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10話 討伐

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***R15とまではいかないと思いますが、ちょっと魔獣との戦闘シーンあります。苦手な方は飛ばしてください。


 

 屋敷を出ようとしていると、上着の裾を引っ張られた。振り向くとアンネリーゼがいた。

「討伐に行くんでしょ?」

「ええ」

「生きて帰ってきなさいよ」

 アンネリーゼは不安そうな顔をしている。

「当たり前よ。私を誰だと思っているの?」

 私はわざとおどけたように言った。

「慢心すると足をすくわれるわよ。慎重に」

「わかったわ。全くどちらが大人かわからないわね」

 アンネリーゼは不安気だが、少し微笑んだ。

「ねぇ、リーゼ。お父様にも言葉をかけてあげて。きっと喜ぶわ」

 そう言って、アンネリーゼをアルトゥール様の前に押し出した。

 ふたりの間には微妙な空気が流れている。沈黙を破ったのはアンネリーゼだった。

「お父様や皆のご武運を祈っております」

「ありがとう」

 アルトゥール様はうれしそうだ。

 それにしても、ご武運って? 子供がそんなこと言う?

「リーゼ、そんな言葉どこで習ったの?」

私は小声でアンネリーゼに聞いた。

「漫画よ」

「漫画? 何それ?」

「な、なんでもいいじゃない! とにかく気をつけてね」

 アンネリーゼは慌てて走っていった。

「アルトゥール様、漫画って何ですか?」

「さぁ、なんだろう?」

 首を傾げている。まぁ、いいか。戻ったらゆっくり聞こう。


◆◆  ◆


 西の森に近づくにつれ、霧と臭いが酷くなってきた。

「ディー、この霧は瘴気だ。そしてこの臭いは魔獣の臭いだ。これだけ臭うとなると、かなりの魔獣がいるようだ」

 これが瘴気か。初めて見た。王都も、うちの領地にもこんな瘴気はない。

 ふと、アルトゥール様を見ると何やら手を上にあげ動かしている。

「何をしているのですか?」

 不思議に思い尋ねてみた。

「浄化だよ。我々グローズクロイツ一門は浄化魔法を使える者が多いんだ。みんな瘴気を浄化するために生まれてきたのだと、浄化魔法が使えるものは魔獣討伐隊に参加して、瘴気を祓ったり、土地や水の浄化をしている」

 そうなのか。私は浄化魔法は使えないがそんなに使い手が沢山いるなら使えなくても問題ないな。

「危ない!」

 声がした瞬間、黒い影が横切り、真っ赤な血が噴き出した。

 魔獣か?

 アルトゥール様が剣を手にしている。魔獣を斬ったようだ。

「ディー、気をつけろ。もうこの森は魔獣だらけだ」

 現れた魔獣をバッサバッサと斬り捨てながら話す。慣れていると言うべきか。とにかく日常のようにしているのが凄い。

 アルトゥール様は振り返り、後ろの騎士団の人達に声をかけた。

「奥の泉だ。魔獣はそこから湧いているようだ。私は泉に行って穴を塞ぐ、みんな死ぬなよ!」

 そして、私の顔を見た。

「ディー、行くぞ」

 あら、なんだかかっこいいわね。

 アルトゥール様は魔獣を斬りながらどんどん奥に進む。

 私も剣に魔法を込めた。

「アル! 上だ!」

 後ろからコンラート様が叫ぶ。私は飛び上がり、上からきた魔獣を斬った。

「「「「え?」」」」

 皆驚いているようだ。

「固まっていたらやられるわよ!」

 私は跳ねながらアルトゥール様に纏わり付く魔獣達を斬り捨てていく。

「やるな」

 アルトゥール様が口角をあげた。

「当たり前よ」

 グローズクロイツの騎士達に混じり、父や兄弟も斬りまくっている。

「ラート様! 右!」

 私は叫び火炎魔法を繰り出した。木に当たると火事になる。魔獣にヒットさせなくては。

「サンキュー!」

 上手くヒットし、魔獣は焼けこげ消えた。

「ディー! 足元だ!」

 私は飛び上がり木の枝に乗り、魔法で地面の土を動かした。魔獣を土中に引き摺り込み窒息させた。

 今度は木の枝から枝に飛び移りながら風魔法で斬り刻む。

「上から来る魔獣は任せて!」

「頼む! デカい奴は任せろ!」

 アルトゥール様は大きな剣を素早く振り回し、魔獣をなぎ倒していく。

 カッコいい!!

 コンラート様や騎士達もバッサバッサと魔獣を片付けていく。

 魔獣って死ぬと魔石を残し消滅するのだな。初めて知った。魔石がゴロゴロしている。後で拾わないといけないな。

 しかし、斬っても斬っても魔獣は減らない。早く泉に行って、元を断つしかない。

 泉は森の奥だ。

「ぎゃー!」

 悲鳴だ。誰かやられたのか?

 木の上から後ろを見ると、アルトゥール様より大きな魔獣が騎士達を掴み、握り潰そうとしている。

 腕を斬り落とすか。私は剣に魔法を込め、魔獣に飛びかかった。

「ヤーーーー!」

 コンラート様も反対の腕を斬ろうと飛びかかる。

 その時、前方にいるはずのアルトゥール様が現れ、魔獣を袈裟懸けに斬り捨てた。

「みんな大丈夫か!」

 私達が腕を斬ったので、握りつぶされそうになっていた騎士は放されたが、出血が酷く、意識がない。骨が砕けているようだ。

「回復魔法を掛けてから追うわ! 早く行って!」

「回復魔法が使えるのか?」

「ええ、だからこの人達は私に任せて! 早く!」

「わかった! 頼む!」

 アルトゥール様は泉に急いだ。

「ディー、早く回復魔法をかけてやれ、ここは私が守る」

 兄と何人かの騎士が周りを囲ってくれた。

 私は怪我をして、意識のない騎士達に回復魔法をかけた。光が私の手から溢れ出し、怪我人を包む。傷は塞がり、骨が砕けた四肢は元通りに戻る。

 回復魔法を初めて見た騎士達は目を丸くしている。

「怪我なら私が治すから、みんな心置きなくやって! ただ、死んじゃダメよ! 死人は生き返らせられないからね!」

「「「「「おー!」」」」」

 騎士達は声を上げ、魔獣に向かっていく。

 兄は私を見て呟いた。

「まるで水を得た魚だな」

「アルトゥール様が泉に着くまで、みんな頑張って!」

 倒れている怪我人に回復魔法を掛けながら、私もアルトゥール様の後を追い、泉に向かった。


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