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最終話

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 早いものであの魅了の魔法事件から5年が過ぎた。

 我が国はこの5年の間にアマーリエ様によって様々な改革がされ、本当に変わった。

 変わったと言えば、モーリッツ殿下が「私は国王の器ではありません。デルフィーヌとも話し合ったのですが、私は臣下に下ろうと思います」と言い出した。

 確かにモーリッツ殿下は繊細で穏やかな人だから国王向きではない。

「じゃあ、国王はどうするの?」

「そのまま姉上がおやりになればいいのではないですか。私も今までどおり側で姉上のお手伝いを致します」

 なるほど確かにそれがベストよね。今の我が国に反対する人はいないと思う。

 アマーリエ様は「女王なんかになりたくないわ。死ぬまで働かなきゃならないじゃないの!!」と抵抗していたが、議会でも満場一致で承認され、我が国初めての女王が去年、誕生した。

 今、我が国は若い人が作る新しいタイプの国として注目されている。

 今日はアマーリエ女王陛下の在位1年記念式典だ。夜には夜会もある。
 そして式典に合わせてアマーリエ様の婚姻式も執り行われる。

 アマーリエ様の王配になられるお方は魔法大国の第二王子でアマーリエ様が留学していた時に知り合ったらしい。
 モーリッツ殿下が即位したら、魔法大国に移住し、その方と結婚しのんびり暮らそうと密かに思っていたようだが、アマーリエ様の夢は破れてしまった。

 あの後も魔法大国にはいろいろ助けてもらった。
 平和ボケしていた我が国の危機管理を強靭にしたり、高度な魔法を使える者を増やしたり、アマーリエ様の希望どおり、男女年齢身分を問わず実力のある者が適材適所で働けるような国になりつつある。

 私はあの後、1年間アマーリエ様付きの女官として王宮で働き、それから魔法大国に2年間出向し、あちらの魔法省で魔法についての色々なことを学んできた。
 そして、2年前にこちらに戻り、今は女王陛下の側近と魔法省の立ち上げメンバーとして日々忙しく過ごしている。


 あの事件に関わった人たちのその後はというと。

 エーベルハルト殿下は魔法大国で後遺症の治療を終えた後、少し距離の離れている友好国の女王陛下の王配になった。
 女王は3度目の結婚で年齢もかなり上らしい。
 アマーリエ様は「親に甘やかされて育った甘ちゃんだから、親みたいな年の妻に甘えてるんじゃない?」と笑っている。
 その国の女王はかなり嫉妬深く独占欲が強いらしいので寵愛を受けて幸せに暮らしているようだ。

 パトリック様とアーノルド様も魔法大国で治療を受けた後、パトリック様は治療中に魔法大国の西の辺境伯家の次女に気に入られ婿入りしたそうだ。
 婿と言っても戦闘要員みたいなものらしい。荒っぽい暴力的な人だったので魔獣相手に奮闘しているようだ。

 アーノルド様は廃嫡され、平民になった。商人の娘に気に入られ、店に迎えられたらしいが、その娘は学園時代にアーノルド様に虐められて自死した男子学生の元婚約者。店でアーノルド様の姿を見た者はいないらしい。

 あの時、婚約破棄されたパトリック様とアーノルド様の婚約者は、あの時の婚約者よりずっと、素敵な人と結婚して幸せに暮らしている。
 2人とも婚約者が大嫌いだったから、こんなこと言ってはいけないかもしれないけどザラ嬢に感謝しているそうだ。

 ステファン様は女王の側近として活躍している。見目麗しくスマートな所作で女性ファンも多いが、愛する妻一筋。あの時のふたりの純愛はその後恋愛小説となり出版され大ヒットした。ステファン様とアンリ夫妻は若い女性達の憧れの夫婦像なのだ。子供もふたりでき、幸せな毎日を過ごしている。

 そして、ザラ嬢はというと。

 あのあと、本人不在で裁判が行われ、見つかり次第死罪と言う判決がおりた。
5年過ぎてもまだザラ嬢は見つかっていない。と表向きはそう言うことになっている。
 北の鉱山にいるザラ嬢がどうしているかは誰も知らない。まぁ、アマーリエ様は知っていると思うけどね。ザラ嬢のことだから案外、楽しくやっているのではないかと私は思っている。



「フィア、忙しいよ~。うちに帰りたい」

「私も忙しいですわ。泣き言など言わないで仕事頑張りなさい」

 側近という名のなんでも屋さんのエミール様は今日も大忙しだ。
 アマーリエ様はエミール様が使い勝手が良いらしく、細かい仕事を色々丸投げされている。
 不器用で融通の利かないつまらない男と言われてはいるが、本当は器用で臨機応変になんでもそつなく対応できる便利な男なのだ。
 見た目がゴツいので損をしていたのだろう。

 今でもまだ一応私の夫なのであるが、お互いに忙しく、しばらく屋敷に戻っていないので王宮ですれ違うくらいだ。

「フィア、式典が済んだら休みをもらってゆっくりしよう。旅行とかいいなぁ。旅行に行こう!」

 エミール様は時々頭の中がお花畑になるようた。

「式典が済んだら、溜まっている財務省の仕事があるのではないのですか? 次官が愚痴っていましたよ。私も魔法省の立ち上げでしばらく動けませんわ。ほらほらさっさと行かないとアマーリエ様に叱られますわよ」

「フィア~、愛してるよ~」

「はいはい」

 王宮の廊下での私達の会話は夫婦漫才と密かに言われているらしい。

 私達はまだ白い結婚のままだ。あと数日で婚姻無効にできる期日がやってくる。

「離縁はしないよ~」

 廊下の先から振り返り叫ぶエミール様の声が聞こえてきた。

                〈了〉


*これにて終了でごさいます。
ショートショートなのに長くなってしまいました。
機会があればアマーリエの恋バナを書いてみたいと思います。
エミールはこれから先もシルフィアに離縁されないようにいろんな姑息な手を使いながら頑張るようです。
どちらが先に諦めるか想像して楽しんでもらえたら嬉しいです。

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
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