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許さない(リカルド視点)

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 私は掘削の状況を見る為に山に行っていた。

 マーチンから説明を聞き、順調な様子に安心していたら、ミディアから伝書が来た。
 伝書とはアーサーが開発した魔道具で簡単なメッセージが小さな長方形の水晶に浮かび上がるようになっている。

『火急の用と呼び出されたので移動魔法でメアリーとマシューさんと一緒に実家に行ってきます。そんなに遅くならないと思います』

 いやいや、あんな大きなお腹で移動魔法など大丈夫か? ミディアは最近体調があまり良くないので心配だ。メアリーとマシューが一緒だとしても心配だ。
 しかし、いつもなら義母上の方から我が屋敷に来るはず。ミディアの身体のこともあるし、呼びつけるような真似はしないはずだ。
 何がおかしい。私は後のことはアーサーに任せて移動魔法でランドセン公爵邸に飛んだ。



「ミディア様! ミディア様!」
「ミディア様! 大丈夫ですか!」
「メグ先生すぐに来ますからね!」


 何事だ? 

 ミディアがどうかしたのか?

 私は声のする部屋に慌てて飛び込んだ。


 お腹を抱えてぐったりしているミディアがいる。意識がないようだ。

「ミディア!」

 ミディアの側に駆け寄った。

 呼吸はしている。私はミディアを抱き上げた。

「義母上、ミディアを寝台に寝かせたい。どちらの部屋に行けばよろしいですか」

「こちらへ」

 義母上の案内でミディアを部屋に運び寝台に寝かす。
 意識が朦朧としているが、私の腕をぎゅっと掴んでいる。

「ミディア。大丈夫だからな」

「メグ先生が来られました!」

 家令の声がする。

「ミディア様が倒れたってどういうこと? それにどうしてランドセン邸にいるの?」

 メグ先生は家令と話している。

「それが、旦那様がお嬢様を呼び出されたようで……先程まで客間で言い争うような声がして……お嬢様がお腹が痛いとおっしゃり、メグ先生を呼んでほしいとのおっしゃり……」

 家令も慌てているのか、しどろもどろで話がイマイチよくわからない。

 旦那様が呼んだ? 義父上がミディアを呼んだのか? 何故?

「診察するからみんな部屋から出て下さい。公爵も」

 メグ先生に追い出された。

 部屋から出ると、義母上と目が合った。

「義母上、詳しい事を教えて欲しいのでですが」

 義母上は見たこともない様な怖い顔をしている。

「リカルド様、私では分かりかねますので、主人に話をしてもらいますわ。旦那様、私や皆さんにわかる様にちゃんと話して下さいませ」

 義父上を見ると青い顔をしてシュンとしている。

「ビアンカ、きっと陛下が侯爵にミディアを呼べと言ったのよ」

 母上が何故かそこに立っている父上を睨みつけた。

「すまない。まさかこんなことになるなんて思わなかった」

 何を? 何をしたんだ?
私は頭に血が昇ってしまったのか父上に飛び掛かっていた。

「父上! ミディアに何をした! ミディアに何かあったら私はあなたを許さない!」

 ミディアの護衛についていたマシューが私と父の間に入った。

「リカルド様、落ち着いてください。詳しい話は私がいたします」

 マシューは全てを見ていたので、起こったことを私やみんなに話してくれた。

 ミディアが倒れる少し前に母上が、来たそうだが、もう少し早く来てくれていたら。いや、父上がミディアを呼び出したりしなければ。
 私が今日、山に行ったりしなければ。後悔で頭がおかしくなりそうだ。

「父上、何度もお断りしておりますよね。なぜ、こんなことを。身重のミディアに移動魔法を使わせて身体に負担がかかるとは思わなかったのですか!」

「私は移動魔法で来いとは言っていない。侯爵が……」

「魔法でなければ馬車で何時間もかけてこさせるつもりだったのですか!」

「いや、そんな、そんなつもりは……」

「あなたはいつもそうだ。自分のことしか考えていない。少し考えればわかるだろう! ミディアは身重なんですよ。しかも最近は体調が悪くてあまり動かない様にと先生に言われているんです!」

 私はどんどん頭に血が昇ってきた。

「リカルド、落ち着きなさい。今この人を責めても仕方ないわ。あとでゆっくり責めを負ってもらいます。今は診察を待ちましょう」

 母上に冷静になるように諭された。

 ミディアと子供に何かあったら私は父を許さない。何もなかっても許さないが。

「うちの主人も悪いのです。断れないのなら適当なこと言ってミディアは来れないと言えばよかったのです。きっとミディアに泣きついたのでしょう。どうしても来てもらわないと困るとかなんとか」

 義父上は図星だったようで項垂れている。

「男の人には分からないのですわ。妊婦は病気じゃないから、普通に行動できると思っているのでしょう。旦那様、ミディアと子供に何かあったら離縁しますからね」

 義母上はそう言うと義父上を睨んだ。

「とにかく今はミディアと子供の無事を祈りましょう」

 そうだ。今はそれしかない。ミディア、どうか無事でいてくれ。

「診察は終わりました。皆さんどうぞ中へ」

 扉が開き、メグ先生と一緒にきた看護師がそう告げた。

 部屋に入るとミディアは眠っていた。

「大丈夫ですよ。ミディア様もお腹の赤ちゃんも無事です。何か急に動いたり、興奮するようなことがあって身体に負担がかかったのでしょう。悪くなる前に赤ちゃんがお腹の中からサインを送った様で意識を失ったみたい。赤ちゃんはかなり魔力が強いようですわね。産まれてくるのはもう少し先ですが、このままこちらで産みましょう。領地に戻るのはちょっと身体に負担がかかりすぎるわ。それでよろしいですか?」

 私は義母上の顔を見た。義母上は頷いてくれた。

「わかりました。ここはミディアの実家ですし、産まれるまでしばらくこちらでお世話になります」

 ミディアの身体のことも考えて出産までランドセン邸に滞在することにした。

「母上、私は王太子には戻りませんし、もちろん国王にもなりません。フェノバール公爵の爵位を取り上げるというのならそれでも結構です。平民になってもフェノバール領で生きていきます。もう二度と私に王太子になれという話はしないで下さい。
父上の事は母上が責任を持って見張って下さい。父上はミディアには近づかないで下さい。近づいたら許しません。陛下と王妃様がお帰りです」

 私は家令にそう言うと母上たちに背を向け、寝台の横に置かれた椅子に座ってミディアの手を握った。

「リカルド、また様子を見にくるわね」

 母上が後ろから私の肩に手を置いた。

「おひとりでお願いします」

 私は振り返らずに母上にそう告げた。


 ミディアはお腹の子の魔力で眠っているらしい。

 後から様子を見にきたアーサーに子供の様子を魔力で見てもらった。

 もちろんメグ先生の許可はもらっている。

「やはり、王家の血を引いているだけあって魔力はかなり強いです」

「魔力の強い子供を産む時に母体はかなりダメージを受けると聞いたことがあるが、大丈夫なのか?」

 昔、そんな事を聞いたことがある。

「メグ先生、大丈夫なのですか?」

 メグ先生は頷いた。

「大丈夫ですよ。隣国から魔法助産師に来てもらう手はずになっています? 赤ちゃんの魔力が強いのは前からわかっていますし、赤ちゃんもよくわかっている様でお腹の中からミディア様をサポートしているわ。アーサー様にも分娩の日は手伝ってほしいの」

 アーサーに? メグ先生はアーサーを見る。

「もちろんです。私が出来ることならなんでもします」

「メグ先生、ミディアはいつ目が覚めるのですか?」

 私は心配になって聞いてみた。

「そうね。身体が大丈夫になったら目覚めると思うわ。赤ちゃんがコントロールしているみたい。私に聞くより、赤ちゃんに聞いた方がいいのではないかしら?」

 赤ちゃんに?

 私は意識をお腹の中の赤ちゃんに集中してみた。

『父上がずっと側にいて母上を動かさない様にするなら、すぐにでも戻すよ? 母上がまた無茶をしないように見張っていてくれる?』

 頭の中にそんな声が入ってきた。

「約束する。君が産まれるまでずっと側にいて見張っているよ」

 小声でそう言うとなんだか心も身体もぽかぽかと温かくなったような気がした。

 まぁ、産まれてからもミディアの側から離れるつもりはない。今日の事で私は一生ミディアのそばを離れないと誓った。

 それからすぐミディアは目を開いた

「もう、大丈夫だから早く目を覚まさせてと言っていたんだけど、赤ちゃんが無茶するからだめだって起こしてくれなかったの。父上に見張る様に頼んだから言う事を聞いて大人しくしてるなら目を覚まさせるよってやっと言ってくれたわ」

 目を覚ましたミディアは驚く様な事を言った。

 それは私しか知らないはず。

「父上ってお父様のこと? まさかね。リカルド様のこと?」

「そうだよ。赤ちゃんと約束したから、生まれるまで私はミディアから離れないからね。まぁ、産まれてからも離れないけど」

 私はミディアの指に自分の指を絡めてしっかり手を握った。


「お腹の赤ちゃん、母上は父上が守るから安心して産まれておいで」


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