上 下
76 / 160
連載

なんだこいつ(エリアス視点)

しおりを挟む
 なんだこいつ?

 父上からリーゼロッテを守れと言われた。

「それは任務でしょうか?」

「任務でもあるが任務ではないかもしれんな」

 父上は何を言っているんだ?

 俺は修行が終わり、ドラール家嫡男として認められた。

 ドラール家はこの国の暗部を担う家だ。いくら嫡男だとしてもチカラがなければ消される。消されない為には強くなるしか無い。

 俺は死に物狂いで修行に励んだ。

 次期当主になるための修正は他の者たちとは全く違う。この世の生き地獄のような日々だった。

 認められた時はこれでようやく人間に戻れると感極まったほどだ。

 それがこの女を守るのが俺の任務だと。

 王家に繋がる公爵家の令嬢。そんな者の護衛なんて俺じゃなくてもいいだろう。

「ハニートラップですか? 誘惑して、弱みを握れと?」

「いや、そんなことはしなくていい。一緒にいて好きになれば娶るのもありだ」

 なんだそれ。

「とにかく行くわよ。早く用意をしなさい」

 母上は俺をどこかに連れて行こうとしているようだ。

 俺は母上に言われるまま用意された正装に着替えさせられて、馬車に押し込まれた。

「どこに行くのですか?」

「お茶会よ。リーゼと顔合わせしてもらう。これは任務であって任務でないわ。だから、仮のあなたでいることはないの。誘惑しなくてもいい。とにかく素のあなたでリーゼの側にいて守ればいいの。どうしても合わなければその役目は誰かに替わる。それだけ」

 母上はそう言うと嘘くさい顔でわらった。

 はじめて会ったリーゼロッテ・フェノバールは金髪に紫の瞳をした美人だった。一緒にいた母親は黒髪、瞳は同じ紫だが顔は似ていない。どちらかと言うと可愛い感じだ。リーゼロッテはきっと父親似なのだろう。

 いきなり俺に薔薇を見せたいと言う。俺を気に入ったのか?

 自分で言うのもなんだが俺は両親に似て見た目はそれなりに良いと思う。ハニートラップをかける訓練も受けているので第一印象で引きつけるのは得意だ。

 きっとリーゼロッテも落ちたなと思っていたのに全くの勘違いだった。

「ねぇ、エリアス様、あなた強いんでしょう? 私と手合わせしない?」

「手合わせ?」

「剣でもいいし、素手でもいいわ。強い人と手合わせしたいの」

 こいつ何を言っているんだ? 俺は訳がわからなくなった。

「君は公爵令嬢じゃないのか?」

「公爵令嬢よ。私の事何も知らないの?」

「俺は父上から君を守れと言われただけだ」

 被っていた猫はいつのまにか消えていた。
 俺はつい任務内容を告げてしまった。

「私は別に守ってもらわなくても大丈夫なのよ。私強いから」

「強い?」

「そう私は強いの」

 何だかわからないがこいつは自分が強いと思っているらしい。これは鼻っ柱を折ってやるしかない。

「わかった。剣で手合わせをしよう。ここではなんだからどこかに移動しよう」

 俺は手合わせん承諾した。

「ええ、騎士団の練習場に移動しましょう」

 俺たちは移動魔法で騎士団の練習場に飛んだ。

 騎士団の練習場には近衛騎士団長がいた。
 王子を辞めて騎士をしている変な男だが腕は立つ。何度か手合わせをしたことがある。

 なぜか俺に初対面のような挨拶をする。リーゼロッテに面識があると思われてはまずいのか?

 俺もはじめてのふりをした。

 リーゼロッテが着替えている間に俺は剣を選ぶことになった。

 騎士団長は武器庫に案内してくれた

「手合わせに反対しないのですか?」

 騎士団長はリーゼロッテの叔父だ。俺の正体も知っている。可愛い姪が俺に叩きのめされるかと心配じゃないのか? それとも俺が手加減すると思っているのか?

「なんで? さっきも言っただろ。リーゼは強いって。君も強いからいい手合わせが見られそうで楽しみだ。剣は好きなのを選んでくれ」

「では、これを」

 俺は握りのいい感じな剣を選んだ。

 ドレスから動きやすいズボンに着替えてきたリーゼロッテは俺の剣を見た。

「お待たせしました。エリアス様、ご自分の剣でないのでハンデをさしあげましょうか」

 ハンデだと! 舐めているのか。

「結構だ」

 俺は吐き捨てるように言った。

 馬鹿にするのも大概にしろ。後悔させてやる。

「はじめ!」

 騎士団長の号令で手合わせが始まった。


 強い! こいつ本当に強い。

 しかも隙がない。自分の特性をよく知っていてそれを活かしている。

 負ける。

 今までいろんなやつと手合わせしたが初めて負けるて思った。

 後悔させてやるどころか俺が後悔している。


「ありがとう! 楽しかったわ。あなた強いわね。また手合わせしてね。なかなか強い人がいなくてつまらなかったの。うれしいわ」

 勝ったことより手応えがあったことを喜んでいる。

 こいつ何者なんだ?

「ねぇ、お友達になりましょう。初めてできたお友達があなたみたいな人でうれしいわ」

 俺はまだなると返事をしていないぞ。勝手に決めるな。


 初めての友達か……俺もそうだ。



 屋敷に帰ってから母上にあいつの正体を聞いて俺は凍りついた。

 先に言っといてくれよ。

『王国の鋼』に勝てるわけなんかないだろ!


 リーゼロッテ面白いやつだな。


 この時の俺はまさかあいつと一生付き合うことになるとは思ってもいなかった。

しおりを挟む
感想 531

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。