上 下
89 / 161
連載

【最終話】私は世界でいちばん幸せな女 (2/24修正済)

しおりを挟む
 マティとヴィーナがうちに来てから8年が過ぎた。

 フェノバールで10年前にはじめた社会保障制度がうまくいって、領民の生活も安定している。アーサー様とルイス親子とシャルが作る便利な魔道具のお陰で皆、楽になり、余暇を楽しむ余裕も出てきた。

 魔法医療の医者や看護師も増え、学校も開校した。他の領地から学びにくる人も増えた。
 ナニーやガヴァネス、チューターの専門家を育てる学校も開講した。
 そして身体を整えるための運動や栄養の専門家を育てる学校も作った。

 学費を払うのが苦しい人は社会保障制度で集めたお金や貴族方が奨学生制度に出資してくれたお金を借りて通うこともできる。
 平民も貴族も関係なく学べる場所、働く場所も出来てきた。

 今はそれを国規模でやりはじめているが、しかし、領地によって色々だ。フェノバール領のようにやりたいところもあるが、そうでないところもある。ノルスバン王国はそんなに大きな国ではないが、各領主の考えもまちまちでなかなか足並みは揃わない。
 それをなんとか一枚岩にするためにおばあ様や王妃様、リカルド様、アンソニーが古い考えの貴族たちと話をしている。国王陛下も時々参加している。

 新しい改革の中心は我が家の子供たちだ。神様直属なので容赦なく変えていく。

 子供たちも色々変化があった。

 リュカとヴィーナは去年結婚し、ふたりで一緒におばあ様の補佐をしている。補佐と言いつつ、本当はリュカが参謀なのだが。
 リュカは国王にはならずフェノバール公爵を継ぐそうだ。理由は「王都や王宮みたいなややこしいところに大事なヴィーナを住ませるわけにはいかない」だそうだ。


 リュカはさすがリカルド様の息子だけあって、愛が重い。ヴィーナに逃げられないかと心配だが、逃げても見つけて連れ戻されるだろう。

 ワタシトオナジ。

 子供は国が落ちついてからでいいそうだ。まだヴィーナは16歳だし慌てることはない。私も20歳からバンバン産んだものね。


 ジェットは大司教に就任した。神様からのご神託を国の民に伝えている。そして魔法医療の学校で生徒に回復魔法を教えている。
 その傍らおばあ様の手足になり、あちこち飛び回っている。

 いつか従兄妹で聖女のデーアと結婚してくれたらいいなと思っているが、どちらも結婚には興味がないらしい。結婚しなくても最期の時まで一緒にいてくれる人がいるならまぁそれはそれでいいのかもしれないとも思う。


 シャルは国の文官のトップになり、毎日書類と格闘している。
 宰相のオーウェン様との論戦は王宮名物らしい。もちろん魔道具製作は続けていて、王都にも魔道具製作の技術者を育てる学校をアーサー様や息子のルイスとともに作った。
 シャルを引っ張ってくれるしっかり者のリリともうすぐ結婚する。きっとふたりは最強の夫婦となるだろう。リリはフェノバール商会の次期会頭(多分)としてバリバリ働いてくれている。2人がいればフェノバール領もこの国もまだまだ発展できると思う。

 リーゼはエリアス君と結婚した。この国の表と裏の両方の攻撃と守りを一手に引き受けている。
 騎士や軍人、影、諜報部員を作り上げている。

 もちろん先頭に立ち戦いにも行く。聖剣・国の鋼である。


 4人とおばあ様たちがこの国を改革してきた。もう、貴族が、平民が、という垣根が取れる日もすぐそこまできている。


 そうそう、フィオナはマティと一緒にクリストファー様が王配をしているエスタゾラム王国に留学している。
 あの国は代々女子の長子が王になる国で我が国の友好国だ。

 マティはリーゼの弟子なのでかなり強いし、しっかりしている。
 フィオナは勉強が好きなのであの国であのふたりは色々吸収しているだろう。


 私は相変わらず同じような毎日を過ごしている。

 このフェノバール領にきてから30年になる。

 まさかこんな人生になるなんてあの時は全く想像してなかった。

 貴族の令嬢は結婚したら家の中に閉じ込められ何もできなくなると思い込んでいた。たから結婚なんてしたくなかった。

 今は結婚してよかったと思っている。やりたいことはみんなやらせてもらった。結婚した相手がよかったのだろう。

 リカルド様でよかった。

 本当にそう思う。


 きっと私は世界でいちばん幸せな女だと思う。
 リカルド様と子供たちには感謝しかない。

 こんな私なのに愛してくれてありがとう。

 私もみんなをずっと愛しているからね。




 +*+*+*+*+*+*+*+*

 この5年後、国王陛下が引退した。

 次の国王になったのはフィオナだった。

 フィオナは物心ついた頃から「じょうおうしゃまになりゅの」と言っていたので、有限実行だった。

 もちろんマティは王配として、フィオナとこの国を支えた。

 そしてそのまた5年後、この国は王家は残しつつ、議会で政治を行うようになった。
 貴族、平民関係なく、選挙で民が選んだ者たちが政治を行う。

 皆から選ばれ初代プレジデントになったのはリュカだった。

 その姿を見て、役目を終えた王太后は静かに息を引き取った。


 ノルスバン王国はノルスバン国になった。
 初代プレジデントとなったリュカは仲間と共にノルスバン国を発展させた。



 ミディアローズは70歳で最愛の夫リカルドや子供たち、孫たち、ひ孫たちに見守られながらこの世を去った。

 リカルドはミディアローズを看取り、後のことを全て片付けてから後を追うように亡くなった。

 リュカに「墓はミディアと一緒にしてくれ、来世でも必ずミディアと結婚して、またお前たちの父親と母親になるからな。今度はもっとのんびりした生活がしたいな。もう、国を改革するような生活は懲り懲りだ」と言い残したそうだ。

 ミディアローズとリカルドの事はそのあと小説となり、魅了の魔法で人生を狂わされた王子を立ち直らせ、どん底から再び日の当たる世界に引っ張り上げた妻の愛の物語として国民に親しまれている。

 フェノバール領にあるふたりの墓には、縁結びや家族円満、仕事の成功などにご利益があると言いつたえられ、お参りする人たちが後を絶たない。

 ミディアローズとリカルドはきっと今頃、転生して、また巡り合い愛し合っていることだろう。
 またミディアローズは愛が重いリカルドに迫られ「なんで私なの?勘弁してほしいわ」と言っているのかもしれない。

               了



*これでミディアローズとリカルドのお話は終了です。
短編のラブコメのつもりで書き始めたお話が最後にはえらい大きな話になってしまいました。
書ききれなかったこともたくさんあるので、子供たちの恋バナはまた別の機会に書けるといいなと思っております。
こんなに長いお話を書いたのは初めてですが、最後まで頑張れたのは応援して下さった皆様のおかげです。沢山を感想をいただけたのも励みになりました。
皆様のおかげで途中HOT女性向けで1位、人気で2位になることができ、いったい何が起こったのだろうと狼狽えましたが、本当に嬉しかったです。
これからも緩く楽しいお話を書いていきたいと思っております。
また読んでいただけるとうれしいです。

本当に楽しい2ヶ月間でした。

皆様、拙い私のお話を読んでいただきましてありがとうございました。感謝してます。

                                                     金峯蓮華
しおりを挟む
感想 533

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。