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15話 エルネスティーネの秘密

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 王家主催のお茶会で知り合ったエルネスティーネとはあの後ちょこちょこ会っている。

 今日も一緒にお茶をすることになっていて彼女が来るのをサロンで待っている。エルネスティーネも今年から魔法学校に入学するそうだ。

 この国の魔法学校は12歳でからなのだが、優秀な者であれば年が若くても飛び級で入れる。そして貴族でも平民でも入れる。魔法を学びたい者ならどの国からでも入れる。

 そんな誰でも入れたらセキュリティは大丈夫かと思うが、魔法学校だけあって結界や安心安全な魔法があちこちに張り巡らされている。どこよりも安全な魔法学校なのだ。

 ラインハルトは8歳から魔法学校に通っているそうだ。王太子たる者魔法ができなくては困るらしい。そういえばギルベルト様も魔法学校に通っていたな。あの頃からヴェルミーナとは婚約者同士だったから仲睦まじかった。

「エデル、私も今年から魔法学校に通うからよろしく頼むね」

 お茶会に参加する予定ではなかったハウルが突然現れ、私の肩をぽんと叩いた。

「ハウル様は騎士学校に入られるのではなかったのですか?」

「そのつもりだったけど、エデルが魔法学校に行くなら私も行こうと思ったんだ。魔法学校には魔法騎士科があるからそれに行く。科は違うけど校舎は同じだからすぐ会えるよ」

 いや、別に会わなくてもいいのですがね。

「私も行こうかな。4歳でも入れるよね?」

 ハウルにくっついてきたアロイスも飛び級?

「アロはダメだ。魔法学校は読み書きが完璧でないと授業が受けられない。まずは読み書きと外国語を頑張りなさい」

 お~、お兄ちゃん風を吹かせている。アロイスは膨れっ面をして部屋を出て行った。

「それでエデル、前世で兄上と婚約者していたけど、今はどうなの?」

 アロイスが消えたからか、ハウルは直球で聞いてきた。

「私も聞きたいわ」

 急にエルネスティーネが現れた。音もなくスッと現れるからいつもびっくりさせられている。

「実はね。前世は確かに婚約者だったんだけど、今世ではまだ何も決まってないの。両親は私が結婚を考えられる年になった時に決めればいいと言っているわ」

 私はふふふと笑った。

「そうなの? じゃあラインハルト殿下の片想いなのね」

「兄上可哀想だな」

 ハウルは笑っていて、ちっとも可哀想がっていない。

「私はライムントを好きだった令嬢から狙われているおそれもあるからあんまりいろんな事は言えないの」

「確かにそうね。エデルのことは私が守るから大丈夫よ」

 私が守る? エルネスティーネは護衛?

 私が怪訝な顔をしていたからかエルネスティーネはクスッと笑った。

「ここだけの話よ。エデルには教えちゃうわね」

 そう言って指をパチンと鳴らした。

「遮音魔法よ。ハウは知ってるけど使用人は知らないからね。うちのダウム家は表向きは普通の公爵家なんだけど、裏はこの国に暗部を引き受けてるの。元々は何代も前の王弟が起した家でね、武闘派だったため、暗部を引き受けることになったみたい」

 暗部か。うちの国にはないのよね。王家直属の暗部しかないから、作らなきゃと思っていたけど、余程信用できる家しか無理だもんね。

「ティーネも鍛えてるの?」

 まだ9歳の女の子だ。鍛えてると言われたらどうしよう。

「もちろんよ。うちは3歳になる前に選別されて明らかに向いてない者は養子に出されるの。分家からも適性のある者は本家の養子になるの。私は6人兄弟だけど、両親の血を引いているのは一番上の兄と私だけ、あとは腹違いや種違い、分家の子供なの」

 エルネスティーネの話がなかなか衝撃的なので私は固まってしまった。やはり我が国は危機管理能力低いわ。この国みたいなシビアな暗部機関はないもの。考えなくちゃダメね。

 エルネスティーネは話を続ける。
「私はそこいらの騎士より強いわ。それに魔法も使える。鍛え方が半端ないからね」

 ふふふと笑っている。

 ハウルがため息をついた。

「こいつは戦闘オタクなんだよ。闘うのが好きなんだ。あとは調略したりするのも好きだな。じいさんは私と結婚させて、王家の盾にしようと思っているようだが、こんな怖い女まっぴらごめんだよ」

 そうなの?

「でも、それならライ様と結婚して王妃になった方がいいんじゃないの?」

「王妃は綺麗じゃなきゃダメでしょう? 綺麗って容姿じゃないわよ。清廉潔白ってこと。うちは、汚れ仕事もするから私は王妃ってタマじゃないわよ」

 汚れ仕事? 何をするんだ?

ここにいるのはまだ子供の3人なのに会話の内容は大人としか思えない。

「私、やばい魔法が使えるのよ」
エルネスティーネがぼそっと言い放った。
やばい魔法? なんだそれ? 

「普通の魔法とはちょっと違うんだけど、魔法で精神を拘束できるの。だから諜報活動の時に相手を自分に夢中にさせて情報を聞き出すの。人の心を思い通りにできるのよ。怖いでしょう。もちろん普段はコントロールしてるわ。私が生まれた時に奇特な魔法が使えるとわかって家族は大喜びだったみたい。暗部の娘にピッタリでしょう」
「あの家の者は色んな技を持って生まれてくる、こいつの兄貴も半端じゃないし、やっぱり直系はすごいよ」

 私は思わずエルネスティーネを抱きしめた。

「ティーネ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」

「な、なによ。私は平気よ。今の生活気に入って……あれ、どうしたんだろ……」

 エルネスティーネは涙が溢れ出てきて止まらないようだ。

「私やハウといる時は普通の女の子のティーネでいいよ。私も普通のエデルでいるから」

「そうだな。ティーネも可愛い女の子なんだな。気がつかなくてすまなかった」

 ハウルはエルネスティーネに頭を下げた。

「もうやめてよ。調子狂っちゃうわ。エデルにはかなわないなぁ」

 涙を手でゴシゴシ拭きながらふふふと笑う。

「私とティーネは友達よ。護衛なんてしないでいい。ヴェルや王太后殿下が影を100人つけるって言ってたし、ティーネは私と一緒に楽しい学園生活を過ごしましょう」

「ありがとう」

「でも、私やハウはティーネの魔法に魅了されないのかしら? もしくはもう魅了されてる? 私ティーネが大好きだし……」

 私の疑問をつぶやいていると、エルネスティーネはくすりと笑った。

「ハウやラインハルト殿下は王族だから効かないの。この国の王族は産まれた時に精神拘束魔法無効化の魔法を植え付けられるのよ。エデルは悪意のある魔法を無効化する加護があるわね。最初はライムント殿下がかけたのかと思っていたけど、生まれつきかもしれないわ。神のギフトかもね」

 出た! 神のギフト。

 でもうちの弟達にもその精神拘束魔法無効化の魔法を植え付けなきゃダメだな。

 エルネスティーネとは本当に親友になれそうだ。それに今日のことでエルネスティーネとハウルの距離が縮まったような感じがする。

 国に安全の為の結婚でも、二人が思い合って結婚した方が良いに決まっている。

 私はこのふたりが愛し愛されて結婚できるようにフォローしていこうとこの時、密かに違った。


***
明日からは夜に1話更新予定です。

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