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40話 キースがいない(ベアトリス視点)
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「ベアトリス様、大変です。ザシャ殿が……」
「ザシャがどうしたの?」
キースを呼び出したすぐに王妃様に呼ばれた。面倒だけど、さすがに断るわけにはいかない。
仕方なく行ってみたら、行方不明になっ
ているアビゲイルの話だった。
私には関係ないしどうでもいい話なのだけれど、私が叱ってすぐ消えたせいか、なんとなく私への風当たりが強い。
長い時間、嫌味をぐちぐち言われてへとへとになったわ。
さぁ、キースに慰めてもらおう。かなり待たせたけど、まぁ、キースなら大丈夫だと思って部屋に戻ると、侍女が青い顔をして駆け寄ってきた。
「なかなかこないので部屋に行ってみたら、ザシャ殿がいないのです。探したけどみつからないので、戻っているかと思い部屋に行ったら、この走り書きのようなものがありました」
侍女の手には紙が握られている。
私はそれを奪い取り広げてみた。
『すみません』
それだけ書いてある。
何がすみませんなのだろう? 私は首を捻った。
そっか、何か用があって、今日の呼び出しに行けなくなったとかかしら? でもそれなら侍女に託けるわよね。
まぁ、いいか。そのうち戻って来るでしょう。
だって、キースはお父様に家族を人質に取られて、私についてこの国に来ているのだもの。私には逆らえない。別に私だってキースに手荒な真似をしているわけじゃないわ。
好きな魔道具作りだってさせてあげてるじゃない。私が淋しい時に傍にいて私を慰めるのがキースの仕事でしょう。だから、いつでも呼び出していいのよ。
私だって、別にキースに愛情があるわけじゃないわ。ただ身体は好き。他の誰よりも良かったの。でもキースはそう思ってないのかしら?
これでも私は大国の王女で、この国の王太子妃よ。その私から寵愛を受けているキースは光栄なんじゃない?
しかし、キースはそれから全く姿を見せなかった。
「ベアトリス様、やっぱり何かあったのではないですか? ザシャ殿の姿が見えなくなってもう5日ですよ。何かあったのでは?」
「そうね。お父様に連絡してみようかしら? もし逃げたなら家族は殺されちゃうのよね?」
「そうですね。人質ですからね」
それもなんだか寝覚めが悪い。キースにはたくさん良い目を見せてもらったのだし、家族を殺されたら可哀想だ。
「ベアトリス様、もしも、あの者が寝返り、陛下や殿下に真実をバラしてしまったら……」
「まさか、それはないわ。キースは小心者よ。ないわ」
「しかし、ひょっとして捕らえられ、脅されたら簡単に喋ってしまうかもしれません」
そうね。確かに脅されたらしゃべるかもね。ヤバい。
「お父様に連絡するわ」
私はすぐに極秘伝書を送った。極秘伝書が到着したらなにかしらなメッセージがくるはず。しかし、待てど暮らせど何のメッセージもこない。誕生日パーティーは近づくがアビゲイルもキースも戻らない。
私はだんだん不安になってきた。
「殿下にキースがいなくなったことを話してみるわ。捕らえられているなら、もう、何か言ってきてもいいはず。まだ何も言ってこないということは、捕らえられていないのだと思うわ」
「そうですね。お話になった方がよろしいかもしれませんね」
私は夫、ヘンリーの部屋に向かった。
「ヘンリー様、お話があるのですがよろしいですか?」
仕事をしていたようだが私の言葉に顔を上げた。
「何かな?」
「実は1週間ほど前から、従者のザシャが行方不明なのです」
「ザシャが? どうして今まで言わなかったのだ?」
夫は怪訝な顔をしている。
「どこかに行っているのかと思っていたのですが、誰も行き先を聞いていないようなので心配になって。アビゲイルも見つかっていないし、ふたりとも何かの事件に巻き込まれたのではないかと思って……」
だんだんしどろもどろになってしまう。
「アビゲイルを探させている騎士団にザシャも探せと言っておこう」
夫に捕らえられているわけではないようだ夫の私に対する態度は普段と変わらない。
私はひとまず安心して部屋を出た。やっぱり夫のことが苦手だ。なんでもお見通しみたいな目が怖い。
部屋に戻り侍女にお茶の支度を頼む。
「ベアトリス様、どうでございましたか?」
「殿下は何も知らないみたい。捕まってはいないみたいよ。良かったわ。それにしてもキースはどこに行ったのかしら? お父様からも何も連絡ないし。だいたい、あの、『すみません』は何に対してのすみませんなのかしら?わからないわ」
私がお茶をひと口飲んで小さく息を吐いた。
「ザシャがどうしたの?」
キースを呼び出したすぐに王妃様に呼ばれた。面倒だけど、さすがに断るわけにはいかない。
仕方なく行ってみたら、行方不明になっ
ているアビゲイルの話だった。
私には関係ないしどうでもいい話なのだけれど、私が叱ってすぐ消えたせいか、なんとなく私への風当たりが強い。
長い時間、嫌味をぐちぐち言われてへとへとになったわ。
さぁ、キースに慰めてもらおう。かなり待たせたけど、まぁ、キースなら大丈夫だと思って部屋に戻ると、侍女が青い顔をして駆け寄ってきた。
「なかなかこないので部屋に行ってみたら、ザシャ殿がいないのです。探したけどみつからないので、戻っているかと思い部屋に行ったら、この走り書きのようなものがありました」
侍女の手には紙が握られている。
私はそれを奪い取り広げてみた。
『すみません』
それだけ書いてある。
何がすみませんなのだろう? 私は首を捻った。
そっか、何か用があって、今日の呼び出しに行けなくなったとかかしら? でもそれなら侍女に託けるわよね。
まぁ、いいか。そのうち戻って来るでしょう。
だって、キースはお父様に家族を人質に取られて、私についてこの国に来ているのだもの。私には逆らえない。別に私だってキースに手荒な真似をしているわけじゃないわ。
好きな魔道具作りだってさせてあげてるじゃない。私が淋しい時に傍にいて私を慰めるのがキースの仕事でしょう。だから、いつでも呼び出していいのよ。
私だって、別にキースに愛情があるわけじゃないわ。ただ身体は好き。他の誰よりも良かったの。でもキースはそう思ってないのかしら?
これでも私は大国の王女で、この国の王太子妃よ。その私から寵愛を受けているキースは光栄なんじゃない?
しかし、キースはそれから全く姿を見せなかった。
「ベアトリス様、やっぱり何かあったのではないですか? ザシャ殿の姿が見えなくなってもう5日ですよ。何かあったのでは?」
「そうね。お父様に連絡してみようかしら? もし逃げたなら家族は殺されちゃうのよね?」
「そうですね。人質ですからね」
それもなんだか寝覚めが悪い。キースにはたくさん良い目を見せてもらったのだし、家族を殺されたら可哀想だ。
「ベアトリス様、もしも、あの者が寝返り、陛下や殿下に真実をバラしてしまったら……」
「まさか、それはないわ。キースは小心者よ。ないわ」
「しかし、ひょっとして捕らえられ、脅されたら簡単に喋ってしまうかもしれません」
そうね。確かに脅されたらしゃべるかもね。ヤバい。
「お父様に連絡するわ」
私はすぐに極秘伝書を送った。極秘伝書が到着したらなにかしらなメッセージがくるはず。しかし、待てど暮らせど何のメッセージもこない。誕生日パーティーは近づくがアビゲイルもキースも戻らない。
私はだんだん不安になってきた。
「殿下にキースがいなくなったことを話してみるわ。捕らえられているなら、もう、何か言ってきてもいいはず。まだ何も言ってこないということは、捕らえられていないのだと思うわ」
「そうですね。お話になった方がよろしいかもしれませんね」
私は夫、ヘンリーの部屋に向かった。
「ヘンリー様、お話があるのですがよろしいですか?」
仕事をしていたようだが私の言葉に顔を上げた。
「何かな?」
「実は1週間ほど前から、従者のザシャが行方不明なのです」
「ザシャが? どうして今まで言わなかったのだ?」
夫は怪訝な顔をしている。
「どこかに行っているのかと思っていたのですが、誰も行き先を聞いていないようなので心配になって。アビゲイルも見つかっていないし、ふたりとも何かの事件に巻き込まれたのではないかと思って……」
だんだんしどろもどろになってしまう。
「アビゲイルを探させている騎士団にザシャも探せと言っておこう」
夫に捕らえられているわけではないようだ夫の私に対する態度は普段と変わらない。
私はひとまず安心して部屋を出た。やっぱり夫のことが苦手だ。なんでもお見通しみたいな目が怖い。
部屋に戻り侍女にお茶の支度を頼む。
「ベアトリス様、どうでございましたか?」
「殿下は何も知らないみたい。捕まってはいないみたいよ。良かったわ。それにしてもキースはどこに行ったのかしら? お父様からも何も連絡ないし。だいたい、あの、『すみません』は何に対してのすみませんなのかしら?わからないわ」
私がお茶をひと口飲んで小さく息を吐いた。
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