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日本に帰る

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 慌ててゲオルグの元に行くと、ゲオルグはアロイス殿下とともに待っていた。

「2年も待たせてすみませんでした。やっと日本に戻れる魔法が見つかり、完成しました」

 ゲオルグは胸を張る。

 アロイス殿下は複雑そうな表情で私を見た。

「しかし、アイリ殿、本当に帰ってしまうのか? もうこの世界の民にとってアイリ殿はなくてはならない人になっている。アイリ殿も前世の家族や国の民と交流していると聞くし、もう日本に戻らなくてもいいのではないか?」

「そうです。確かに召喚して、いきなりあなたの世界を奪った事は申し訳なく思っています。でも日本よりこの世界にいる方が絶対幸せなはすです」

 ゲオルグにも引き止められている。

 ジークヴァルトの顔を見た。

「私は日本というところであろうと、どこであろうとアイリ殿の側を離れるつもりはない」

 いやいや、あなた、日本は無理だってば。

 さて、どうしようか。

 私は日本に帰りたい事は帰りたいのだけれど、あれから2年もたっている。時間の流れはどれくらい違うのだろう。

 私が召喚されたあの時間に戻れるのならいいのだが、2年後の今の日本にもどったら私は完全に浦島太郎だ。

 今更職場に顔を出してもあなた誰? の世界だろう。

 それにあの時夢で神様が言った私はすでに爆発に巻き込まれて亡くなっているということも気になる。

 ゲオルグが難しい顔で私を見る。

「ただ。移動先を日本というところに合わせようとしているのだけれど無いんだ」

「無い?」

「あぁ、中国とか、アメリカ合衆国とかロシアという国はあるのだけれど、日本という国が無いんだ。だからどこに軸を合わせればいいのかわからなくて……」

「日本が無い?」

「アイリ殿がきたのが今から2年前だがらその2年後に合わせようとしているのだけれど……」

 どういうことだ?

「なら、いつに合わせれば日本に戻れるの?」

「アイリ殿を召喚したあの日から35日後から日本が認識できないのだ」

 まさか日本が消えたの? ドラマで見た日本沈没?

 えっ? どういうこと?

 私はパニックになった。

「アイリ殿、大丈夫か?」

 ジークヴァルトが私の肩をガシッと持った。

 そうだ、鑑定だ。私には鑑定魔法がある。

 私はゲオルグ達が作った魔法陣の軸を合わせる魔道具の鑑定を始めた。私が召喚された日から35日後の日本に軸を合わせ、見た。

「無い。海だわ。海しか見えない」

「でしょう? 私もアイリ殿から伝授された鑑定魔法で見てみたのだが、日本が見つからないんだ」

 アロイス殿下も困った顔をしている。

 私は衝撃のあまり気を失ってしまった。





「アイリーン、だから言っただろう、日本には帰れないと」

 この声はあの時の神様だ。

「帰れないのは私の身体がなくなったからじゃないの?」

「それもあるが、あの35日後、日本は沈んだ。アイリーン、お前の岩倉愛莉としての日本での記憶はだんだん薄れているだろう? 家族や友達のこともあまり思い出せないだろう?」

 確かに神様の言うとおり、だんだん思い出せなくなっていた。

 正直な話、日本になぜ帰りたいのかわからなくなっていたのだ。

「日本がなくなる事は決まっていた。それにお前は聖女としてこの世界に戻る事が決まっていたからな」

「日本のみんなは死んでしまったの?」

「いや、沈む瞬間に違う時空の日本に移動した。お前はすでに死んでいたから岩倉愛莉として、そちらには移動はできない。お前が帰れる日本はもうないのだ」

 と言うことは岩倉愛莉の家族や友達はみんな無事に違う時空の日本に移動したのだな。それを聞いて安心した。

 神は言葉を続ける。

「アイリよ。お前の使命はこの世界を救済することだ。そのために力を与えた、人も与えた。聖女として存分に発揮するがいい」

「嫌よ! 普通の人間として生きたいわ」

「聖女も普通の人間だ。問題ない。では、さらばじゃ」

 何がさらばよ。言いたい事だけ言って神は消えた。

 また、夢か。目が覚めると王宮の私の部屋のベッドにいた。

 ベッドの周りにはジークヴァルト、アロイス殿下、ゲオルグがいる。

「アイリ殿。時空を超えた場所まで行ったり来たりできる移動魔法の強化版をゲオルグと一緒に考え、つくろうと思っている」
アロイス殿下は真剣な表情でそう言う。

「だからそれまでこの世界にいて、アイリ殿にも新しい魔法を作る手助けをしてほしい」

「私からもお願いします」

 ゲオルグも頭を下げた。

「ジークは?」

 私はジークの顔を見た。

「アイリ殿の心のままにすればいい。私はどこにでもお伴する」

 もう。ブレないわね。

 腹を括るか。

「わかったわ。その違う世界でも時空のでも行ったり来たりできる移動魔法を作りましょう。できるまでこの世界にいることにするわ」


 それから私はジークヴァルトと結婚し、アイリ、ブランケンハイム辺境伯夫人となった。
 ただ辺境伯の仕事は弟のリュディガーに任せっぱなしで私達はこの世界のあちらこちらに出没し、私のできることをしてきた。

 子供も4人生まれ、もうすっかり日本のことなど忘れていた。

「アイリ殿できましたぞ。世界も時空も超える移動魔法が」

 ゲオルグからの呼び出しに久しぶりに王宮に行った。

 移動魔法はまだ使えるのはゲオルグとアロイス殿下しか使えない。私とジークヴァルトの4人で移動魔法であの日から30年後の日本に移動した。

 眩しい光が私達の身体を包み込む。視界が歪み、そして元に戻る。

 日本に着いたのだろうか?

 たしか、日比谷公園に移動したはずなのだが……。

「日本とはこのようなところなのか?」

「これが日本?」

「アイリ殿……」

「グロースクロイツ王国に戻りましょう」

 私の一声で私達はグロースクロイツ王国に戻った。

 その後は日本のことなどすっかり忘れ、私はこの世界で幸せな毎日を過ごした。

 あの時、召喚されてこの世界に来たのは今となり、あの日本を見てしまったからではないが、ラッキーだったとしかいいようがない。


 もうすぐ、この世界ともお別れの時が来るが、もう二度と転生などしないつもりだ。
 天に上ったら神様に積もり積もった文句を言うつもりだ。

 そして、ジークヴァルトとふたりで天で子供達や孫達を見守りながらのんびりしようと思う。

「ジーク、ひと足先に行くけど早く来てね」

「あぁ、すぐに行く」

「私はこの世界に来て幸せだったわ。みんなありがとう」

 私は愛する夫のジークヴァルトと子供達、孫達に囲まれて天寿を全うした。






「産まれましたよ! 姫様です! 可愛い姫様です!」

 ん? 姫様?

「お~、可愛い姫だな。我が国の跡取り、次の女王だな」

 ん? 次の女王?

 ちょっと待ってよ! 神様に文句を言う前に私、また転生しちゃったの?

 今度は王女なの? 勘弁してよ。

           〈了〉

これにて終了です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

「消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです」の連載をはじめました。
また読んでいただけると嬉しいです。
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感想 21

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みんなの感想(21件)

スパロボα
2023.09.10 スパロボα

日本に帰るを読んで

完結お疲れ様でした!

神は神でもクソ神でした!

家族や友達がいる違う時空の日本に行ったら、すぐ帰ってきてもうあそこのこと(違う時空の日本)は忘れたとアイリーンさんは言っていたが、一体どんな日本になっていたのか非常に気になる!(>_<)💦

金峯蓮華
2023.09.10 金峯蓮華

感想ありがとうございます。どんな日本だったか想像して楽しんでくださいませ。善きにしろ悪しきにしろアイリ達が無理だと思う世界でした。
でもまた行けますしね。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。

解除
猫3号
2023.09.10 猫3号

えーと?別の時空の日本はどんなふうな異世界だったのか。アイリたちが一目見て絶望するような光景が広がってたの?荒んだ感じ?自称神のアイリを騙すための幻覚とかじゃなく?

金峯蓮華
2023.09.10 金峯蓮華

感想ありがとうございます。
アイリ達が見た日本はどんな世界だったのか、想像して楽しんでくださいませ。
確かにそれは神が見せた幻影かもしれません。神はアイリを日本に戻すつもりはないようです。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。

解除
スパロボα
2023.09.10 スパロボα

アイリーンの父母に会うを読んで

おおっ、ついに帰還方法が判明!

でも愛梨さんは〇んだとか神様が言ってたな。

愛梨さんが〇んだ事になっててアイリーンの姿のままで帰ったら、戸籍ないからどうするんだろう💦

金峯蓮華
2023.09.10 金峯蓮華

感想ありがとうございます。
戸籍がないと困りますね。アイリは日本に帰れたのでしょうか?
最終回を楽しみにしてくださいませ。

解除

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