【完結】公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す

金峯蓮華

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35話 顛末

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 あのパーティーから3ヶ月経った。来週はいよいよ私達の結婚式だ。

 母と私は移動魔法を習得し、母はリルゾール王国とセレニカ王国を魔法で行ったり来たりしている。私はルセフィ殿下がなかなかひとりでセレニカ王国に還らせてくれないので、せっかくの移動魔法も近距離にしか活用できていないが、さすがに結婚式前ということでセレニカ王国の実家に里帰りしている。結婚前から里帰りとは変な感じではあるが……。

 当日はブロチゾラム公爵家で用意をし、大聖堂まで馬車を出すそうだ。父と弟は母が移動魔法でリルゾール王国に連れて行き、親族や参列してくれる方々は馬車で遠い道のりを参加してくれる。王太子の婚礼ということで、セレニカ王国の国王陛下、王妃殿下、王太子のテオドール様も参加してくれる。



 あのパーティーでは、やはりゾレアは魅了の魔法を仕掛けてきた。リドカイン様がずっと魔法にかかったフリをしていたことも全く気がついていなかったようで、あの場にいた男性全てに魔法をかけ、最後はルセフィ様や国王陛下にも魔法をかけたという。もちろんみんなかかったふりだ。

 リルゾール王国の高位貴族や城勤めの者は皆、魅了の魔法を含む、精神拘束魔法が無効化になるような魔道具を身につけたり、幼い頃から無効化の魔法を体内に取り込む訓練をしたり、無効化の薬湯やポーションなどで防いだりと色々なやり方で精神拘束魔法にかからないようにしているのでかかるわけがない。ただそれは国内の公然の秘密なのでペンタサ王国出身のゾレアもセレニカ王国出身の私も知らなかったのだ。

 私も結婚が決まってすぐに精神拘束魔法を含めた悪意の攻撃魔法全て無効化の加護を女神様からもらった。私は愛し子なる者だそうで、皆さんのような修行や工夫をしなくても良いらしい。我ながら狡いなぁと思うが、ミオナール様曰く「女神の自己満足に付き合ってあげて~」だそうだ。


 話を戻そう。パーティーで面白いくらいに引っかかり油断したゾレアを別部屋に連れて行き、そこでがっつり逆精神拘束魔法をかけ、計画をペラペラ話させてから、一緒にペンタサ王国に入った。

 ペンタサ王国では、ザイティガ様とリドカイン様がゾレアの協力者として、ルセフィ様を人質にして、国王に謁見をとりつけた。もちろん幻影魔法で姿を隠した魔法騎士団も一緒に謁見室に入った。

 そして、ルセフィ殿下の合図でペンタサ王国を捕らえた。一瞬のことだったという。

 ペンタサ王国の首脳、中枢の貴族達、暗部の者達も捕らえられ、処刑された。

 ペンタサ王国は土地や民、全て魔法無効化の処理をされ、5つに分割され、隣接している国に下げ渡されることになった。

 たった1週間くらいの間にあっけなく全ての事が終わった。前の世界でゾレアが現れてからの一年と7歳で前の世界の記憶が戻ってからの私の辛い思いや恐怖や不安は何だったのだろうと思う。

 里帰りしている私は、ルセフィ様と結婚して、セレニカ王国を離れる挨拶のために王宮を訪れた。

 謁見室ではなく、プライベートエリアのサロンに通されて、陛下や王妃様に頭を下げられた。

 私としては、今がこの上ないほど幸せな状態なのに、王妃様は自分達に気を遣って私が無理をしていると思い込んでいるようで、私が何を言っても聞く耳を持たずに謝罪をする妃殿下になんだか後ろめたくなってくる。いまだにクラリス様がわがままを言い、私が身を引いたとみんなは思っている。

「もう私のことは気にせず、嫁いでくるクラリス様をよろしくお願いします」
 
 私が言うと、妃殿下は号泣された。

「ルナベルは本当に優しいのね。やっぱり私はルナベルがいいわ。陛下、クラリス姫との婚約は断りましょう」

 妃殿下、それは困ります。国王陛下も困った顔をしている。

「そればかりは無理だな。そんな事をしたら我が国は滅びてしまう。ルナベルのおかげでリルゾール王国とは固い絆が結ばれたのだ。そなたも今回のペンタサ王国の件を知っているだろう? リルゾール王国を敵に回すようなことは私はできないよ」

 国王陛下が妃殿下を諫める。

 愛するルセフィ様と結婚できそうなのに、王妃殿下、お願いだから邪魔しないでくださいと心の中で祈った。

「ルナベル、この度の事は本当に申し訳ない。ただ、テオドールと結婚して、セレニカ王国の王太子妃になるより、ルセフィ殿下と結婚して、リルゾール王国の王太子妃になる方が幸せかもしれん。リルゾール王国は大国だし、ルナベルには血縁者もいる。こらえてくれ」

 国王は私にだけ見えるようにウインクをして、また頭を下げる。

 王妃殿下やテオドール殿下は前の世界のことは知らないらしい。事がことだけに、セレニカ王では、ジュリナのお父様の魔導士団長と我が父、リドカイン様のお父様で外務大臣(実は暗部の元締)、イグザレルト様のお父様の騎士団長が中心となり、隠密に計画し行動していたらしい。国王陛下に知らされたのも全てが繋がってからだったと父から聞いた。

「陛下、王妃殿下、ありがとうございます。セレニカ王国とリルゾール王国の橋渡しのために頑張ります」

「あぁ、頼む」

「嫌になったらいつでも帰ってきていいのよ」

 いやいや、それはない。王妃殿下、それはダメだよ。
 
 私はカーテシーをして王宮を後にした。

 部屋を出て玄関に向かっていると、テオドール殿下に会った。

「戻っていたのか」

「はい、ご挨拶に参りました」

 テオドール殿下はバツが悪そうな表情で私を見る。

「ペンタサ王国のこと大変だったな。我が国も狙われていたなんて驚いた。君やジュリナ嬢からの進言で宰相や魔導士団長達が動いていたなどとは全く知らなかった。同じ時に同じ場所にいたのに王太子失格だな」

 テオドール殿下は留学中にゾレアとペンタサの情報をキャッチしたと思っているようだ。前の世界のことは何も思い出さないのだろう。

「そのようなことはありません。たまたまです」

「それに婚約を解消するようなことになって本当に申し訳ない。君を犠牲にするなんてと母上は激怒していた」

「私はルセフィ様とリルゾール王国で幸せになります。殿下もクラリス様とこのセレニカ王国で幸せになってください。クラリス様は決してわがまま姫などではありません。物事を大きく見る事ができ、すぐに決断できるお方です。クラリス様が嫁ぐ事でこのセレニカ王国は発展するはずです。クラリス様を大切にしてくださいませ」

「そうだね。もう決まった事だ。私は国益のためにクラリス姫を選んだ。腹を括ったつもりなのにダメだな」

 ふっと自虐的に小さく微笑む。真面目で堅物。この人が前の世界の記憶が戻ったら、おそらく罪の意識で自害するだろう。神様は必要な者にしか前の記憶を残さなかったのだと思う。

「クラリス様とお幸せになってください。おふたりのお幸せをリルゾール王国で祈っておりますよ」

 私はテオドール殿下に別れを告げ、自宅に戻った。



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