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番外編

ジェットのチカラ

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「ウィリアム叔父上、初めてお目にかかります。甥のジェットです。さすがドラール家で修行しただけあって迫真の演技ですね。マデレイネ様もお疲れ様です。なかなかの女優でしたよ」

 ジェットは真顔でそんなことを言っている。どういうこと?

「それで、どうするおつもりですか? 公爵閣下の命令通り、潜入ですか?」

 はぁ? 公爵閣下の命令? リカルド様の顔を見ると頷いている。王妃様も私に小さく頷いた。
 オーウェン様は口の端を上げて悪い顔をして笑みを浮かべている。私以外はみんな知っていたのか?

 オクタヴィア様を見ると、ジェットの言葉に驚いているようだ。オクタヴィア様も知らなかったようだ。

 マデレイネ様がジェットの方に身体を向けた。

「何をおっしゃっているのかしら? 命令とか、潜入とか、おっしゃっていることがわかりませんわ」

 マデレイネ様はうろたえているようだ。

「叔父上、このまま薬漬けの廃人のふりをしているんですか? 可哀想なふたりを演じればママはちょろいから味方になってくれる。ママがどうしてもと言えば父上はダメだとは言わない。そんな感じですか?」

 ウィリアム殿下は黙ったままだ。

「まぁ、叔父上が口を割らなくても全てわかってます。私は神の代弁者ですからね」

 なんだかジェットも芝居がかっている。

「わかったよ。私は犬さ。潜入が見つかりスボレキサント公爵に捕らえられ魔法で犬にされた。ジェニナック王国は、最近発展著しいノルスバン王国を良く思っていないし、元々豊かなエスタゾラムも手に入れたい。私をノルスバンに、マディをエスタゾラムに逆潜入させて中から両王国を危うくしろって命令を受けている。エスタゾラムはマディに国を揺さぶらせてから、スボレキサントの息子を婿入りさせて乗っ取る計画もあるしな。今この部屋も見張りだらけさ、バラしてる私は消されるだろう。そしてあんたたちもこの部屋から出られない。みんな消される。ジェニナック王はノルスバンもエスタゾラムも自分のモノにしたいのさ」

 ウィリアム殿下は苦笑している。

 ジェットがふっと笑った。

「その心配は無用です。今ジェニナック王国とジェニナック人の時間を止めています。この部屋にいる刺客も見張りも止まってますよ。ふたり服従魔法で縛られてますよね。どうしたいですか?」

「どうしたい?」

「このまま犬として死にますか? それともふたりで誰にも邪魔されず生きたいですか?」

 マデレイネ様がジェットの前に出た。

「ふたりで生きるなんてできるの? どこに逃げてもスボレキサントは追いかけてくるわ。それにこの魔法は解けないし、逃げられやしない」

「逃げられますよ。私は神の代弁者と言ったでしょう。そんな魔法なんて一瞬で解けますよ」

「えっ? 本当なの?」

 マデレイネ様は驚いているようだ。

「お願い解いて! そして私達を逃して、私はウィルとふたりで生きたい」

「叔父上はどうしますか?」

 ウィリアム殿下は苦々しい顔をしている。

「逃げてどうする? 魔法がとけたところで、また捕まって同じことの繰り返しだよ。逃げてもどうにもならないだろう」

 ウィリアム殿下の言葉を遮り、オクタヴィア様が前に出た。

「ちょっといいか。先程の話だが、スボレキサントの次男が娘の婿になり、我が国を乗っ取るつもりと言うのはまことか?」

「ええ、本当です。この縁談も無かったことにしましょうか」

 無かったこと?

「できるのか?」

「もちろんです。記憶を消します。ジェニナック国から叔父上とマデレイネ様の記憶を消します。そしてスボレキサント公爵の次男とクレメンタイン様の婚約した事実も消します。記憶を消しても、いずれジェニナック王国はノルスバンとエスタゾラムに攻め入ってきますがね」

 ジェット~、なんだか怖いこと言っているわ。

「わかった。クレメンタインと婚約者の記憶も消してもらえるだろうか?」

「もちろんです。そんな人はいるが、何の接点もないという状態にします。記憶を残すのはオクタヴィア女王、ばぁば、父上、叔父上、マデレイネ様、ママはどうする?」

 へ? 私? 

「もちろん残しておいてちょうだい」

「承知。オクタヴィア女王、マデレイネ様は元からジェニナックには嫁いでいないことにしますか?」

「そんなこともできるのか?」

「できます」

「マデレイネ、それでいいか?」

「はい」

「叔父上はどうします?」

 ジェットがウィリアム殿下に聞く。

「私の意志など関係ないだろう、私はどこに飛ばされるんだ? 北の辺境の地か? それとも西の辺境のか?」

 ウィリアム殿下は死んだような目をしたままジェットの顔を見ている。

「マデレイネ殿とふたりで南の領地に行ってもらおうか」

 南の領地?

「とりあえずしばらくはそこで静養だ。魔法を解いても後遺症が出るだろう。あとはドラールが引き受ける」

 オーウェン様がニヤッと笑いながらウィリアム殿下の肩を叩く。

「またドラールかよ。おっさんはスボレキサントより粘着質だな」

「面倒見が良いと言ってくれよ」

 後遺症か? リカルド様も酷い後遺症に苦しんだ。この2人もあんな目にあうのかしら?

「じゃあ、それぞれの場所に飛ぶよ。オクタヴィア女王、後ほど兄上が今後のジェニナック王国対策の話し合いの日時を決める等の連絡を入れます。あの人腹黒なんで戦わずにジェニナック王を失脚させる手筈を整えるでしょう」

 リカルド様はウィリアム殿下の肩をポンと叩いた。

「ウィリアムとマデレイネ殿は南の領地で医療スタッフが待っている。ゆっくり療養してからそれからのことを考えればいい。後遺症は辛いが必ず克服できるからな」

 精神に作用する魔法は解けたあとが辛い。リカルド様の言葉は経験者ならではの重みがある。

「じゃあ、行くよ」

 ジェットは何やら呪文を唱え始めた。
みんな粒子になり、消えていく……。



「あら、ママもう帰ってきたの?」

「こんにちは。お邪魔してます」

「こ、こんにちは」

 リーゼとエリアス君がお茶を飲んでいる。ここは我が家のサロンか。

「ママ、お父様とジェット兄様は?」

 へ?

 あっ、私だけ家に戻されたのね。

 まぁ、私は今回の件については何もできないけど、蚊帳の外は辛いわ。まぁ、リカルド様が戻ったら詳しい話を聞こう。

 予定より早く戻れたのでフィオナ達と遊ぼうかな。

 私はフィオナの部屋に向かった。


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