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44話 ざまぁ2(ギルバート)
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いったい何が起こったのか? 私は混乱していた。
あの誕生日パーティーで私は次期王太子だと発表されるものだとばかり思っていた。
それなのに私は父上の子供ではない。アビゲイルとも双子ではない。そう言われた。
もう訳がわからない。
確かに私とアビゲイルは似ていない。男女の双子はそういうことがあると皆言っていたし、髪と瞳の色が同じだから特に気にしていなかった。
私達には別々の乳母がついていた。だからあまりふたりで一緒にいることはなかった。父上は忙しく、母上は私にあまり興味がないようだった。
私は淋しさから、父母の気を引きたくて酷い事を色々したが、父上には、自分のやったことには自分で責任を持てと突き放され、母上にはめんどくさそうな顔をされた。ただ母上は金はくれたので、私は王子としての権力と金で傲慢な事をしてきた。
私を叱ってくれたのは母上の従者のザシャだけだった。ザシャは私のことに気にかけてくれていたが、ザシャのことを私は、従者とは名ばかりの母上の愛人だと蔑んでいた。
それがまさかザシャが私の本当の父上で、しかも、親を人質に捕らえられ、仕方なく母の相手をしていたとは。ショックだった。
私は傀儡の王になるために作られた人間だったのだ。
「お前の利用価値はもう無い。そうだな、軍にでも入るか。それくらいしか使い道もないようだ。せめてキースに似て魔力が強く魔法でも使えれば、まだ使い道はあったが、全く無いようだし、ベアトリスの怠惰なところを受け継いだ怠け者で、頭も悪いようだ。いくら種が良くても畑が悪いと優秀な子供は産まれんもんだな。ベアトリスもそうだ。私に少しも似とらん。だれか、こいつを軍に放り込んで来い!」
母上の父親でこの国の国王は私に利用価値がなくなったと切り捨て、軍に放り込んだ。
◆◆◆
私は今、母国を攻め込む軍隊の中にいる。
あれから、軍で訓練を受けた。今まで王子として贅沢三昧な暮らしをしていたので、何もできなかった。
周りは私が国王の孫だと知っているようで、国王に恨みや不満がある者はその矛先を私に向けた。必要以上にしごかれたり、嫌がらせや暴力を受けることもあった。濡れ衣を着せられ、独房に入れられて食事を与えられないこともあった。
王子だった頃のことを思い出す。私は周りに酷いことをしていた。気に入らない使用人は紹介状も持たせず首にした。
道で歩いていてぶつかっただけの者も不敬だと処罰した。学園でも気に入らない奴に濡れ衣を着せ、孤立させた。
優秀なアビゲイルが気に入らなかった。だからアビゲイルを亡き者にしようとしたが失敗した。
あいつの護衛騎士も乳母も強すぎるし、愛情を持って、あいつを守っていた。私の護衛騎士も乳母も飾りだ。私に愛情などない。みんな隣国から送り込まれた隣国の国王の手の者だ。
今思えば、私を傀儡しやすい馬鹿王子になるよう、考える頭を持たないように育てたのだろう。
父上はそんな私に自分で考える頭を持てといつも言っていた。
あの時は耳障りのいい言葉をのべる者達だけをそばに置き、うるさい父上や国王を遠ざけた。実の息子ではなく、隣国の国王が傀儡の王にしようとして、送り込んだ私をまともな道に導こうとしてくれていたのに。私は隣国の国王の理想の傀儡しやすい傲慢な馬鹿王子になっていた。
「ギルバート、お前、ベアトリス姫の息子なんだってな」
師団長が私に話しかけてきた。
「それが何か?」
「不幸だな」
「不幸?」
「あぁ、お前は何も悪くない。周りがお前を人形にしようとした。そして利用価値がなくなったら軍に捨てられた。不幸でしかないだろう」
今更、不幸だと言われても、もうどうでもいい。
「このままこの国にいても未来はない。ベアトリス姫もどこかの国に売られたようだ」
母上が売られた? まぁ、仕方ない。母上はまだ利用価値があったのだろう。
「母親が売られたと聞いても動揺しないのか?」
師団長は不思議そうな顔をした。
「母の愛情を感じたことはない。だから何とも思わない」
「そうか、やっぱり不幸だな」
師団長はため息をついた。
「我が師団は皆、母国に失望している者ばかりだ。お前がなぜうちの師団に配属されたのかわからんが、きっと我々と同じように他の師団からはみだした者と見なされたのだろう。我々は次の峠で消える。一緒に来るならそれもいい、残るならそれもありだ」
師団長は私の目をじっと見た。
「消えてどうする?」
私は師団長を睨みつけた。
「師団は全滅。みんな死んだことにして名前を変え、他国で生きる。お前が我々と行動を共にしないなら、魔法でお前がこの話を聞いた記憶は消す。全滅した師団の生き残りとして、他の師団に行くだけだ」
名前を変えて新しく生きるか。
「師団長は記憶が消せるのか? 魔導士なのか?」
「あぁ、そうさ、俺は魔道師団にいたが、国王にたてついて軍に飛ばされたんだ」
「師団長、私の……私の記憶を消してくれないか? 産まれてから今までの全ての記憶を消してほしい。もうギルバートとして生きていたくない。本当なら自害したいのだが、何故か自害できない魔法がかけられているようだ。何度も試みたがダメだった」
師団長はふっと笑った。
「やっぱり不幸だな。わかったお前の記憶を消してやるよ。かの国に飛んだら、お前は事故で記憶を失った事にする。そこから先はお前の人生だ。自分で作っていけ」
私達の師団は峠で崖から落ち全滅した。
◇◇◇
「ここは?」
「ここはルロワーナ国の病院です。あなたは川でどこからか流されてきたようで岸に打ち上げられているところを発見され、この病院に運ばれてきました。酷い怪我をしていて、10日も意識が戻らなかったのですが、意識が戻ってよかった。名前と住まいを教えてもらえますか?」
医師だろうか? 白衣を着た男は私に名前と住まいを聞く。
名前? 私の名前は……。
あの誕生日パーティーで私は次期王太子だと発表されるものだとばかり思っていた。
それなのに私は父上の子供ではない。アビゲイルとも双子ではない。そう言われた。
もう訳がわからない。
確かに私とアビゲイルは似ていない。男女の双子はそういうことがあると皆言っていたし、髪と瞳の色が同じだから特に気にしていなかった。
私達には別々の乳母がついていた。だからあまりふたりで一緒にいることはなかった。父上は忙しく、母上は私にあまり興味がないようだった。
私は淋しさから、父母の気を引きたくて酷い事を色々したが、父上には、自分のやったことには自分で責任を持てと突き放され、母上にはめんどくさそうな顔をされた。ただ母上は金はくれたので、私は王子としての権力と金で傲慢な事をしてきた。
私を叱ってくれたのは母上の従者のザシャだけだった。ザシャは私のことに気にかけてくれていたが、ザシャのことを私は、従者とは名ばかりの母上の愛人だと蔑んでいた。
それがまさかザシャが私の本当の父上で、しかも、親を人質に捕らえられ、仕方なく母の相手をしていたとは。ショックだった。
私は傀儡の王になるために作られた人間だったのだ。
「お前の利用価値はもう無い。そうだな、軍にでも入るか。それくらいしか使い道もないようだ。せめてキースに似て魔力が強く魔法でも使えれば、まだ使い道はあったが、全く無いようだし、ベアトリスの怠惰なところを受け継いだ怠け者で、頭も悪いようだ。いくら種が良くても畑が悪いと優秀な子供は産まれんもんだな。ベアトリスもそうだ。私に少しも似とらん。だれか、こいつを軍に放り込んで来い!」
母上の父親でこの国の国王は私に利用価値がなくなったと切り捨て、軍に放り込んだ。
◆◆◆
私は今、母国を攻め込む軍隊の中にいる。
あれから、軍で訓練を受けた。今まで王子として贅沢三昧な暮らしをしていたので、何もできなかった。
周りは私が国王の孫だと知っているようで、国王に恨みや不満がある者はその矛先を私に向けた。必要以上にしごかれたり、嫌がらせや暴力を受けることもあった。濡れ衣を着せられ、独房に入れられて食事を与えられないこともあった。
王子だった頃のことを思い出す。私は周りに酷いことをしていた。気に入らない使用人は紹介状も持たせず首にした。
道で歩いていてぶつかっただけの者も不敬だと処罰した。学園でも気に入らない奴に濡れ衣を着せ、孤立させた。
優秀なアビゲイルが気に入らなかった。だからアビゲイルを亡き者にしようとしたが失敗した。
あいつの護衛騎士も乳母も強すぎるし、愛情を持って、あいつを守っていた。私の護衛騎士も乳母も飾りだ。私に愛情などない。みんな隣国から送り込まれた隣国の国王の手の者だ。
今思えば、私を傀儡しやすい馬鹿王子になるよう、考える頭を持たないように育てたのだろう。
父上はそんな私に自分で考える頭を持てといつも言っていた。
あの時は耳障りのいい言葉をのべる者達だけをそばに置き、うるさい父上や国王を遠ざけた。実の息子ではなく、隣国の国王が傀儡の王にしようとして、送り込んだ私をまともな道に導こうとしてくれていたのに。私は隣国の国王の理想の傀儡しやすい傲慢な馬鹿王子になっていた。
「ギルバート、お前、ベアトリス姫の息子なんだってな」
師団長が私に話しかけてきた。
「それが何か?」
「不幸だな」
「不幸?」
「あぁ、お前は何も悪くない。周りがお前を人形にしようとした。そして利用価値がなくなったら軍に捨てられた。不幸でしかないだろう」
今更、不幸だと言われても、もうどうでもいい。
「このままこの国にいても未来はない。ベアトリス姫もどこかの国に売られたようだ」
母上が売られた? まぁ、仕方ない。母上はまだ利用価値があったのだろう。
「母親が売られたと聞いても動揺しないのか?」
師団長は不思議そうな顔をした。
「母の愛情を感じたことはない。だから何とも思わない」
「そうか、やっぱり不幸だな」
師団長はため息をついた。
「我が師団は皆、母国に失望している者ばかりだ。お前がなぜうちの師団に配属されたのかわからんが、きっと我々と同じように他の師団からはみだした者と見なされたのだろう。我々は次の峠で消える。一緒に来るならそれもいい、残るならそれもありだ」
師団長は私の目をじっと見た。
「消えてどうする?」
私は師団長を睨みつけた。
「師団は全滅。みんな死んだことにして名前を変え、他国で生きる。お前が我々と行動を共にしないなら、魔法でお前がこの話を聞いた記憶は消す。全滅した師団の生き残りとして、他の師団に行くだけだ」
名前を変えて新しく生きるか。
「師団長は記憶が消せるのか? 魔導士なのか?」
「あぁ、そうさ、俺は魔道師団にいたが、国王にたてついて軍に飛ばされたんだ」
「師団長、私の……私の記憶を消してくれないか? 産まれてから今までの全ての記憶を消してほしい。もうギルバートとして生きていたくない。本当なら自害したいのだが、何故か自害できない魔法がかけられているようだ。何度も試みたがダメだった」
師団長はふっと笑った。
「やっぱり不幸だな。わかったお前の記憶を消してやるよ。かの国に飛んだら、お前は事故で記憶を失った事にする。そこから先はお前の人生だ。自分で作っていけ」
私達の師団は峠で崖から落ち全滅した。
◇◇◇
「ここは?」
「ここはルロワーナ国の病院です。あなたは川でどこからか流されてきたようで岸に打ち上げられているところを発見され、この病院に運ばれてきました。酷い怪我をしていて、10日も意識が戻らなかったのですが、意識が戻ってよかった。名前と住まいを教えてもらえますか?」
医師だろうか? 白衣を着た男は私に名前と住まいを聞く。
名前? 私の名前は……。
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