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32話 極秘伝書(ラウレンツ視点)

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 妹のディートリントから極秘伝書が届いた。開ける前からややこしいことに巻き込まれそうな気がしたが、案の定だ。手紙を読みため息をついた。

 ヘンリー殿下と一緒にグローズクロイツ領へ来いか。そして余白には他言無用。秘密裏にとある。

 王宮では、姫が消えたと大騒ぎになっている。うちに来ていないかと城の者が聞きに来ていた。

 アビゲイルからは何の連絡も無い。信頼されていると思っていたのに私はショックだった。

 こんな伝書が来るくらいだ、きっとアビゲイルがグローズクロイツ領にいるのだろう。ショックだが、居場所がわかったので安心した。

 私はアビゲイルの年の離れた婚約者だ。デビュタントが済み、学校を卒業すればアビゲイルはアイゼンシュタット家に嫁ぐことになっていた。

 しかし、今はギルバート殿下を切り捨て、アビゲイルを王太子にすることになり、私との婚約も解消する方向に動いている。私は嫡男で王配にはなれないからだ。

 そもそも私を婚約者にしたのはアビゲイルを守るためだ。国の盾であるアイゼンシュタットに守られていれば何人も手は出せない。アビゲイルはある者にとっては邪魔者で、いつ狙われてもおかしくなかったからだ。

 しかし、アビゲイルが年頃になり、ちゃんとした男が現れれば、婚約は解消する手筈になっていた。

 それにしても、ヘンリー殿下と一緒に来いとは? ただアビゲイルを連れて帰るだけなら別にヘンリー殿下でなくても私だけでもいいはずだ。

 まさか、あのことがバレたのか? いや、そんなはずはない。だったら何だ? 

 ただの思い過ごしであって欲しい。私は自分ひとりで動くべきではないと考え、他言無用とあるが、父に話をした。

「姫はディーのところにいるのだろうな。しかし、ヘンリー殿下と一緒にとは? まさか?」

「私もそのまさかではないかと。ディーの周りには有能な魔導士もいます。ひょっとして何かの拍子に知ってしまったのかも?」

 父は難しい顔をしている。

「とにかく姫は、ただ王妃に叩かれたくらいで消えるような人間ではない。きっと何か事情がある。ディーはそれを秘密裏に殿下に伝えたいのではないか? あのこととは、別のことかもしれない。とにかく殿下にご一緒願おう」

 父はヘンリー殿下とは幼い頃からの友人で、強い信頼関係にある。ヘンリー殿下のことならなんでも知っている。父はヘンリー殿下に極秘伝書を送った。

 殿下はすぐに我が家にやってきた。

「ハワード、急にどうした?」

「殿下、ここに来たことは誰にも伝えておりませんな?」

「あぁ、誰も知らない。少し休む、呼ぶまで誰も来るなと言って部屋に入ってから移動した。きっと皆は疲れて眠っていると思っているだろう」

 私はディートリントから来た伝書を殿下に見せた。

「多分、姫はグローズクロイツにいるのだと思います。しかし、他言無用、秘密裏にとあのディーが極秘伝書をよこすのなど、ただ事とは思えません」

 殿下も深刻そうな顔をしている。

「そうだな。とにかくグローズクロイツに行こう」

 私達は殿下の移動魔法でグローズクロイツに飛んだ。


◆◆◆


「ラウ、お父様……」

「アビー、ここにいたのか。心配したぞ」

 殿下がアビゲイルに駆け寄った。

「私が誘拐されて殺されてるとでも思ったの?」

 え? 誘拐? 殺人? どういうことだ。

 私は殿下の顔を見た。殿下は姫の言葉に驚いているようだ。

「ラウ、来てくれてありがとう」

 殿下の手を払いのけ、アビゲイルが私の傍に来て腕を掴んだ。


「お兄様、他言無用と言ったのにお父様を巻き込んだわね」

 ディートリントは私を睨む。

「私だけでは判断しかねたんだ。申し訳ない」

「謝るなら私ではなくて、お父様によ。でも、まぁ、お父様がいた方が良いかもしれないわね。アビー、ベアトリス様の話をしても良いかしら?」

「ええ」

 姫は頷く。

 ディートリントが姫に代わって、姫が聞いた話を一部始終我々に聞かせてくれた。

 まさか、王太子妃がそんなことを企だてているとは。私は足が震えた。殿下と父を見ると、ふたりは平然としている。ふたりは知っていたのか。

「どうやら巻き込まれたのはお父様ではなく、お兄様の方だったみたいね。伝書はお父様に送るべきだったわ。ごめんなさい」

 ディートリントが頭を下げた。

「いや、私もアイゼンシュタット家の次期当主だ。知らないわけにはいかないだろう。殿下、父上、話してもらえますか?」

 私の言葉にふたりは頷いた。

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