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初夜

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 私の部屋は3間続きの端っこ。真ん中が夫婦の寝室になっていて、両端の部屋から出入りできるように扉が付いているので寝室は扉が3つある。
 3つ目の扉は使用人が使うので廊下に面している。

 貴族の夫婦には当たり前の部屋の作りだ。
 ブリーデン家の義両親は私が嫁いでくるので、この階を私たち用にリフォームしてくれたらしい。
 私が姉が住むはずだった部屋に住むのは嫌だろうと気を遣ってくれたのだろう。ちなみに領地にも同じような部屋があるらしい。

 姉が消えてから、両家で姉達の話が出ることは全くなくなった。元からいなかったようにしているのでそれはそれで変な感じなのだが、口に出してはいけない雰囲気なので、私も言わないようにしている。

 部屋に戻るとドロシーが待っていた。

「お疲れ様です。とりあえず湯浴みにいたしましょうか?」

「もちろん! お願いするわ」

 ドロシーは手際よくドレスを脱がしてくれる。コルセットも外す。

 あ~生き返る。慣れていてもコルセットはやっぱり苦しい。

 素っ裸は恥ずかしいといえば恥ずかしいが、もう赤ちゃんの頃から湯浴みは手伝ってもらっているので、感覚が麻痺しているのかもしれない。

 浴槽には薔薇の花びらが浮いていた。お湯には薔薇のエキス入りの入浴剤が入れてあった。

 私は薔薇の香りが好きなので癒される。

「お嬢さま、夜会はいかかでした? やはりキツネやタヌキだらけでしたか?」

 ドロシーは肩をマッサージしながらそんな話をしだす。

「そうでもなかったわ。みんな好意的だったの。前のこともあるから何か言われるかと思っていたけど全くなかったわ。ただね、ランスロット様が社交的なので驚いちゃった。あの人やっぱり私にだけああなのよ。余程嫌いなのかしらね」

 夜会ではランスロット様の関係者の人たちと話すランスロット様が新鮮だった。それほど取り立ててイケメンというわけではないが、ほどほどに長身、ほどほどにスタイルもいい、他人から見ると好青年なのだろう。
 私の友人達もみんな声を揃えて『良い人じゃないの~』と言う。みんな年が離れているので姉とランスロット様のことは知らないのか、知っていて言わないのかわからない。

 私は友人達から今まで愚痴っていたのがただののろけだったと認識されてしまった。

 湯浴み、マッサージが終わり、ドロシーは夜着を持ってきた。
 どうせ白い結婚なんだから夜着なんてなんでもいいのに。

「お嬢様、夜着は大事です。たとえ白い結婚のつもりでも、夜着でKOしましょう。お嬢様の美しさに白い結婚を忘れさせましょう。跡継ぎを産むためにも頑張って下さいまし」

 跡継ぎか~。

 貴族の夫人なんだから仕方ない。

 色っぽい夜着で誘惑するか。

 それにしてもドロシーが持ってきた夜着は凄い。

 こんな夜着よく見つけたなと思うくらいの露出度だ。

 胸元のリボンを解けばすぐ裸になる。

「初夜用の夜着はみんなこんな感じですよ。諦めて下さい」

 ドロシーはヒヒヒと笑う。

「わかったわ。とりあえず着るわよ。どうせ部屋に入ってきてもすぐに出て行くか、部屋にすら来ないかもしれないしね」

 私は魅惑的らしい夜着を纏いため息をついた。

 ドロシーが下がり、私は寝室で本を読んでいたが眠くなってきた。

 もう来ないんじゃないかしら? 自室にもベッドはあるし、戻って寝ようかなと思い、立ち上がった。

コンコン

 ランスロット様側の部屋から扉を叩く音が聞こえた。

「はい」

 返事をすると扉が開いた。

 そこには湯浴みを終えたばかりのランスロット様がいた。

 なんで湯浴みを終えたばかりってわかるかって?

 それはね。いつも撫でつけている髪が下りているのと、上気しているっぽく赤い顔をしていたから。

「いいか?」

 何がいいかなんだ? 入ってもいいかってことか?

「はい」

 私もつられて言葉少なになる。

 私の言葉に扉を開いてランスロット様が入ってきた。

 いよいよ『君を愛することはない』が始まるのか?

 ちょっとワクワクしてきた。

 ランスロット様はソファに座っている私の前に立ち、私の手をとる。

 私を立ち上たせ、ベッドの方に促した。そしていきなり抱き上げてベッドに寝かせる。

 何? 何をするわけ?

「ベアトリーチェ……」

「はい?」

 ランスロット様が覆いかぶさってきた。

 ちょっと待った~! やるのか? 初夜やるのか?

 私、組み敷かれてるよ。

 いきなり唇にキスをしてきた。

 はぁ~! この人は今日は想定外すぎる。

 おっと、誓いのキスより濃い。死ぬよ。私絶対死ぬ。苦しい~。

 そう思ってジタバタしていたら唇が離れた。

 助かった。

「鼻」

 鼻?

「呼吸」

 お~、鼻で呼吸しろってか?

 なるほど。

 私が鼻で何度か呼吸している姿を見ていたランスロット様は私の頬を両手で挟み、また、がっつりキスをしてきた。

 いやいや、いくら鼻で呼吸ができても、そんなにがっつりくらいつかれたら苦しい。口を塞がれているので声も出せない。

 手足をジタバタ動かしていると、頬にあった手を離し、私の手首を頭の上でつかむ。

 手は動かせない。

 足は足で押さえられた。

 これは逃げられないな。

 白い結婚じゃなかったのか。やっぱり跡継ぎが必要なんだな。

「ランスロット様……」

「ランス」

 ランスと呼べってことか?

 私は貴族の夫人だ。訳のわからん夫でも跡継ぎは作らにゃならん。

 ええい、ままよ。


 私はランスロット様に身を任せた。

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