31 / 34
日本に戻ってやりたいことは
しおりを挟む
あれからこの国の国境に頑丈な結界を張った。半年かかった。やっぱりこの国は広い。
でももうこれで安心だ。
今日はレオナード殿下とエミーリアの結婚式だった。
私も聖女として参列し、祝福の魔法でお祝いをさせてもらった。
元王太子だったアロイス殿下が正気になり、レオナード殿下は王太子の地位をアロイス殿下に返そうとしたのだけれど、元々魔導士として生きたかったアロイス殿下はその申し出を断り、レオナード殿下がそのまま王太子として将来国王になることになった。
そして長年王太子妃教育を受けたエミーリアはそのまま王太子妃となり、いずれは王妃となる。
アロイス殿下の婚約者時代からもエミーリアはレオナード殿下が好きだったようだし、レオナード殿下もずっとエミーリアが好きだったので、アロイス殿下はあんな事があり、ちょっと大変だったが、結果オーライといえば結果オーライなのかもしれない。
国王と王妃様は私にアロイス殿下の妃になってほしいようだが、私は日本に帰るつもりだし、何よりアロイス殿下にはゲオルグがいる。
そういうことらしい。
まだこの国では公に認められてはいないが、どの世界にもあって然るべしなのだろう。
私はもちろんのこと、レオナード殿下やエミーリア、ジークヴァルトは何の違和感もなく受け入れている。
きっと国王や王妃様もそのうち認めてくれる日がくるといいと思う。
「でも、ジークはそう言うの嫌かと思っていたわ」
「あぁ、私もそう思っていた」
「私もですわ」
私もレオナード殿下もエミーリアもジークヴァルトを昔気質の頭の硬い考えの人だと誤解していた。
「人はそれぞれだからな。私は男は嫌だが……」
はははと笑う。
「ジークはアイリ殿一筋だものな」
「そうねジーク様はアイリ様以外は女性も男性も興味ないですわね」
ん? 何それ?
ジークヴァルトにとって私は騎士の誓いをした主人だからか。別に騎士が結婚しても主人は怒らないのに。
「騎士の誓いをしても、私の所有物ではないのだから好きな人と結婚してもいいのよ」
私がそう言うとみんな固まった。
この世界では騎士の誓いをしたら、主人の所有物になり、結婚もできないのかしら?
レオナード殿下がジークヴァルトの肩を叩いた。
「ジーク、辛いな」
「ほんとに、アイリ様は鈍すぎますわ」
何だ? 意味がわからない。
エミーリアが私のそばに来て耳元で囁いた。
「ジーク様はアイリ様のことをお慕いしておりますのよ。気づいていないのはアイリ様くらいですわ」
はぁ~?
まさか、いや、ないわ。
レオナード殿下を見ると大きく頷いている。
ジークヴァルトをちらっと見ると、赤い顔をして俯いている。
「私はアイリ殿がジークと結婚してこの世界に残ってほしいと思っている」
「私もですわ。アイリ様にそばにいて欲しいです。元の世界よりこちらの世界の方が幸せだと思ってもらえるようにレオ様と良い世界にします。アイリ様、お願いです。帰らないで下さいませ」
エミーリアは私の手を握る目をウルウルさせ、上目遣いで私を見る。いつの間にそんな技を覚えたんだ。
「まだ、帰る術がないので、今すぐに帰ることは難しいけど、元の世界でやりたかったことがあるから戻りたいのよ」
私にはやりたかったことがあった。
ジークヴァルトが顔を上げ私を見た。
「それはこの世界ではできないことなのか?」
「そんなことはないけど」
「では、この世界でそれをすればどうだろう」
「帰れる術が見つかるまでは、もちろんこの世界でそれをするつもりよ」
私がやりたいことは、医療が充実していない地区や医療費の支払いが難しい人、手術が難しい小さな子供などに鑑定魔法で病気を見つけ、回復魔法で治すことだ。
医師免許はあるのでどこにも属さないさすらいの医師となり、あちこちにふらっと出没しサッと治してさっと去るみたいなことがしたかった。
確かにこの世界でもそれはできる。日本と比べて国民皆保険もなく、検査や医療がまだまだ不十分なこの世界の方がそれは必要なのかもしれない。
そんなこと言ったら帰れなくなるじゃない。
それにあの夢が本当なら岩倉愛莉はもう亡くなっている。
日本に帰るより、ここにいる方が幸せなのかな。心が揺れる。
「アイリ殿が元の世界に戻るなら私も一緒に参る」
いやいや、ジークさん、それは無理だわ。あなた日本にいたら違和感めっちゃあるもの。きっと、格闘技の世界からスカウトされちゃうわ。
私はこんな時にリングで闘うジークヴァルトの姿を想像してクスッと笑ってしまった。
でももうこれで安心だ。
今日はレオナード殿下とエミーリアの結婚式だった。
私も聖女として参列し、祝福の魔法でお祝いをさせてもらった。
元王太子だったアロイス殿下が正気になり、レオナード殿下は王太子の地位をアロイス殿下に返そうとしたのだけれど、元々魔導士として生きたかったアロイス殿下はその申し出を断り、レオナード殿下がそのまま王太子として将来国王になることになった。
そして長年王太子妃教育を受けたエミーリアはそのまま王太子妃となり、いずれは王妃となる。
アロイス殿下の婚約者時代からもエミーリアはレオナード殿下が好きだったようだし、レオナード殿下もずっとエミーリアが好きだったので、アロイス殿下はあんな事があり、ちょっと大変だったが、結果オーライといえば結果オーライなのかもしれない。
国王と王妃様は私にアロイス殿下の妃になってほしいようだが、私は日本に帰るつもりだし、何よりアロイス殿下にはゲオルグがいる。
そういうことらしい。
まだこの国では公に認められてはいないが、どの世界にもあって然るべしなのだろう。
私はもちろんのこと、レオナード殿下やエミーリア、ジークヴァルトは何の違和感もなく受け入れている。
きっと国王や王妃様もそのうち認めてくれる日がくるといいと思う。
「でも、ジークはそう言うの嫌かと思っていたわ」
「あぁ、私もそう思っていた」
「私もですわ」
私もレオナード殿下もエミーリアもジークヴァルトを昔気質の頭の硬い考えの人だと誤解していた。
「人はそれぞれだからな。私は男は嫌だが……」
はははと笑う。
「ジークはアイリ殿一筋だものな」
「そうねジーク様はアイリ様以外は女性も男性も興味ないですわね」
ん? 何それ?
ジークヴァルトにとって私は騎士の誓いをした主人だからか。別に騎士が結婚しても主人は怒らないのに。
「騎士の誓いをしても、私の所有物ではないのだから好きな人と結婚してもいいのよ」
私がそう言うとみんな固まった。
この世界では騎士の誓いをしたら、主人の所有物になり、結婚もできないのかしら?
レオナード殿下がジークヴァルトの肩を叩いた。
「ジーク、辛いな」
「ほんとに、アイリ様は鈍すぎますわ」
何だ? 意味がわからない。
エミーリアが私のそばに来て耳元で囁いた。
「ジーク様はアイリ様のことをお慕いしておりますのよ。気づいていないのはアイリ様くらいですわ」
はぁ~?
まさか、いや、ないわ。
レオナード殿下を見ると大きく頷いている。
ジークヴァルトをちらっと見ると、赤い顔をして俯いている。
「私はアイリ殿がジークと結婚してこの世界に残ってほしいと思っている」
「私もですわ。アイリ様にそばにいて欲しいです。元の世界よりこちらの世界の方が幸せだと思ってもらえるようにレオ様と良い世界にします。アイリ様、お願いです。帰らないで下さいませ」
エミーリアは私の手を握る目をウルウルさせ、上目遣いで私を見る。いつの間にそんな技を覚えたんだ。
「まだ、帰る術がないので、今すぐに帰ることは難しいけど、元の世界でやりたかったことがあるから戻りたいのよ」
私にはやりたかったことがあった。
ジークヴァルトが顔を上げ私を見た。
「それはこの世界ではできないことなのか?」
「そんなことはないけど」
「では、この世界でそれをすればどうだろう」
「帰れる術が見つかるまでは、もちろんこの世界でそれをするつもりよ」
私がやりたいことは、医療が充実していない地区や医療費の支払いが難しい人、手術が難しい小さな子供などに鑑定魔法で病気を見つけ、回復魔法で治すことだ。
医師免許はあるのでどこにも属さないさすらいの医師となり、あちこちにふらっと出没しサッと治してさっと去るみたいなことがしたかった。
確かにこの世界でもそれはできる。日本と比べて国民皆保険もなく、検査や医療がまだまだ不十分なこの世界の方がそれは必要なのかもしれない。
そんなこと言ったら帰れなくなるじゃない。
それにあの夢が本当なら岩倉愛莉はもう亡くなっている。
日本に帰るより、ここにいる方が幸せなのかな。心が揺れる。
「アイリ殿が元の世界に戻るなら私も一緒に参る」
いやいや、ジークさん、それは無理だわ。あなた日本にいたら違和感めっちゃあるもの。きっと、格闘技の世界からスカウトされちゃうわ。
私はこんな時にリングで闘うジークヴァルトの姿を想像してクスッと笑ってしまった。
18
お気に入りに追加
736
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。驚くべき姿で。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる