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出版記念SS

婚約時代のふたり1

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皆様、ありがとうございます。
感謝の気持ちをこめまして、ミディアとリカルドが婚約してから結婚するまでの3ヶ月の間のなんてことはない出来事を短編にしてみました。

ふたりの距離が少しづつ近づく様子を楽しんでもらえるとうれしいです。

◇◇◇

 半年後に淑女学校を卒業してから結婚式をしてフェノバール領に行くつもりをしていた私は父の言葉に愕然とした。

 あと3ヶ月? 半年先だったんじゃないの? しかも淑女学校中退?

 ないわ~。絶対ない。3ヶ月は仕方ないとしても淑女学校中退は嫌だ。

 今、淑女学校はホリデーでお休み中だが、私は卒業試験を受けた。

 合格すれば卒業証書がもらえる。試験終了後30分ほど控室で待っていたら校長室に呼ばれた。

「ミディアローズ・ランドセン侯爵令嬢、卒業おめでとう。みんなより少し早く卒業しますが、あなたは立派な成績での卒業です。胸を張って淑女学校卒業と言ってください。婚家ではこの学校で学んだことを忘れずに夫を支え、子供を産み育て、幸せな日々を過ごしてください。あなたなら大丈夫。私が太鼓判を押します」

 校長先生は涙ぐんでいる。問題児の私が嫁に行けるなんてめちゃくちゃ嬉しいのだろう。

「ありがとうございます。この淑女学校で学んだことを忘れずに日々精進いたします。校長先生、先生方、お世話になりました」

 私は挨拶をして校長室を出た。

 まぁ、王命だし、忖度もあるのかもしれないが、私は成績は良い。ほんとに実力で飛び級卒業をした……と思う。

 校庭に出ると友人達が大きな花束を持ち待っていてくれた。ホリデー中なのに来てくれたのだな。うれしい。

「ミディア様、飛び級で卒業なさるとは驚きましたわ」

「私もですわ。ご結婚が決まったそうでおめでとうございます」

「ミディア様がいなくなると淋しくなりますわ。メンドン公爵令嬢の天下になりますわね」

 友人達は口々にそんな事を言いながらひと足先に卒業する私にお祝いの言葉をくれた。

「お休み中なのに来てくれてありがとう。嬉しいわ」

 本当にうれしい。

「当たり前ですわ。今日はミディア様の卒業式ですもの。みんなで送り出したかったのです」

 嬉しいことを言ってくれる。本当にみんなと一緒に卒業したかったわ。

 私にも友達はいるのだ。

 とくに彼女達3人は、いつも暴れん坊の私を温かく見守っていてくれていた子供の頃からの気のおけない友人達だ。

 学校の近くのカフェで急遽お茶会をすることになった。

「結婚は卒業後だって聞いていたのだけれど、急に早まったの。一応、飛び級で卒業にしてくれるみたい。中退じゃなくてよかったわ」

 私の言葉に伯爵令嬢のリンジーは目を見開く。

「まさかご懐妊?」

「リンジー様、まさか過ぎますわ。ミディア様に限ってそんな事あるわけありませんわ」

 侯爵令嬢のルイーゼはクスクス笑う。

「懐妊なんてするわけないでしょ。私の気が変わらないうちにと言う事らしいわ」

 私は大きくため息をついた。

「お相手はフェノバール公爵とお聞きしましたが?」

 伯爵令嬢のイリーナが興味津々な顔で聞いてくる。

「そうよ。私もびっくりしたわ」

「でもすごい美男子なのでしょう? 母が言ってましたわ」

 確かに美男子だわね。

「ええ。まぁ、美男子といえば美男子だけど12歳も年上よ」

「ミディア様とはちょうどよろしいのではなくて? 同じくらいの年だと恋愛関係になりそうもないですもの」

 イリーナはふふふと笑う。

 確かに同じくらいだと毎日取っ組み合いの喧嘩をしそうだ。しかし12歳離れていてもなかなか恋愛関係にはならないだろう。

「次にミディア様とお会いできるのはデビュタントボールですかしら? その時はもうフェノバール公爵夫人ですのね」

「ルイーゼ様も卒業したら結婚でしょ? デビュタントの後?」

「ええ、私はデビュタントがすんでからですわ」

「イリーナ様とリンジー様は貴族学園に進学でしょ?」

「そうよ。私達はまだ婚約者もいないしね。ミディア様、ルイーゼ様、旦那様のお友達で素敵な方がいたら紹介してくださいませ」

 イリーナは得意のおねだり顔を作る。

 旦那様のお友達か? いるのだろうか? それはルイーゼに任せようと思う。

 私達はデビュタントボールで再会の約束をした。

 淑女学校を早めに卒業した私は花嫁修行……などはせず、フェノバール領について勉強を始めた。

 デート……と言ってもいいのかな? まぁ、ふたりで会うのでデートか。

 デートは毎回、移動魔法ができるリカルド様が我が家にやってくる。

 移動魔法は便利だ。馬も馬車もいらない。

 私は簡単な生活魔法とほとんど使ったことがない回復魔法しかできない。

 閣下はさすが王族だ。我が国の王族は魔力が強く魔導士並みに魔法が使えるらしい。ただ例外もあって、国王陛下は魔力がそれほど強くないらしい。

 そんなこともあるのね。

 まぁ、それでも移動魔法はできるらしい。

 練習すればできるようになるのかしら? 私もそのうちできるようになりたいな。そしたらどこに行くのも楽だもの。

 フェノバール領は私が住む王都から3~4時間もあれば行ける場所だ。初めて閣下と会った時は馬車に乗ってフェノバール領まで行ったなぁ~。

 まだそんなに経っていないが懐かしい。

「ミディア様、フェノバール公爵閣下がお見えになられました」

 メアリーが私を呼びに来た。

 今日は公爵閣下と伯父の営む商会に行く予定だ。フェノバール領の特産品の売り込み……とまではいかないが、どんなものが売れるのか、伯父からアドバイスをもらうつもりだ。



「ミディアローズ嬢、卒業おめでとう」

 私の身体が隠れてしまいそうなくらいの大きな花束を持って公爵閣下が現れた。

「あ、ありがとうございます」

 受け取ったものの大きすぎるし、重すぎてふらつく。

「大丈夫か? やはり大き過ぎたか。申し訳ない。ミディアローズ嬢のお祝いだと思うと嬉しくて、私もうちの庭師も張り切ってしまって、大きくなってしまったんだ」

 申し訳なさそうに顔を赤らめて大きな身体を丸めてもじもじしている。

 まぁ、大は小を兼ねる。少ないより多い方が喜ばしい……かな?

「嬉しいですわ。屋敷中に飾ります。庭師さんにもお礼を言っておいて下さいね」

「よかった。喜んでくれて私も嬉しいよ」

 なんだこの人は? ほんとに天然の人タラシかもしれないな。

 私は花束を家令に預け、閣下のエスコートで馬車に乗った。

 伯父の商会までは馬車で30分くらいだ。
 
 伯父の商会の近くまでくると、馬車の窓から店の前でルビー姉様とご主人が待っていてくれているのが見えた。

「閣下、従姉妹夫妻が出迎えてくれるようです。ほら見えますか?」

 閣下の方に顔を寄せるとなんだか赤い顔をしている。暑いのかしら? 体調悪いなら早めに帰った方がいいかな?

「閣下、体調お悪いのですか?」

「いや、全然大丈夫。元気だよ」

 そっ。ならいいけど。

 馬車が商会に到着した。何かフェノバール領にとって良い話が聞けるといいな。私は閣下のエスコートで馬車を降りた。



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