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日本に戻ってやりたいことは

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 あれからこの国の国境に頑丈な結界を張った。半年かかった。やっぱりこの国は広い。

 でももうこれで安心だ。

 今日はレオナード殿下とエミーリアの結婚式だった。
 私も聖女として参列し、祝福の魔法でお祝いをさせてもらった。

 元王太子だったアロイス殿下が正気になり、レオナード殿下は王太子の地位をアロイス殿下に返そうとしたのだけれど、元々魔導士として生きたかったアロイス殿下はその申し出を断り、レオナード殿下がそのまま王太子として将来国王になることになった。

 そして長年王太子妃教育を受けたエミーリアはそのまま王太子妃となり、いずれは王妃となる。

 アロイス殿下の婚約者時代からもエミーリアはレオナード殿下が好きだったようだし、レオナード殿下もずっとエミーリアが好きだったので、アロイス殿下はあんな事があり、ちょっと大変だったが、結果オーライといえば結果オーライなのかもしれない。

 国王と王妃様は私にアロイス殿下の妃になってほしいようだが、私は日本に帰るつもりだし、何よりアロイス殿下にはゲオルグがいる。

 そういうことらしい。

 まだこの国では公に認められてはいないが、どの世界にもあって然るべしなのだろう。

 私はもちろんのこと、レオナード殿下やエミーリア、ジークヴァルトは何の違和感もなく受け入れている。

 きっと国王や王妃様もそのうち認めてくれる日がくるといいと思う。

「でも、ジークはそう言うの嫌かと思っていたわ」

「あぁ、私もそう思っていた」

「私もですわ」

 私もレオナード殿下もエミーリアもジークヴァルトを昔気質の頭の硬い考えの人だと誤解していた。

「人はそれぞれだからな。私は男は嫌だが……」

 はははと笑う。

「ジークはアイリ殿一筋だものな」

「そうねジーク様はアイリ様以外は女性も男性も興味ないですわね」

 ん? 何それ?

 ジークヴァルトにとって私は騎士の誓いをした主人だからか。別に騎士が結婚しても主人は怒らないのに。

「騎士の誓いをしても、私の所有物ではないのだから好きな人と結婚してもいいのよ」

 私がそう言うとみんな固まった。

 この世界では騎士の誓いをしたら、主人の所有物になり、結婚もできないのかしら?

 レオナード殿下がジークヴァルトの肩を叩いた。

「ジーク、辛いな」

「ほんとに、アイリ様は鈍すぎますわ」

 何だ? 意味がわからない。

 エミーリアが私のそばに来て耳元で囁いた。

「ジーク様はアイリ様のことをお慕いしておりますのよ。気づいていないのはアイリ様くらいですわ」

 はぁ~?

 まさか、いや、ないわ。

 レオナード殿下を見ると大きく頷いている。

 ジークヴァルトをちらっと見ると、赤い顔をして俯いている。

「私はアイリ殿がジークと結婚してこの世界に残ってほしいと思っている」

「私もですわ。アイリ様にそばにいて欲しいです。元の世界よりこちらの世界の方が幸せだと思ってもらえるようにレオ様と良い世界にします。アイリ様、お願いです。帰らないで下さいませ」

 エミーリアは私の手を握る目をウルウルさせ、上目遣いで私を見る。いつの間にそんな技を覚えたんだ。

「まだ、帰る術がないので、今すぐに帰ることは難しいけど、元の世界でやりたかったことがあるから戻りたいのよ」

 私にはやりたかったことがあった。

 ジークヴァルトが顔を上げ私を見た。

「それはこの世界ではできないことなのか?」

「そんなことはないけど」

「では、この世界でそれをすればどうだろう」

「帰れる術が見つかるまでは、もちろんこの世界でそれをするつもりよ」

 私がやりたいことは、医療が充実していない地区や医療費の支払いが難しい人、手術が難しい小さな子供などに鑑定魔法で病気を見つけ、回復魔法で治すことだ。
 医師免許はあるのでどこにも属さないさすらいの医師となり、あちこちにふらっと出没しサッと治してさっと去るみたいなことがしたかった。

 確かにこの世界でもそれはできる。日本と比べて国民皆保険もなく、検査や医療がまだまだ不十分なこの世界の方がそれは必要なのかもしれない。

 そんなこと言ったら帰れなくなるじゃない。

 それにあの夢が本当なら岩倉愛莉はもう亡くなっている。

 日本に帰るより、ここにいる方が幸せなのかな。心が揺れる。

「アイリ殿が元の世界に戻るなら私も一緒に参る」

 いやいや、ジークさん、それは無理だわ。あなた日本にいたら違和感めっちゃあるもの。きっと、格闘技の世界からスカウトされちゃうわ。

 私はこんな時にリングで闘うジークヴァルトの姿を想像してクスッと笑ってしまった。


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