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消えた姉の婚約者と結婚する事になりました

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 結婚式が間近に迫ってきた。アカデミーを卒業したら結婚するという約束だ。
 まぁ、私が約束をした訳ではなく、両家の親が決めたことなのだが、本当にあの人と結婚しても大丈夫なのだろかと私は不安に思っている。

 私は夫になる人とは愛し愛されたいと思っている。政略結婚で結婚前に全く恋愛感情がなかったとしても、結婚して、一緒に暮らすようになってから徐々に惹かれ、そのうちだんだんそうなる事もあり得ると思う。
 でもなぁ。でもねぇ。私達の場合はどうなのだろう。

 私の婚約者のランスロット様はブリーデン公爵の令息。姉と妹に挟まれた真ん中の嫡男だ。ブリーデン公爵家は代々、国王の側近を勤め、そして近衛騎士団長をもしている。ランスロット様も王太子殿下の側近で今は近衛騎士団に所属している。将来は団長になるのかどうかはわからないけど、まぁそれなりに出世はするのだろうと思う。今は近衛騎士としての仕事もあるし王太子殿下の側近としての仕事もあるのでとても忙しいらしい。家にあまり帰ってこないとお義母様がいつもおっしゃっている。

 結婚したら帰ってくるようになるのだろうか?

 元々ランスロット様は私の姉のマデレイネの婚約者だった。ふたりが婚約したのは私が5歳の時だった。領地が隣同士で両親が仲が良かったかららしい。姉とランスロット様は同じ年だが、私とは年が5歳離れているので私はランスロット様と一緒に遊んだ記憶はない。どちらかといえば私はオリヴィアお義姉様に可愛がってもらっていた。

 ふたりがアカデミーを卒業し結婚まで半年となった時に姉のマデレイネがランスロット様の妹のアンジェラお義姉様と一緒に突然消えた。
 ふたりは愛し合っている、ランスロット様とは結婚できないと置き手紙を残していたらしい。

 両家は話し合いをし、姉の代わりにまだ婚約者がいなかった13歳の私がスライドして、ランスロット様の婚約者になることになった。

 婚約者時代(今もまだ婚約者だけど)は月に1度お茶会をして交流した。嘘です。交流なんて言うほど話はしていない。
 デビュタントはエスコートしてくれたが、その後に開催された夜会は王族の護衛につく任務があり、全くエスコートしてくれることはなかった。その時もランスロット様色のドレスやアクセサリーもプレゼントをしてくれたのだが、私はいつもひとり。壁の花だった。
 刺繍が得意な私はハンカチや剣帯に刺繍をしたものを渡したり、それなりにプレゼントのお返しはしているのだがお礼として小さなブーケなど贈ってくれるだけで特に反応はなかった。

 私はランスロット様のことが嫌いではない、だが好きかと聞かれると難しい。
 なんせ、ランスロット様は無口なのだ。異常に言葉数が少ない。そして表情がない。私は超能力者ではないので、口に出して言葉で伝えてもらわないとわからない。せめて感情が顔に出ればまだマシなのだが全く無表情なのだ。

 婚約して5年、会話らしい会話になったことはいないような気がする。年が離れていて話題が合わないのかもしれない。でも、話しかけているのは私ばっかりなのだ。
 ランスロット様と一緒に過ごした日の次の日は喉が痛くなり、発熱し、酷い頭痛がくる。心身ともに疲れていて、疲労が湧き出てくる。

 ランスロット様は姉のことがまだ好きなのだろうか? 姉とは普通に話していたのだろうか?

 きっと、あんな風に姉に去られてショックをうけているのだろう。だから私を受け入れられないのかもしれない。

 政略結婚なのだから愛を求めてはいけないのだろう。いや、愛し愛されていけないことはないはず。

 姉のトラウマがあるのかもしれないけれど、
私は足掻いてみようと思う。
 まずは、なんとかランスロット様と話をしてみたい。ちゃんと会話をしてみたい。そこからだ。
 そう決意はしてるんだけどね。帰ってこない日があるくらい仕事も忙しいみたいだし。結婚してから、ちゃんと会話ができるようなるのかな?
『ランスロット様と楽しくお話ができますように』
 ただただ毎日神に祈った。


 結婚式の朝は早い時間に起こされた。寝ぼけまなこのまま侍女達に取り囲まれ、湯浴みをさせられる。浴槽にはられたお湯には花のエキスが入れられ、色とりどりの花びらが浮かんでいる。
 今日は一世一代の晴れ舞台。侍女たちは私をビカビカに磨き上げて世界一の美女にしようと気合い十分だ。

「お嬢さま、本日はおめでとうございます。ランスロット様にたくさん褒めていただきましょう!」

 侍女のドロシーが言う。ドロシーは私についてブリーデン家に一緒に来てくれることになっている。なんでもできるしっかり者の頼れる侍女だ。

 ランスロット様が単語しか話さないのはもちろんドロシーも知っている。
 花嫁姿の私を見て、ランスロット様はどんな反応をするのだろう。単語だとしてもほめてもらいたい。

 ウエディングドレスはもちろんはランスロット様から贈られたものだ。
 私に何も聞かないのに私の好みを知っていたかのような、私が常々こんなドレスを結婚式に着たいと思っていたものと寸分違わない。いや、その上をいく素敵過ぎるドレスだった。
 私はそのドレスとベールに刺繍をした。刺繍が得意な私は自分のウエディングドレスに刺繍をするのが夢だった。
 婚約した頃からブリーデン公爵家のお義父様、お義母様にそう言っていたので、少し早い目にドレスをもらい、そこから毎日刺繍を刺してきた。刺繍なしでも素敵なドレスとベールだったけど、刺繍が入るともっと素敵になった。

 朝から磨き上げられ、メイクも髪もバッチリ決まった私は自分で言うのもなんだがかなりイケてると思う。女神のようだと言っても過言ではない(ごめんなさい女神様、調子に乗ってます)
 鏡を見て頷き、軽く頬を2度叩き気合いをいれた。

 よっしゃあ~! 結婚式に行ってやろうじゃないの。
 待ってろよ、ランスロット! 褒めさせてやるからな!


 控え室から出て大聖堂に向かう。大聖堂の扉の前には儀式用の近衛騎士の式服を着たランスロット様が待っていた。近衛騎士団の式服を着てカッコよく見えない人はいないだろう。
 元々背が高く、肩幅も広いランスロット様は式服がよく似合っている。一般的にイケメンと言われる枠に入る顔だし、性格も悪いわけじゃない。ただ喋らないだけなのだ。無口もあそこまで極めると立派だ。

「ランスロット様、お待たせいたしました。よろしくお願いします」

 ランスロット様はじっと私を見ている。頭からつま先までしっかり見て表情も変えずに「うん」と言い頷いた。

 エスコートしてくれるようで手を差し出した。私はその手に私の手を乗せる。赤い絨毯が敷かれたバージンロードを並んで歩きながら、『それだけかい!』と心の中で思いっきりツッコミをいれた私だった。
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