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7話 歓迎パーティー
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歓迎パーティーは思っていたよりも大規模なものだった。リルゾール王国の貴族がほとんどみんな集まっていたのではないかと思えるくらいの人数だ。他国の子供達の留学の歓迎パーティーでこんなに集まるとは驚いた。そこはやはり友好国の王太子の歓迎パーティーだからだろう。
国王陛下の挨拶、引率者であるセレニカ王国宰相の父の挨拶、そしてテオドール殿下の挨拶がおわり、歓迎パーティーが始まった。
私はファーストダンスは婚約者のテオドール殿下と踊る。毎度毎度のお約束だ。
テオドール殿下は真面目な方なので、教本通りの四角四面なダンスをきちんと踊る。それはそれでいいのだろう。私もそれに合わせて教本通りにきちんと踊る。
一曲踊り終わったら解放される。殿下に触れるとあの時の事を思い出して震えがでる。ゾレアが現れてからの毎日は地獄だった。昨日まで優しい笑顔を向けてくれていた人が嫌悪、いや憎悪の眼差しで私を見て罵詈雑言を叩きつけてくる。最後には無実の罪で断罪され、死を選ぶしかなかった。今の殿下はまだ優しいままだ。大丈夫大丈夫。殿下にわからないように小さく深呼吸をして、作り笑顔で『頑張れ私!』と自分に叱咤激励する。
「ルナベル、疲れてはいないか? 体調はどうだ?」
殿下は震えを抑えている私を気にかけてくれているようだ。記憶がないまま今の世界にいたら、きっとまた殿下を好きになっていただろう。
でも、私はゾレアと出会ってからの殿下に受けた仕打ちを覚えている。また、あんな風になるのかと思ったら作り笑顔が引き攣ってしまう。
「大丈夫ですわ。旅の疲れかもしれません。ただ、リルゾール王国の空気が合っているようで心地いいので体調も良くなりそうな気がします」
「そうか、ならよかった。でもくれぐれも無理はしないでくれ。辛くなったら私でもアロでもいいので伝えて欲しい」
「はい。ありがとう存じます」
ステップを踏み、くるりとターンを決めたところで曲が終わった。
ダンスが終わり、ホールから出ると、国王陛下が私達の前に来た。
「テオドール殿、次は娘のクラリスと踊ってやってくれぬか? ルナベル嬢よろしいかな?」
「はい、もちろんでございます」
私はにっこり笑い、殿下の手を離した。
クラリス様はピンクブロンドの髪をハーフアップにまとめている。おろしたウェーブがキラキラしてとても可愛らしい。瞳の色も青にピンクが混ざったようで美しい。本当に花のような王女だ。
わがまま王女だなんて信じがたい。
「ありがとう。ルナベル様はお兄様と踊ってあげてね」
クラリス様はそう言うとルセフィ殿下の背を押して前に出す。
ルセフィ殿下と踊れるなんて夢のようだ。どうしよう。いつもの作り笑顔が壊れて本当にへらへらしてしまいそうだ。
「ルナベル嬢、もしよろしければ私と踊ってもらえないだろうか」
ルセフィ殿下が私をエスコートしてくれようとしている。すぐに手を取りたいが、さすがにこの場で私の一存はまずいだろう。テオドール殿下と父の方を見る。テオドール殿下はにっこり笑って頷いている。父も頷いた。
国的には問題ないようだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
私はルセフィ殿下の手を取った。
ルセフィ殿下は背が高く、とても鍛えられた体型をしている。胸板が厚く、腕も太いし、手も大きい。王子様というよりは騎士のような体型だ。濃いブロンドの髪を撫で付けている。神秘的なまるでタンザナイトを思わせる瞳。ほのかに香るシトラス系の香り。何もかもにドキドキする。
「ルナベル嬢はダンスが上手だな。とても楽しい。私はあまり踊らないのだが、ルナベル嬢とならずっと踊っていたい」
あ~、声も素敵だわ。落ち着いた感じのちょっと低めの声。いい~。
私もそうです! ルセフィ殿下とずっと踊っていたいけど、私は婚約者がいる身。そんなわけにはいかないのです。
「ありがとうございます。でも、婚約者以外と何度も踊るわけにはまいりませんわ。お名残惜しいですが、一曲だけにいたしましょう」
本当にお名残惜しい。
ルセフィ殿下は一瞬、残念そうな顔をしてくれたように気がしたが、すぐにもとに戻った。
「君は確か、テオドール殿の婚約者だったな」
忘れていたのだろうか?
曲が終わった。楽しいと時間が短く感じる。まだ離れたくない。でも離れないといけない。
「ありがとうございました。また、機会がございましたら、一緒に踊って下さいませ」
カーテシーをし、ルセフィ殿下の元を離れた。
あぁ、やっぱりルセフィ殿下が好きだ。テオドール殿下に対する気持ちとは全然違う。でも悟られてはいけない。婚約を解消してもらうまでは、私はテオドール殿下の婚約者なのだ。仮面を被って作り笑顔で頑張るしかない。
もし、上手く解消してもらえても、ルセフィ殿下と結ばれることなんてない。この気持ちは心の奥深く秘めておくしかない。
国王陛下の挨拶、引率者であるセレニカ王国宰相の父の挨拶、そしてテオドール殿下の挨拶がおわり、歓迎パーティーが始まった。
私はファーストダンスは婚約者のテオドール殿下と踊る。毎度毎度のお約束だ。
テオドール殿下は真面目な方なので、教本通りの四角四面なダンスをきちんと踊る。それはそれでいいのだろう。私もそれに合わせて教本通りにきちんと踊る。
一曲踊り終わったら解放される。殿下に触れるとあの時の事を思い出して震えがでる。ゾレアが現れてからの毎日は地獄だった。昨日まで優しい笑顔を向けてくれていた人が嫌悪、いや憎悪の眼差しで私を見て罵詈雑言を叩きつけてくる。最後には無実の罪で断罪され、死を選ぶしかなかった。今の殿下はまだ優しいままだ。大丈夫大丈夫。殿下にわからないように小さく深呼吸をして、作り笑顔で『頑張れ私!』と自分に叱咤激励する。
「ルナベル、疲れてはいないか? 体調はどうだ?」
殿下は震えを抑えている私を気にかけてくれているようだ。記憶がないまま今の世界にいたら、きっとまた殿下を好きになっていただろう。
でも、私はゾレアと出会ってからの殿下に受けた仕打ちを覚えている。また、あんな風になるのかと思ったら作り笑顔が引き攣ってしまう。
「大丈夫ですわ。旅の疲れかもしれません。ただ、リルゾール王国の空気が合っているようで心地いいので体調も良くなりそうな気がします」
「そうか、ならよかった。でもくれぐれも無理はしないでくれ。辛くなったら私でもアロでもいいので伝えて欲しい」
「はい。ありがとう存じます」
ステップを踏み、くるりとターンを決めたところで曲が終わった。
ダンスが終わり、ホールから出ると、国王陛下が私達の前に来た。
「テオドール殿、次は娘のクラリスと踊ってやってくれぬか? ルナベル嬢よろしいかな?」
「はい、もちろんでございます」
私はにっこり笑い、殿下の手を離した。
クラリス様はピンクブロンドの髪をハーフアップにまとめている。おろしたウェーブがキラキラしてとても可愛らしい。瞳の色も青にピンクが混ざったようで美しい。本当に花のような王女だ。
わがまま王女だなんて信じがたい。
「ありがとう。ルナベル様はお兄様と踊ってあげてね」
クラリス様はそう言うとルセフィ殿下の背を押して前に出す。
ルセフィ殿下と踊れるなんて夢のようだ。どうしよう。いつもの作り笑顔が壊れて本当にへらへらしてしまいそうだ。
「ルナベル嬢、もしよろしければ私と踊ってもらえないだろうか」
ルセフィ殿下が私をエスコートしてくれようとしている。すぐに手を取りたいが、さすがにこの場で私の一存はまずいだろう。テオドール殿下と父の方を見る。テオドール殿下はにっこり笑って頷いている。父も頷いた。
国的には問題ないようだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
私はルセフィ殿下の手を取った。
ルセフィ殿下は背が高く、とても鍛えられた体型をしている。胸板が厚く、腕も太いし、手も大きい。王子様というよりは騎士のような体型だ。濃いブロンドの髪を撫で付けている。神秘的なまるでタンザナイトを思わせる瞳。ほのかに香るシトラス系の香り。何もかもにドキドキする。
「ルナベル嬢はダンスが上手だな。とても楽しい。私はあまり踊らないのだが、ルナベル嬢とならずっと踊っていたい」
あ~、声も素敵だわ。落ち着いた感じのちょっと低めの声。いい~。
私もそうです! ルセフィ殿下とずっと踊っていたいけど、私は婚約者がいる身。そんなわけにはいかないのです。
「ありがとうございます。でも、婚約者以外と何度も踊るわけにはまいりませんわ。お名残惜しいですが、一曲だけにいたしましょう」
本当にお名残惜しい。
ルセフィ殿下は一瞬、残念そうな顔をしてくれたように気がしたが、すぐにもとに戻った。
「君は確か、テオドール殿の婚約者だったな」
忘れていたのだろうか?
曲が終わった。楽しいと時間が短く感じる。まだ離れたくない。でも離れないといけない。
「ありがとうございました。また、機会がございましたら、一緒に踊って下さいませ」
カーテシーをし、ルセフィ殿下の元を離れた。
あぁ、やっぱりルセフィ殿下が好きだ。テオドール殿下に対する気持ちとは全然違う。でも悟られてはいけない。婚約を解消してもらうまでは、私はテオドール殿下の婚約者なのだ。仮面を被って作り笑顔で頑張るしかない。
もし、上手く解消してもらえても、ルセフィ殿下と結ばれることなんてない。この気持ちは心の奥深く秘めておくしかない。
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