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リカルド怒る

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ウィリアム殿下がフェノバール領に来てから、半月が経った。

 ウィリアム殿下はアーサー様にくっついて回っている。
 ウィリアム殿下、本当に学園にはいかないつもりなのかしら?

「殿下、学園には行かなくていいの?」

「はい。私はあんなところに行っても仕方がないのです。将来は魔道具師になりたい。魔法や魔道具の勉強は我が国ではできません」

「じゃあ、魔法の勉強ができるところに行けばいいのではなくて?」

「魔法の勉強や魔道具の勉強ができるところ? そんなところあるんですか?」

 えっ? 無いの?

「調べたりしてないの?」

「はい。どう調べればいいのかわからないので」

 ウィリアム殿下は国王似か。確かに国王には向いてない気がする。

「書物で探したり、誰かに聞いたりして調べてみれば? 魔法が盛んな国にならあるんじゃないのかしら?」

「外国だと言葉に困ります」

 こいつ大丈夫か?

 私はとりあえずアーサー様に聞いてみた。

「魔法の学校ですか? 隣国にありますよ。魔法が盛んですからね。現地の人は子供の頃から魔法を使うのでレベルが違うので、留学生向きの学校に行けばいいのではないですか? まぁ、私は学校とかはよくわからないですね」

「そっか。ウィリアム殿下はやっぱり学校に行く方がいいと思うんだけど、王立学校なんて魔法も魔道具も教えないから行く意味がないっていうの」

「確かに王立学校では習わないですね。義姉なら他国の魔法学校の事も詳しく知っているかもしれません。ミディア様の母上様と仲がいいし、一度義姉に聞いてみてはどうですか?」

 アーサー様の口から義姉と出たので驚いた。

「アーサー様、アリシア様とはどうなの?」

「どうなのとは?」

「仲良くしてる?」

「普通です」

 まぁ、以前よりは改善しているみたいだ。よかった。

 アリシア様に聞いてみるか。

「ありがとう。アリシア様に連絡してみるわ」

「ミディア様、あまり一生懸命にならない方がいいですよ。ウィリアム殿下はクリストファー殿下よりダメかもしれない。私はあの手のタイプは嫌いです」

 私はアーサー様の言葉に衝撃を受けた。
嫌いですなんてびっくりだ。

 しかもクリストファー殿下よりダメって?

 屋敷に戻ったらウィリアム殿下がぼんやり座っていた。

 何をしてるんだろう? 何もしてないな。きっと。

「ウィリアム殿下、何か収穫はありましか?」

 殿下は頭を左右に振る。

「何もないです」

「何か調べたり、聞いたりしました?」

「はい、調べてみたのですが、見つかりませんでした」

「どう調べたの?」

「図書室で書物を見て……」

「何という書物ですか?」

「……」

 嘘だな。こいつ何もやっていないみたいだ。

「殿下、あなたは本当に魔法や魔道具の勉強がしたいの!?」

「僕は……」

 私が大きな声を出したからか、ウィリアム殿下は口籠もってしまった。

「ミディア、どうしたの? 大きな声を出して」

 リカルド様が執務室から出てきた。

「兄上~。義姉上が学校に行けとうるさいのです。王立学校は魔法や魔道具の授業がないから嫌だと言ったら、魔法や魔道具の授業のある学校に行けというのです。そんな学校ないと言ったら探して、他国でも行けと押し付けるのです。アーサー様は学校なんか行ってないけど魔導士になってます。私もなれますよね」

 こてんと小首をかしげる。

 可愛い顔を作っているのだろう。国王ならこのあざとい感じに騙されて『なれるなれる』とか言っちゃうのかしら?

「なれないだろうな。お前とアーサーは違う。アーサーは本当に魔法や魔道具作りが好きで努力している。部屋に引きこもっていた時は寝食を忘れてひたすら研究していた。お前はどうだ? ここにきてから何もしていないような気がするがな」

「兄上、僕はここに来てから、ちゃんとアーサー様の仕事について行って仕事を見ています。ちゃんと魔法の本も読んでいます。魔道具も作っています。努力もしています。信じてください」

 目に涙を溜めて上目遣いでリカルド様を見ている。

 ダメだなこいつ。アーサー様がクリストファー殿下の方がましと思って言ったのがよくわかる。
 クリストファー殿下は天然だ。こいつは黒い。あざとい。誰かを貶めて自分を有利にして楽をしようと思っているな。
 リカルド様を見るとにこやかに笑っている。何の笑顔だろう?

「私がお前を信じたら、お前はどうするの? 別にお前の人生だから好きにすればいい。学校に行きたくなかったら行かなくてもいい。私はお前が努力していなくても、魔法の本を読んでなくても、魔道具を作らなくても困らない。ただお前がミディアを悪者にして自分を正当化しようとするのは許せない。ミディアに学校に行けと言われるのが嫌なら言わせないくらいやることをやるか、もしくはうちに来なければいい」

 ウィリアム殿下は唇を噛んでいる。

「どうして、どうして兄上はそんな言い方をするんですか! 僕のことなんてどうでもいいんですか! 血の繋がった弟より義姉上が大事なんですか? 政略結婚のくせに」

「政略結婚じゃない。愛しているから結婚した」

 ん? そうなの? そうだったの?

「血の繋がった弟のお前より、私はミディアが大切だ。ミディアはいつも自分と向き合って、努力している。怠けることなどない。お前のようにその場しのぎで誰かに正当化してもらって逃げようなんてミディアも私もアーサーも考えない。アンソニーだって考えないさ。みんな真面目に向き合っている。お前みたいなちゃんと自分と向き合っていない奴なんてどうでもいいよ。魔導士になりたいのなら行動すればいい。試験を受けて魔導士団に入ればいい。16歳から試験は受けられる。魔導士団の中には魔道具を研究するセクションもある。やりたいなら入ってから希望すればいい。力があればなれる」

そんなシステムなのね。知らなかったわ。だったら学校に行かなくても魔導士団の試験を受ければいい。

「今、なりたいものがわからないなら学校に行って探せばいい。行きたくない理由を嘘でかためちゃだめだ。何もしたくないならそれでもいいがこれから先どうして生きていくつもりだった。父上が生きているうちはいいかもしれないが、その先は誰も何の役にも立たないものを養ってはくれないぞ。おっさんやじいさんになったら、いくら可愛い顔を作ったり、可愛い仕草をしても誰も相手にしてくれない。ぐーたらしたいのなら城に帰ってくれるか。そんな奴はここにはいらないんだよ。城にいたら母上にうるさく言われるから逃げてきたんだろう。ここにいてもうるさく言うよ。嫌なら帰ってくれ」

 リカルド様はそう言うとため息をついた。

「あざとい奴も怠け者もいらない」
 アーサー様がぼそっと言う。

 ウィリアム殿下はあざとい怠け者なんだな。
 ズルがしたい。楽がしたい。今まで陛下はそれを許してきたんだろうな。王妃様に叱られても陛下のところに逃げればよかった。
 でも、西の辺境の地に行ってから陛下は助けてくれなくなった。

 アンソニー殿下はやりたいことを見つけて邁進している。弟のロバートと仲が良いので私もよく知っているが、真面目で礼儀正しいし、ズルも楽もしない。

 リカルド様や私は味方にできると思ったのか? チョロいと思われたのか? みくびられたもんだな。

 寂しいんだな。構ってちゃんなんだ。さて、どうしたもんか。

確かにあざといおっさんやじいさんなんて誰も相手にしてくれないわね。
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