上 下
126 / 161
番外編

アンソニーの恋8

しおりを挟む
 急に兄上、母上、そして義姉上が部屋に来たので何事かと驚いた。

 まさか、ソフィアの家がそんな事になっていて、ソフィアがあの黒い噂だらけの男爵に売られる?

 俺は居ても立っても居られず、駆け出そうとして兄上に止められた。

 ランタス伯爵家の領地が災害に遭い大変だとは聞いたことがあった。
 ソフィアが「領地が大変で本来なら私は学園に来られるような状態ではない」と言っていたからだ。しかし、そこまでだとは思わなかった。

 兄上の言ったとおり、もっとちゃんと調べるべきだった。

 それに伯爵が病に倒れていただなんて、俺は驚いて声も出なかった。

 俺は本当の事を何も知らずにひとりで勝手に盛り上がっていただけの大馬鹿者だ。

「妻にする為にはやらなきゃならない事がたくさんあるわね。いくら臣籍降下したからって借金で娘を売らなきゃならないような家の令嬢と結婚はできないわよ。本気で結婚したいならあなたが考えなさい。私もリカルドもミディアもあなたのフォローはするわ。まず1番にやらなきゃならないことはソフィア嬢と話をすることね。お互いに同じ気持ちで同じ方向を見ないとダメよ。男爵の事は気にしなくても大丈夫。とにかく話をしなさい」

 母上にバシッと言われた。

「ソフィア嬢はアンソニーのことが好きなの。だから身を引こうとしたみたい。身を引こうと思うほど大切に思ってくれる人を手放しちゃダメよ。ふたりで一緒に幸せにならなきゃね」

 義姉上に手を握られた。

 兄上がすぐに俺の手に乗せられた義姉上の手を外す。顔が怖い。

「お前がソフィア嬢と添い遂げたいならソフィア嬢からOKをもらえ。それさえできれば体裁は整える。ほら早く行ってこい!」

 兄上に背中を押された。

 俺はソフィアに会いたいと連絡を入れ移動魔法でソフィアと約束した学園のサロンに向かった。

「アンソニー様、どうされたのですか?」

 ソフィアは突然呼び出されたので驚いているようだ。

「話があるんだ」

「お話ですか?」

 俺はソフィア名前で跪いた。

「ソフィア・ランタス伯爵令嬢、俺と結婚して下さい。俺は生涯ソフィア嬢だけを愛します」

 ソフィアは目を丸くして固まっている。

「必ず幸せにする。俺を選んで欲しい」

 ソフィアは大きな目から涙をポロポロ流している。

「もう、冗談はやめて下さいませ。私は没落寸前の伯爵の娘です。アンソニー様と釣り合う訳がありません。それに私はもう結婚が決まっているのです。もうすぐ学園も辞めて嫁ぐ予定です」

 声が震えている。

「俺はソフィアと結婚できなければ誰とも結婚などしない。王位継承権は放棄するし、騎士として生きていくつもりだ。ただの騎士の俺なら釣り合うか?」

 俺は立ち上がり、ソフィアの両腕を掴んだ。

 ソフィアは震えている。

「もう無理ですわ。私の結婚は決まってしまったのです。あの方と結婚しないと家族は困るのです」

「家族が困る? 家族のために犠牲になどしない。ソフィアが結婚するのは俺だ。他の誰にも渡さない。身を引こうなど許さない!」

 ソフィアは「無理です」と言いながら泣いている。

 俺はただただソフィアを抱きしめていた。

「アンソニー、やっぱりここにいたか」

 後ろからロバートの声が聞こえた。

「ソフィア、大丈夫?」

 レイチェルもいるのだな。

「ソフィアごめんなさい。私全てを話してしまったの。もうこれ以上あなたに辛い思いをしてほしくないの。お願い幸せになって。大丈夫だからアンソニー様を信じて。きっとうまく行くわ。お願いソフィア……」

 レイチェルは泣きながらソフィアを説得してくれている。

「私も応援する。それにレイチェルは姉を巻き込んだ。もう逃げられないぞ。姉が旗を振ればみんな動き出す。みんなソフィアとアンソニーのために動いてくれる。だからソフィアはアンソニーを信じて胸に飛び込めば良い」

 ロバートありがとう。やっぱりお前は親友だ。

 ロバートは話を続ける。

「ソフィア、何故もっと早く領地の現状を言ってくれなかったんだ。うちの父上は土木のスペシャリストだ。父上に復興の手助けをしてもらうように頼むのに」

「しかし、お金が……」

「金なんてアンソニーに出させれば良い。未来の義父上を助けるのは当然だろ?」

 ロバートは口角を上げた。

「伯爵は病気だと聞いたが、医者にはかかっているのか?」

 俺は心配になり、聞いてみた。

 ソフィアは首を振る。

「お医者様に診ていただくお金があるなら領地に使うと言って、拒んでいるのです」

「すぐに手配する。それくらいなら俺でもできる」

「良かった。やっぱり話して良かった。きっと上手くいくわ。きっとソフィアは幸せになれるわ」

 レイチェルはロバートの胸で泣いている。


「ソフィア、結婚してくれるね」

 俺はソフィアに念をおした。

「でも、もう父はナゼア男爵に返事をしているかもしれません。返事をしてお金を受け取ってしまっていたら私はもう男爵の元に嫁ぐしかありません」

 ソフィアは泣き崩れる。

「とにかくソフィアは王宮に行こう。避難だ。ナゼア男爵の手に渡すわけにはいかない。ソフィアを匿ってからナゼア男爵と話をつける」

「そうだな。王宮なら安心だ」

 俺達は俺の移動魔法で王宮に飛んだ。


しおりを挟む
感想 533

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。