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アロイス
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私は魔法研究所にいるゲオルグを訪ねた。
ゲオルグは私から伝授された人々の更なる訓練をしながら、私が日本に戻れる術を探してくれている。
「ゲオルグ、どんな感じかしら?」
ゲオルグはずいぶん明るくなった。それもこれもアロイス殿下が復活したせいだろう。
「あぁ、アイリ殿。お久しぶりです。みんないい感じですよ」
みんな上手くいっているようだ。
「そろそろみんなでブランケンハイム領の結界を修繕しに行こうと思うのだけど、どうかしら?」
「大丈夫です。10人位はすぐに参加できます」
「そうよかったわ。ところで私が帰る魔法はどう?」
ゲオルグは急に難しい顔になる。
「すみません。まだできていません。昔の文献などさがしているのですが、やはり召喚された聖女が元の世界に戻ったという記述はどこにもないのです」
申し訳なさそうな顔で私を見る。
「ただ、聖女の子孫の屋敷からこんなものが見つかりました。買いてある文字が私には読めなくて。何人かに見せたのですが、誰も読めないのです」
ゲオルグは書物を差し出した。私はパラパラとめくってみる。
あら、日本語だわ。
「読めますか?」
「ええ、私の元いた世界の言語だわ? これは日記みたいだわね」
「日記ですか……」
ゆっくり読んでみたいわね。
「借りていっていいかしら?」
「はい。もしよければ何が書いてあるか教えてください」
「わかったわ」
私は書物を預かった。
「ゲオルグ!」
ゲオルグを呼ぶ声の方に目をやるとアロイス殿下が立っていた。
「あぁ、殿下」
「輝けるグロースクロイツ王国の太陽であるアロイス殿下にご挨拶申し上げます」
私はアロイス殿下にカーテシーをした。
「聖女殿、おやめ下さい。私はもう廃嫡された身。王位継承権も持ちません。今は一介の魔導士です。どうかアロイスとお呼び下さい」
アロイス殿下は私に頭を下げた。
「聖女殿のおかげで生き返りました。今は罪滅ぼしのために民に尽くしたいと思っています」
罪滅ぼし?
「別に何もしていないではありませんか? 殿下が罪滅ぼしをするのは民ではなく、エミーにです。エミーが謝罪を受け入れればそれで終わりですわ」
私の言葉にアロイス殿下は驚いた顔をしている。
ゲオルグが前に出た。
「エミーリア嬢の許しはもう得ています。エミーリア嬢は『あの時は辛かったですが、薬で惑わされていたとの事ですし、今は幸せなのでお気になさらないでください』とおっしゃられました」
「なら、問題ないですわ。ただアロイス殿下をまた王太子に担ぎ上げようとしている勢力があると聞き及んでおります。レオナード殿下もアロイス殿下が王太子に相応しいとおっしゃっているようですし、正直な話、アロイス殿下はどのようにお考えですか?」
ズバリ切り込んでみた。
アロイス殿下は私の目を真正面からしっかり見た。
「私は魔導士です。誰が何と言おうと王太子には戻りません。レオナードは王太子としてよくやっています。エミーリア嬢とも仲睦まじい。私は王太子の頃から魔導士として生きたいと思っていました。王太子に向いてないことは自分が1番わかっています。婚約者だったエミーリア嬢のことも愛情を持つことはできなかった。しかし、嫡男で王太子だと周りから言われ、教育を受け、生きてきました。逃げることなどできなかった。そんな心の隙間に入り込まれてしまったのだと思います。私が不甲斐ないばかりにゲオルグやフランツ、ヘルムートを巻き込んでしまいなんと詫びればいいか……」
アロイス殿下は俯いてしまった。何も悪くないのに。
私はアロイス殿下を鑑定してみた。
職業 魔導士
「アロイス様、顔を上げて下さいませ。私、今、こっそりアロイス様を鑑定させていただきました。アロイス様の職業は王太子ではなく、魔導士でしたわ。なので殿下とは呼ばず、あえてアロイス様と呼ばせていただきます。アロイス様、これからはゲオルグといっしょにこの国の魔導士として色々な仕事を成し遂げて下さいませ。まずはブランケンハイム領の結界の修復ですわね。それに私が元の世界に戻る魔術を見つけて下さいませ」
私がそう言うとアロイスははにかんだ笑顔を見せた。
「聖女の鑑定でアロイス殿下の職業は魔導士となっている。もう王太子に戻ることはないと発表しておきますわ。もう何も気にすることなく魔法の研究に取り組んで下さいませ」
「ありがとう聖女殿」
「聖女殿は嫌ですわ。アイリとお呼び下さいね。それでは、私が帰れるように早く帰還魔法を探して下さいませ。お願いします」
私は部屋を出た。
「アイリ殿、私の職業は何でしょうか?」
ジークヴァルトが不思議そうな顔で聞いてきた。
「ジークの職業?」
私はその場でジークヴァルトを鑑定してみた。
「辺境伯、騎士、聖女の護衛騎士、魔導士とあるわ。ジークヴァルトはパラレルワーカーだわね」
「パラレルワーカー?」
「私が元いた世界の言葉で、幾つもの仕事を掛け持ちしている人のことよ」
私の言葉にジークヴァルトは楽しそうにハハハと笑った。
ゲオルグは私から伝授された人々の更なる訓練をしながら、私が日本に戻れる術を探してくれている。
「ゲオルグ、どんな感じかしら?」
ゲオルグはずいぶん明るくなった。それもこれもアロイス殿下が復活したせいだろう。
「あぁ、アイリ殿。お久しぶりです。みんないい感じですよ」
みんな上手くいっているようだ。
「そろそろみんなでブランケンハイム領の結界を修繕しに行こうと思うのだけど、どうかしら?」
「大丈夫です。10人位はすぐに参加できます」
「そうよかったわ。ところで私が帰る魔法はどう?」
ゲオルグは急に難しい顔になる。
「すみません。まだできていません。昔の文献などさがしているのですが、やはり召喚された聖女が元の世界に戻ったという記述はどこにもないのです」
申し訳なさそうな顔で私を見る。
「ただ、聖女の子孫の屋敷からこんなものが見つかりました。買いてある文字が私には読めなくて。何人かに見せたのですが、誰も読めないのです」
ゲオルグは書物を差し出した。私はパラパラとめくってみる。
あら、日本語だわ。
「読めますか?」
「ええ、私の元いた世界の言語だわ? これは日記みたいだわね」
「日記ですか……」
ゆっくり読んでみたいわね。
「借りていっていいかしら?」
「はい。もしよければ何が書いてあるか教えてください」
「わかったわ」
私は書物を預かった。
「ゲオルグ!」
ゲオルグを呼ぶ声の方に目をやるとアロイス殿下が立っていた。
「あぁ、殿下」
「輝けるグロースクロイツ王国の太陽であるアロイス殿下にご挨拶申し上げます」
私はアロイス殿下にカーテシーをした。
「聖女殿、おやめ下さい。私はもう廃嫡された身。王位継承権も持ちません。今は一介の魔導士です。どうかアロイスとお呼び下さい」
アロイス殿下は私に頭を下げた。
「聖女殿のおかげで生き返りました。今は罪滅ぼしのために民に尽くしたいと思っています」
罪滅ぼし?
「別に何もしていないではありませんか? 殿下が罪滅ぼしをするのは民ではなく、エミーにです。エミーが謝罪を受け入れればそれで終わりですわ」
私の言葉にアロイス殿下は驚いた顔をしている。
ゲオルグが前に出た。
「エミーリア嬢の許しはもう得ています。エミーリア嬢は『あの時は辛かったですが、薬で惑わされていたとの事ですし、今は幸せなのでお気になさらないでください』とおっしゃられました」
「なら、問題ないですわ。ただアロイス殿下をまた王太子に担ぎ上げようとしている勢力があると聞き及んでおります。レオナード殿下もアロイス殿下が王太子に相応しいとおっしゃっているようですし、正直な話、アロイス殿下はどのようにお考えですか?」
ズバリ切り込んでみた。
アロイス殿下は私の目を真正面からしっかり見た。
「私は魔導士です。誰が何と言おうと王太子には戻りません。レオナードは王太子としてよくやっています。エミーリア嬢とも仲睦まじい。私は王太子の頃から魔導士として生きたいと思っていました。王太子に向いてないことは自分が1番わかっています。婚約者だったエミーリア嬢のことも愛情を持つことはできなかった。しかし、嫡男で王太子だと周りから言われ、教育を受け、生きてきました。逃げることなどできなかった。そんな心の隙間に入り込まれてしまったのだと思います。私が不甲斐ないばかりにゲオルグやフランツ、ヘルムートを巻き込んでしまいなんと詫びればいいか……」
アロイス殿下は俯いてしまった。何も悪くないのに。
私はアロイス殿下を鑑定してみた。
職業 魔導士
「アロイス様、顔を上げて下さいませ。私、今、こっそりアロイス様を鑑定させていただきました。アロイス様の職業は王太子ではなく、魔導士でしたわ。なので殿下とは呼ばず、あえてアロイス様と呼ばせていただきます。アロイス様、これからはゲオルグといっしょにこの国の魔導士として色々な仕事を成し遂げて下さいませ。まずはブランケンハイム領の結界の修復ですわね。それに私が元の世界に戻る魔術を見つけて下さいませ」
私がそう言うとアロイスははにかんだ笑顔を見せた。
「聖女の鑑定でアロイス殿下の職業は魔導士となっている。もう王太子に戻ることはないと発表しておきますわ。もう何も気にすることなく魔法の研究に取り組んで下さいませ」
「ありがとう聖女殿」
「聖女殿は嫌ですわ。アイリとお呼び下さいね。それでは、私が帰れるように早く帰還魔法を探して下さいませ。お願いします」
私は部屋を出た。
「アイリ殿、私の職業は何でしょうか?」
ジークヴァルトが不思議そうな顔で聞いてきた。
「ジークの職業?」
私はその場でジークヴァルトを鑑定してみた。
「辺境伯、騎士、聖女の護衛騎士、魔導士とあるわ。ジークヴァルトはパラレルワーカーだわね」
「パラレルワーカー?」
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