領地の犯罪を取り締まっている警務長です」
警務長を名乗った。みんなは驚いている。まぁ、戦うにはこれがベストだろう。
「な、何? 私は辺境伯夫人よ」
女は目を釣り上げている。
「あなたは真実の愛のお相手と出て行かれたと聞いております。その時に離縁し、しばらくして今の夫人がこの地に嫁いできました。今更辺境伯夫人とおっしゃられても、身分詐称で捕らえられるだけです」
「だ、だったらアンネリーゼを呼んでよ!」
「アンネリーゼ嬢はあなたに殴られてた傷がもとで命を落としました。あなたが去った後、アンネリーゼ嬢は脳出血で倒れていたそうです。部屋に仕掛けていた魔道具であなたがアンネリーゼ嬢を殴っているところが録画されており、辺境伯閣下はあなたを娘殺しの犯人として探しておりましたの。ご自分から自首して来られましたのね」
「私を捕える?」
そこは死んだ娘のことを先に聞けよ。まったくあの頃と何も変わっていない。
この女がいったい何をしにきたのか、心の声を聞いてみたくなりチャンネルを合わせてみた。
『アンネリーゼが死んでいたなんて。全くもう、無理矢理連れて帰ってあのロリコンエロジジイに売ってお金にしようと思ったのに』
私を売ろうと思っていたのか? なんて女だ。
「ほ、本当は元夫人かは頼まれただけなの。私はこれで」
「お待ちくださいませ。これを」
帰ろうとした女にマグダレーナが予め仕込んでいた品を持ってきてくれた。
「これは元いた使用人が奥様が来たら渡してほしいといい、私が預かっておりました。奥様にお渡し願えますか?」
マグダレーナ、芝居上手いな。
「これは何?」
「願いが叶う魔石だそうです」
「魔石? あら、いいわね。もらっておくわ。いや、渡しておくわ」
女は踵を返し関所を離れた。
マグダレーナはすぐに魔道具のバードを飛ばした。
小さな鳥の形をした魔道具で、女の姿を上から見ている。
私達はここにあるこの大きな魔石でバードが映すその様子を見ることができる。
◆◆◆
「この当たりまで来たら大丈夫ね。それにしても願いが叶う魔石なんて良いものくれるじゃない。私がお世話した使用人って誰かしら? まぁ、みんな私に憧れていたから当たり前ね」
女はふふふと笑いながら箱を開け、魔石を取り出した。
「何を願おうかしら? やっぱりお金かしらね。それとも美貌? まぁお金があれば美貌はなんとかなるわ。お金よお金。お金があればみんながチヤホヤしてくれるわ。彼も戻ってくるわね」
女は深呼吸をしてから魔石に向かって言った。
「お金が欲しいわ。みんなが驚くくらいのお金を出してちょうだい」
すると魔石が光りだした。
まばゆいくらいの光が魔石から放たれる。そして魔石から金貨が溢れ出た。確かに誰もが驚くくらいのお金が魔石からどんどん溢れ出る。
「もう、いいわ。これくらいで十分よ。もういい! 止まって!」
女は叫ぶ。しかし、お金は止まらず出続ける。女の姿は見えなくなり、声は聞こえなくなった。
◇◇◇
「死んだ?」
「まさか、幻影魔法よ」
「元の家に戻しておく?」
「ええ。お願い」
「夢だと思うようにベッドに寝かしておくかな」
マグダレーナは半笑いしながら指をぱちんと鳴らした。
幻影魔法のお金の山は消え、その下から涎を垂らし失禁している女が出てきて、消えた。
「もうこれでお金なんて怖いと思うんじゃない?」
「ふふ。お金に生き埋めにされる夢を二日おきに見る魔法をかけておいたわ。幸せな夢ね」
マグダレーナは私の顔を見てニヤリと口角を上げた。
「さぁ、帰りましょうか。もう来ないと思うけど、来たらまた魔石をプレゼントしましょう」
「リーゼ、大丈夫か?」
リオネル様が私を気遣い声をかけてくれた。
こんなことごときで傷つく私ではないが、アンネリーゼはちょっと傷ついているようだ。
私はリオネルにもたれかかってみた。アンネリーゼは喜んでいるかな。
さぁ、屋敷に戻ろう。お父様達が戻ってきたらこの話を笑い話として話さなきゃね。
あの女はお金にまみれて幸せそうだったってね。
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