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25話 コンラート親子1

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 鍛錬をしようと裏庭に行ったら12~3歳くらいの細~い男の子が蹲っていた。

 騎士団の練習はもう終わっている時間だ。何をしているのだろう?

「ねぇ、どうしたの?」

「なんでもない!」

 男の子は私の顔を見て逃げた。不思議に思ったがその時は大して気にも留めなかった。

「アル、息子が消えた」

 コンラート様が憔悴しきった顔でアルトゥール様の執務室に入ってきた。

「消えたって? どういうことだ」

「朝起きたら、こんな置き手紙を残していなくなっていたんだ。みんなで探したんだが、見つからない」

 コンラート様の息子か。

 手に握っていた手紙には「無理です。さようなら」と書いてあった。握りすぎてぐしゃぐしゃになっている。

 アルトゥール様は手紙を見て首を傾げた。

「何が無理なんだ?」

 コンラート様は頭を抱えている。

「騎士になるのが無理なんだそうだ」

「えっ? よく騎士団の練習に参加していたじゃないか」

「そうなんだが……」

 ひょっとしてあの子だろうか?

「ラート様、ひょっとして背はこれくらいで、痩せ型の金髪の男の子?」

 私の言葉にコンラート様は目を丸くする。

「そ、それ、その子だ。どこ、どこで見たのですか?」

「裏庭よ。鍛錬しようと出た時だから3時間くらい前かしら? 蹲っていたから声をかけたら走って逃げたの」

「何があったんだ? リオはなぜ逃げたんだ? あっ、ヴィー、ラートの息子はリオネルというんだ。確か12歳だったかな」

 リオネルか。あの時の男の子、なんだか切羽詰まっているみたいだったわね。

「学校の話をしたんだ。この領地に学校ができる。騎士科がある。お前はそこで学べと。お前はわたしの息子だから皆の手本になれと」

「リオは騎士になるのを嫌がっていたのか?」

「そうなんだ。しかし、リオは騎士団長の嫡男だ。騎士以外の選択肢は無い」

 はぁ~、何を言っているんだ? コンラートはこんなに石頭のわからずやだったのか?

「とりあえず探すしかないだろう。ラート探してこい」

 アルトゥール様はコンラート様に捜索を命じた。


◇◇◇


「リーゼ、ラート様の嫡男のリオって子知ってる?」

 私は子供部屋に入るなり、リーンハルトを抱き上げ、アンネリーゼに話しかけた。

「リオ? 知ってるわよ。リオならそこにいるわ」

 アンネリーゼが指をさす方向を見ると朝見た顔があった。

「あらま、こんなところにいたのね。ラート様が必死になって探してるわよ」

「必死のふりをしているだけです」

 リオネルは無表情だ。どうやらコンラート様とリオネルの間には何かしらの確執があるようだ。

「じゃあ、魔法で姿を消してあげる。あなたの姿は誰にも見えないから、ラート様にくっついてみては? 本音が聞けるんじゃない?」

「そんなの卑怯じゃありませんか!」

「だったら正面から向き合って話し合ってみたらいいじゃない」

 リオネルは黙り込んだ。

「一人じゃ不安なんでしょ? 私も一緒に透明人間になってあげるわ」

 アンネリーゼがくすくす笑っている。

「私は何度も話をしました。父に何度も気持ちをうちあけたのです。でも父は聞く耳を持ってくれない。頭ごなしに怒鳴るだけなんです」

「ラートおじさまは脳筋だからね。リオはおばさまに似て繊細なのよ。頭も良いし、魔法も使える。騎士より魔導士か文官に向いていると思うわ」

 リオネルとアンネリーゼの話を聞くだけでは、コンラート様が折れて、騎士にするのを諦めてくれればそれでOKだ。

「なんでラート様は騎士にこだわっているの?」

 リオネルは苦々しい表情をした。

「嫡男だからです『ラーゲンバッハ家の嫡男は代々、グローズクロイツ領の騎士団長を勤めてきた。お前の代で途切れるわけにはいかん。そんなことになったらご先祖様に顔向けができない』と怒鳴って終わりです」

 馬鹿じゃないの? そんなことで縛るなんて。

「リオにはひとつ下の弟がいるの。アイザックって言うんだけど、ザックは脳筋。おじさまにそっくりだから、騎士団長にはザックがなればいいのよ。ねっ?」

 アンネリーゼは小首を傾げ、リオネルに同意を求める。

「私は適材適所だと思います。努力をすれば騎士団長になれるかもしれません。でも私より適任者はいるはずです。私は医師になりたいんです」

 素敵じゃない。グローズクロイツ領は医師が足りない。リオネルが医師になるなら応援するしかない。

「リーゼはどう思う? リオネルは医師になれると思う?」

「リオネルは頭がいいし、優しいわ。でも気が弱いから戦闘には向いていない。魔力が強いから魔法医師になればいいと思う。努力家だから絶対なれると思うよ」

 アンネリーゼはベタ褒めだ。それなら推しても大丈夫だろう。

 私はリオネルの顔を覗きこんだ。

「本気なの? 本気で医師になりたいのね?」

「はい。グローズクロイツ領に医師がいれば母は助かったかもしれない。その時に医師になろうと誓ったのです」

 お母様が亡くなっているのね。それで医師か。

「本気なら、私が力になるわ。任せなさい」

「えっ? でも……」

 アンネリーゼは狼狽えるリオネルを見て、クスリと笑う。

「ディーママに任せておけば大丈夫よ。今、この領地でディーママに逆らえる人はいないわ」

「領主様でも?」

「お父様なんて手のひらでコロコロよ」

 驚きのあまり、リオネルは目を見開いている。

 手のひらでコロコロなんて人聞き悪いじゃない。

「ところでリーゼ、この人は誰?」

「「はぁ~?!」」

 私達は顔を見合わせた。

「もう、リオネルったら。この人はグローズクロイツ夫人。私の義母よ」

「え~~~」

 リオネルはあまりの驚きで腰を抜かしてしまったようだ。こんなんで医師になれるのかしら?

 私はため息をついた。


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