上 下
26 / 34

あれからの話を聞きました

しおりを挟む
 ヴェルミーナと26年ぶりに再会した。ヴェルミーナは53年ぶりだと言う。アイリーンが亡くなってから53年も経っている。それが短いのか長いのかわからない。ましてや違う世界だと思っていたのに同じ世界だったことにも驚きを隠せなかった。

 アイリーンの父母や国王や王妃は80歳を超えているがまだ健在らしい。

「アイリーン様が転生して、グローイスクロイツ王国で聖女をしていると聞いたらきっと会いたがると思いますわ」

 ヴェルミーナは穏やかに微笑む。

 私も会えるものなら会いたい。卒園パーティーで断罪され牢に入れられ、次の日には処刑された。あの日は父母や国王夫妻は隣国の国王の結婚式の為にあの国を留守にしていた。
 まさかその間にあの馬鹿王太子殿下とアバスレ偽聖女がそんな企てをしていたとは誰も思わなかっただろう。

 馬鹿王太子殿下は王命だと言ったそうだ。国王がそんなことを言うはずかないとみんな思いながら、勅命書を見せられ何も言えず従ったのだろう。

 あのふたりは王命と嘘をつき、公文書を偽造し、王の印まで偽造した。これも罪のひとつだろう。

 私の首が落ちた時、雷鳴が轟き、王子宮に雷が落ちたらしい。それから豪雨が降り続いたそうだ。それも我が国の王都だけに。隣国からの帰り道、国王達は王都にかかる雷雲を見て胸騒ぎがしたそうだが、後の祭りだった。

 ヴェルミーナが見せてくれたクラウディア様から送られた手紙をにはそのような事が書いてあった。

 53年前の手紙はもう茶色く変色しつつあった。

 王太子殿下と聖女は聖女アイリーン様を陥れ殺した極悪人として広場に大きな杭を立てそこに磔にされたそうだ。罰は民が与えて良いと本当の王命が下った。

 聖女は「私は聖女よ! こんなことをして神が黙っている訳がないわ! お前達みんなには神の罰が下るわ!」と喚き散らしていたそうだ。

 しかし、その時聖女の杭に雷が落ちたそうだ。聖女は無傷であったが失禁したらしい。民のひとりが「神はお怒りだ! 真の聖女を殺したこいつらを許すな!」と叫んだ。それをきっかけに皆口々に叫び、投石を始めた、最後は火のついた矢を放ったそうだ。

 なんだか酷いわね。私はそこまでしなくてよかったと思うけど、まぁ皆さんの気持ちが収まらなかったのならしかたないわね。

「しかし、国王や王妃は馬鹿でも実の息子だろう? 心を鬼にしたのか?」

 ジークヴァルトは不思議そうに私とヴェルミーナを見る。

「私の母は王妃様の妹だったの。父と陛下は親友でね。それで私が婚約者になったの。3歳で婚約して、それから毎日お妃教育の為に王宮通いが始まったから、毎日会う私は国王夫妻にとって姪だけど娘みたいなものだったの。みんな聖女が憎かったのではないかしら? あの聖女は地位を傘にきてやりたい放題だったもの。たぶん精神拘束系の魔法も使っていて、王太子殿下や側近を意のままにしていたと思うの。陛下や王妃様はそんな王太子に愛想を尽かしていたわ」

 私の話を受け、ヴェルミーナはジークヴァルトを見てふふふと笑った。

「自分と血のつながった子供がお粗末でいくらたしなめても治らず、余計に酷くなった時、愛が憎悪になるの。ましてや可愛がっている姪を蔑ろにされて殺されたのよ。国に未来も閉ざされたようなものだしね」

 そんなものなのかしら? 確かにあの頃、陛下達と王太子殿下の間には距離があった。王太子殿下があの聖女にのめり込んでいるのが許せなかったようだ。あの聖女はとにかく酷かった。

「ヴェルの話を聞いていたらみんなに会いたくなってきたわ。私は誰にもお別れができずに旅立ってしまったものね」

 でも会っても私がアイリーンだとは誰もわからないだろう。

 会いたいけど……。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...