魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ！

番外編

ドラマチックな人生（ジェット視点）

　魔法医療学校の看護師科にメリーアン様が講師として参加してくれるようになった。

　メリーアン様は普通の診療以外にも救急や魔獣によるスタンピードの現場にも何度も出向いている。学生達にとってメリーアン様の話は刺激になっているようだ。

　この学校にはノルスバン王国の色んなところから生徒が来ている。寮もある。入学希望の生徒には筆記試験のほかに難しい面談がある。

　父上とママ、チャーリー先生、オーウェンさんにどれだけやる気があるか、学びたいかを聞かれる。軽い気持ちでは入学することはできない。

　今年で４年目だが、毎年少人数の精鋭達が入学してくる。

　今年は西の辺境の地から何人か入って来た。

　西の辺境の地は魔獣がスタンピードを何度か起こしたことがある。その都度怪我人がたくさん出る。

　今は強力な結界を張り、そのほかも色々な対策をしているが、医療はまだ遅れている。

「メリーアン様は以前、西の辺境の地に行ったことがあるそうですね」

　私は学校の食堂で一緒にランチをとっているメリーアン様に話しかけた。

「ええ、２０年くらい前に３ヶ月いたわ。酷いスタンピードがあってかなり怪我人が出て手伝いに行ったの。修羅場だったわ」

　メリーアン様は懐かしそうな表情をしている。

「今年、西の辺境の地から何人か入学してきてるんです。いまでも魔獣による被害はあるみたいです」

「そうみたいね。対策は色々しているみたいだけど、医療設備はまだまだだわね。常駐する医者看護師がいないでしょう？　あそこもフェノバール領みたいに基金を募って医者看護師になりたい者を来させてるのよ。フェノバール公爵が色々提案してるみたいね」

「父上がですか？」

「そうよ。ミゲルから聞いたわ。ちょこちょこ移動魔法で行ってるみたいよ」

　へ～、父上がそんなことしてるのか。

　私が悪い顔をしていたみたいでメリーアン様は慌てて否定をした。

「別に浮気をしてるとかじゃないわよ。公爵はミディア様一筋でしょ？　西の辺境の地はノルスバン王国の中で１番危険な場所だから気になるんじゃないのかしら」

　メリーアン様と話をしている時に急に神から言葉が降りてきた。

『この者はいずれ西の辺境の地へ行くだろ。運命の赤い糸はそう簡単に切ることはできない』

　ふ～ん。これは黙っておこう。

　それにしても神は回りくどいことが好きだな。人生をドラマチックにするために平気で人を不幸のどん底に落とす。怖いよなぁ。

　私はジェットとしての人生を最後に神として天上で暮らす予定だが、天上に戻ったら神の改革をした方がいいかもしれない。
ドラマチックな人生なんて本人達にとって苦痛でしかない。

　平凡な人生が１番だ。

　私が天上に戻ったら平凡な人生だらけにしよう。

「ジェット様、ぼんやりしてるけど大丈夫？」

　メリーアン様が心配してくれている。

「大丈夫ですよ。メリーアン様はドラマチックな人生より平凡な人生がいいですよね？」

　私はふと聞いてみた。

「そうね。今世はドラマチック過ぎたから次があるなら平凡な人生がいいわ」

　確かにドラマチック過ぎだな。

「そろそろ行きましょうか」

　私は紅茶のカップを置いて席を立った。