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番外編

シャルの憂鬱(シャル視点)

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シャル視点です。


「ねえ、シャルは運命の相手はいないの?」

 運命の相手はいないのかといきなりママに聞かれてお茶を吹き出してしまった。

もう、恋愛も結婚も懲り懲りだ。

「私には運命の相手なんていないよ。一生だれとも結婚しない」

 ママは私の顔を見て、ふふっと笑った。

「まさかシャルも男色? 遺伝するのかしらね?」

 勘弁してくれよ。

「違うよ。もう懲り懲りなだけだよ」

 私は前世の記憶がある。

 名前は田村祐一。昭和40年、神奈川県生まれ。42歳で過労死した。

 前世はとにかく働く時代だった。
『24時間闘えますか……』という栄養ドリンクのCMが普通にあった時代。

 大学を卒業し、国家公務員になった私は朝から朝まで働いていた。

 バブル末期の26歳の時に妻と見合い結婚をし、娘と息子に恵まれ家族のためにただひたすら働いた。
 マイホームも手に入れ、まぁまぁいい感じで出世もし、収入もよかった。でも気がつくと家に私の居場所はなかった。

 妻からは粗大ゴミと言われ、娘や息子には汚いものを見るような目で見られた。

 私は容姿が良くなかった。当時、頭髪が乏しく肥満、いわゆるハゲでデブ。その上アブラぎってテカテカしていたし、足も臭かった。きっと私が過労死して家族は喜んでいると思う。

 もう働くだけの為に生きるのなんてごめんだ。家族の為に身を粉にして働いたのに、何不自由無い生活をさせてやったのに、家族は労いの言葉も感謝の言葉もなく、ハゲだのデブだの、汚いだの臭いだの言い放題だった。たまの休みの日にゴロゴロしていたらゴミ扱いされた。

 何のために頑張っているのかわからなくなった時に目の前が真っ暗になって意識がなくなった。

 気がついたら天国とやらにいた。しばらくのんびりしていたら神様がやってきた。

「転生して、その知識をいかしてほしい」

 私は断った。もう、ここでのんびりしていたい。
 しかし、転生はもう決まっていて、断ることはできないらしい。

「ひとつ願いを聞いてやろう」

 神様が言う。

 私は言った。

「それなら超イケメンにしてください。長身で細マッチョ。そして超イケメン。髪もフサフサ。歳を取っても崩れない。それなら転生してまた死ぬほど働いてやってもいいよ」

「よし、願いを叶えよう。そのかわり身を粉にして働くがよい」

 また、身を粉にして働くのか。まぁ、いい。

 私は生まれた。不思議な家族だった。みんな神様に転生させられたらさしい。

 中でもママはパンチが効いていた。ママは転生者ではないらしい。

「シャルもダメだったんじゃない? 家族はシャルにそんなことを求めてなかったのかもよ。もし、リカルド様が前世のシャルみたいに家族も顧みずに働く人だったら嫌だわ。前世のシャルの奥さんももっとシャルと話をしたり、一緒に子育てしたりしたかったんじゃないかしらね。仕事が忙しいと奥さんや子供の話を聞かなかったのはシャルでしょ? シャルは働いて生活させてやってるって上から目線だったのよ。居場所がなくなったのは自業自得だと思うけどね。シャルは奥さんや子供たちの好きなもの知ってた? 奥さんの趣味知ってた? 子供たちの将来の夢知ってた? 知らないよね。シャルは家族と向き合ってなかった。仕事を理由に逃げてたのね。リカルド様はどんなに忙しくてもみんなと向き合ってるわ。みんなの好きなこと知ってるわ。奥さんや子供を責める前に自分と向き合わなきゃこの世界で元同じことを繰り返すわよ」

ママはそう言うとマドレーヌを頬張った。

「まぁでも奥さんや子供もシャルと向き合おうとしなかったのかな? それとも諦めたのかな? みんなそんな感じだったとしたら、シャルが前世で生きていたところは幸せな場所じゃなかったわね」

前世の私は間違ったのだろうか。



「父上、ママにグサリとやられました」

 私は父上にママに言われた話をしてみた。
 同じ夫、父親としての父上の意見を聞いてみたかったからだ。

 父上は読んでいた本を置いて私を見た。

「シャルの前世の人はきっと不器用でひとりよがりだったんだろうな」

不器用でひとりよがり?

「シャルが思う幸せを家族に押しつけてしまい自己満足していたんじゃないか? 望む形はみんなそれぞれ違う。シャルの思いを奥さんや子供達もわからないし、奥さんや子供の思いをシャルはわからなかった。シャルは経済的な幸せが幸せだと思ったけど、奥さんや子供達は精神的な幸せが欲しかったんじゃないだろうか」

「でもそれは、経済的にゆとりがあるから思えるんじゃないのでしょうか?」

「確かにそうかもしれないけど、男として、家長としてはお金を稼いで家族を幸せにする以外にも、家族ひとりひとりと向き合って、何を望んでいるか? 何が好きで何が嫌いか、何を考えているかみたいなことを知らなきゃならないと思う。忙しいと逃げたり、幸せにしてやってるなんて驕った考えはダメだよ。シャルの前世の人は驕りがあったんじゃないかな」

 驕り? 私が? 私が家族を見下して、思い上がっていたというのか。

 父上は話を続ける。

「シャルも一方的に偉そうに上から押し付けられるのは嫌だろう? 俺は金を稼いできてやってる。誰のおかげで何不自由無い生活をしてると思っているんだ、だから俺を敬え、感謝しろ! そんな態度だったんだよ。シャルはそんなつもりはなくても、家族はそう感じたんじゃないかな」

私は父上に「ママの言うことは気にしなくていいよ」と言って欲しかったのに、傷口に塩を塗られた上に鈍器で殴られた気分になった。

「今のシャルは他人の気持ちに寄り添える人間だと思う。お金も大切でけど、それと同じくらい心も大切だとわかるはずだよ。前世のやり直しを今世ですればいい。好きな相手を見つけたら、心を添わせていけばいい。誰も悪かったわけじゃない。言葉が足りなかっただけだよ。口にださないとわからないもの。今のシャルはちゃんと口にだせているからもう大丈夫さ」

 父上は私の肩をぽんと叩いて行ってしまった。

 私はひとりよがりだったんだ。良かれと思ってやっていたことは自己満足でしかなかったんだ。
 
 妻と子供達が私にあんな態度になったのは私のせいだったのか。

 ははははは。

 私は馬鹿だった。何もわかってなかったんだ。

「やり直したいな」

 口から勝手に言葉が出ていた。

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