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またやらかしてしまった

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 火急の呼び出しで久しぶりに実家に出向いた。

 今日はリカルド様もアーサー様も出かけているので久しぶりにメアリーと護衛に騎士団長のマシューさんと3人だ。
 掘削の様子を見に行っているリカルド様には実家に呼ばれたので行ってくると連絡をした。


「ミディア久しぶりだな」
 
 移動魔法で実家に到着すると父が出迎えてくれた。しかし難しい顔をしている。

「ミディア、実は陛下が来てるんだ」

 陛下? 国王陛下が来ているのか?

「それが火急の用ですか?」

「そうなんだ。すまないな」

 気弱な男め。断れなかったな。

 父は土木建築の専門家としてはかなりのできる男でリカルド様も師と仰いでいる。河川工事や道路整備、橋などは父の専門であちこちの領地に父が手掛けたものがある。そんな父だが、それ以外は全く弱気で頼りない。いつも母に叱られている。

「お父様、今日はお母様は?」

「ビアンカは今日は王妃様とルビーのサロンに行ってると思う」

「なるほど、お母様と王妃様のいない時を狙ったのですね」

 父はバツが悪そうな顔をしている。

 まぁ、国王陛下に頼まれて小心者の父が断れるはずもない。

「仕方ないですわね。お会いしましょう」

 私は客間に移動した。


「王国の太陽であらせられます国王陛下に……」

「そんな他人行儀な挨拶はよい。其方は私の娘ではないか」

 いや、一応国王陛下だし、娘と言われても実感は全くない。

「ミディアローズ、頼みがある」

 いきなり来たか。頼みは大体想像がつく。

「どのようなことでございましょうか」

 陛下は困ったような顔をしている。

「リカルドを説得してほしい」

「リカルド様をですか?」

「あぁ、王太子に戻るように説得してほしいのだ」

 やっぱりな。私に頼まないで直接話をすれば良いのに。

「私が中に入るより直接お話することをおすすめします」

 私はきっぱりそう言うと、横にいる父は頭を抱えている。

「ミディア、なんとかならないのか」

 父の言葉にも首を振った。

「リカルド様が決める事ですわ」

 陛下は紅茶をひと口飲んだ。

「では、王太子に戻ったら離縁するなどとは言わないな」

 今頃何を言っているんだ? このお腹で離婚などさすがの私もキツい。
 
 王様、持っている情報が古いよ。

「私はリカルド様の決定に従いますわ」

「では、リカルドが王太子に戻ると言ったら王太子妃になってくれるか?」

 なんだかめんどくさいな。

「リカルド様の口からそう言われたら、その時に考えます」

「其方がリカルドに王太子になってほしいと言えば、其方を思っているリカルドは王太子に戻るはずだ」 

 いやいや、私の意見に左右されてどうするんだ。

「国王陛下はなぜ一度に廃太子にしたリカルド様を元に戻したいのですか?」

「それは……」

 何故か国王陛下は口籠る。

「それは、国の為だ」

 国の為ってなんだか分かりやすそうでわかりにくい理由だな。

「国の為ですか? 国王陛下の為ではなく?」

「どういう意味だ」

「そのままですわ。リカルド様は国の為なら王太子に戻るかもしれませんが、国王陛下の為なら戻らないでしょう。陛下そろそろリカルド様を解放してあげてもらえませんか? 王太子に戻るにしても戻らないにしてもリカルド様に決めさせてあげて下さい。リカルド様は陛下の為に生きているのではありません」

 私がそういうと陛下はふんと鼻を鳴らした。

「なんで私の為なんだ。国の…民の為に決まっている。そしてリカルドの為だ」

「本当に?」

「あぁ本当だ」

 この人はもう国王をやっている事が嫌なんだ。だから国王の仕事をリカルド様に押しつけようとしている。でもそれを認めたくないんだな。

「では、リカルド様が王太子になったら陛下はどうされます?」

「そうだな。私は南の領地で隠居でもしようかと思っている」

 南の領地か。南の領地とは王家の領地だが、温暖で海もあるリゾート地だ。あんなところで隠居するのか?

「それは逃げるという事ですか?」

「逃げる?」

「ええ、たとえば、リカルド様が王太子になっても陛下はサポートをするとおっしゃるのであれば、わかるのですが、南の領地で隠居するとなれば、面倒なことはリカルド様に押し付けて、自分は南の領地に逃げるとしか伝わりませんわ。国王陛下、国王陛下は在位中に何か民の為になるようなことをされましたか? リカルド様に王太子に戻れというのなら、せめてひとつくらい後世に語り継がれるような陛下がなされたことを残してくださいませ。それで勇退されて南の領地にいくのであれば、私はリカルド様に進言いたしましょう。でも今のままで、南の領地に行くのなら勇退でもなんでもありませんわ。何もしなかった王として語られるでしょう。さぁ、陛下何か陛下が行った讃えられるものを次の世代に土産に残してくださいませ」

 不敬か? 捕まるかな? またいらんことを言ってしまった。
 まぁ、いいや。言ってしまったものは仕方ない。

「不敬で捕らえるのであれば、どうぞ捕らえて下さいませ。私は間違った事は言っておりません。逃げも隠れも致しませんわ」

 啖呵まできってしまった。ははは……。

 国王陛下も父も青い顔をしている。私は言うだけ言ったのでお腹がすいてきた。


「ほほほほほほ。ミディアには敵わないわね」

 王妃様と母が現れた。

「打ち合わせが早く終わったので王宮に戻ったら、あなたがランドセン家に行ったと聞いたので何かあるなと思ってきてみたら、まったくもう。情けないわね。ミディアの言う通りよ。何か残してみてはどう? リカルドがなるにしても、他の王子がなるにしても、何もしていないあなたはこのまま勇退なんかできないわね。手伝ってあげるから最後に一花咲かせなさいよ」

 王妃様はそう言って国王陛下の肩をぽんと叩いた。陛下は項垂れている。

「ミディア、不敬なんかじゃないから大丈夫よ。不敬だなんて言ったらぶっ飛ばすわ。お腹の子とミディアに何かあったら、この人、何かを成し遂げる前にリカルドに殺されちゃうわね。早くフェノバールに戻った方がいいわ」

 王妃様の言葉にやれやれと思ったら急にお腹が痛くなってきた。

 痛たたたた。まだ予定日まではずいぶんあるのに出てくる気か?

 久しぶりに気合い入れて文句言ったからかな? ヤバいな。

「痛い。痛いです。メアリー、お母様、メグ先生を呼んでくださいませ」

 私はあまりの痛さにその場にうずくまり意識を飛ばしてしまった。
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