16 / 28
いよいよか
しおりを挟む
ナムーリ国の第3王女は22歳でかなりの美人らしい。
我が国とは違って結婚する年齢が遅いそうで、決して売れ残っているわけではないそうだ。
我が国はみんな18くらいまでには結婚するので22歳まで独身はいない。
しかも魔の10年があるので、女の子が産まれ出した、私より2歳上の令嬢はほとんどみんな婚約したり結婚したりしている。
私は幻の令嬢と言われるくらい表に出なかったので奇跡的に残っている。
結婚相手が不足している貴族の令息たちは取り合い状態で年齢差カップルもやたら多い。
「ナムーリ国の第3王女と殿下が結婚してもいいのか?」
フィル兄様が私に聞く。
「王家同士だし、よろしいのではないですか。年齢も近いし、私より似合っていると思いますわ」
本当にそう思う。
私はまだまだ、ぐうたらしたい。
そりゃいつかは家の決めた相手と政略結婚しなきゃならないだろうけど、まだ15歳になったばかり、せめてあと5年はぐうたらさせてほしい。
20歳になったら諦めて誰かと結婚して、女主人の仕事をちゃんとするつもりでいる。
「ヴィヴィ! いるか!」
父の声だ。大声を出してどうしたのだろう?
「お父様、どうされたのですか? 私なら ここにおりますわ」
私は部屋から顔を出した。
「ヴィヴィ、大変だ。王命が……王命が出た」
「王命? 何の王命ですの?」
王命なんてしょっちゅう出ている。そんなに慌てふためく王命?
まさか……。
隣に座っていたフィル兄様が父の方に向き直った。
「兄上、まさかヴィヴィの婚約ですか?」
「そうだ。殿下はヴィヴィの気持ちが変わるまでいつまでも待つと言っていたが、ナムーリ国の第3王女の件があったからだろう。陛下がさっき王命を出した」
「ナムーリ国の王女よりヴィヴィの方がいいのか?」
いやいや、王女に勝ちたくはない。
私より王女の方がいいに決まっている。
「お父様、王命であれば断る事は無理ですよね?」
私は返事はわかっているが、一応聞いてみた。
「ああ、無理だな。ヴィヴィには腹を括ってもらうしかない」
「せめて、あと5年待ってもらう事はできないでしょうか……できないですね」
無理だな。
フィル兄様はふっと鼻で笑う。
「そりゃ無理だ。殿下は25だぞ。5年待ったら30になる」
父も被せ気味に言う。
「5年どころか、婚約期間も3ヶ月だと言われた。殿下の年を考えると1日でも早い方がいいらしい」
え~! 普通だと準備に半年から1年かかる。それを3ヶ月でやるつもりか。
「しかし、私は王妃教育もしておりませんし、3ヶ月で王家に嫁ぐなんて無理です」
本当に無理だ。王妃教育は大変でみんな幼い頃から取り組む。
前世で読んだ小説や漫画の王太子の婚約者はみんなそうだった。
何も知らない私をいきなり王太子妃にするのは無謀だと思う。
父はバツの悪そうな顔をした。
「それなんだがなぁ。実は殿下から結婚の打診があった7年前から、うちに王家より先生を派遣してもらい王妃教育をしていたのだ。7年間みっちりしているし、先生方からも王太子妃になってもなんの問題もないと太鼓判をもらっている」
嘘! あれはただの公爵令嬢としての勉強じゃなかったの?
騙された。
私はなんだか力が抜けてしまった。
「わかりました。どれだけ私が抗ったところで、陛下やお父様たちはあの頃から私を王太子妃にすると決めておられたのですね。知らないのは私だけですか?」
父は額に汗が滲んでいる。あせっているのだろうか。
「いや、私とクラウディア、陛下と王妃様、あとは王妃教育をしていた先生方しか知らない。殿下もフィルも知らないはずだ」
本当か? 殿下もフィル兄様も知っているんじゃないのか?
私は半目でフィル兄様を見た。
「確かに私も殿下も知らない。今初めて聞いた」
「本当ですの?」
「本当だ」
まぁ、今となってはどうでもいい。
父はクロエが淹れてくれた紅茶をひと口飲んで私の方を見た。
「実はな、陛下が殿下にナムーリ国の王女と結婚話をしたら、予想どおり断ったそうだ。しかも、弟殿下を王太子にし、王女と結婚させて、跡継ぎにしてはどうか、自分は分家してもらいヴィヴィと結婚して、領地でのんびり暮らすとか言い出したらしいのだ。殿下はヴィヴィ以外とは結婚しない。ヴィヴィと結婚できなければ一生ひとりでいると言いきったそうだ」
勝手にそんなこと言われてもなぁ。
父はまだ話を続ける。
「ヴィヴィは王太子妃、王妃になるのが嫌で、殿下の事は別に嫌いじゃないと言ったそうじゃないか」
「確かに言いました」
「だから殿下は廃嫡を申し出たそうだ」
廃嫡? 私のために王太子を辞めるのか。それはダメだろう。
生まれた時から帝王学を学んでいるし、すでに王太子として公務も担っている殿下がそんな事を言っても無理だ。
「だがわそれは無理だ。まだ公になっていないが、弟殿下はタギザット公爵の令嬢に婿入りする方向で婚約の手筈をととのえている」
父の言葉にフィル兄様はふふっと笑いながら私を見た。
「ヴィヴィ、もう諦めろ。筆頭公爵令嬢のお前は、殿下の妃になるために生まれてきたと言っても過言ではないんだぞ。ただ年が離れていたので候補に上がらなかっただけなんだ」
はい、諦めます。
これも何かの因果だろう。
王太子妃になってやろうじゃないの!
私はいよいよ腹を括らねばならなくなった。
我が国とは違って結婚する年齢が遅いそうで、決して売れ残っているわけではないそうだ。
我が国はみんな18くらいまでには結婚するので22歳まで独身はいない。
しかも魔の10年があるので、女の子が産まれ出した、私より2歳上の令嬢はほとんどみんな婚約したり結婚したりしている。
私は幻の令嬢と言われるくらい表に出なかったので奇跡的に残っている。
結婚相手が不足している貴族の令息たちは取り合い状態で年齢差カップルもやたら多い。
「ナムーリ国の第3王女と殿下が結婚してもいいのか?」
フィル兄様が私に聞く。
「王家同士だし、よろしいのではないですか。年齢も近いし、私より似合っていると思いますわ」
本当にそう思う。
私はまだまだ、ぐうたらしたい。
そりゃいつかは家の決めた相手と政略結婚しなきゃならないだろうけど、まだ15歳になったばかり、せめてあと5年はぐうたらさせてほしい。
20歳になったら諦めて誰かと結婚して、女主人の仕事をちゃんとするつもりでいる。
「ヴィヴィ! いるか!」
父の声だ。大声を出してどうしたのだろう?
「お父様、どうされたのですか? 私なら ここにおりますわ」
私は部屋から顔を出した。
「ヴィヴィ、大変だ。王命が……王命が出た」
「王命? 何の王命ですの?」
王命なんてしょっちゅう出ている。そんなに慌てふためく王命?
まさか……。
隣に座っていたフィル兄様が父の方に向き直った。
「兄上、まさかヴィヴィの婚約ですか?」
「そうだ。殿下はヴィヴィの気持ちが変わるまでいつまでも待つと言っていたが、ナムーリ国の第3王女の件があったからだろう。陛下がさっき王命を出した」
「ナムーリ国の王女よりヴィヴィの方がいいのか?」
いやいや、王女に勝ちたくはない。
私より王女の方がいいに決まっている。
「お父様、王命であれば断る事は無理ですよね?」
私は返事はわかっているが、一応聞いてみた。
「ああ、無理だな。ヴィヴィには腹を括ってもらうしかない」
「せめて、あと5年待ってもらう事はできないでしょうか……できないですね」
無理だな。
フィル兄様はふっと鼻で笑う。
「そりゃ無理だ。殿下は25だぞ。5年待ったら30になる」
父も被せ気味に言う。
「5年どころか、婚約期間も3ヶ月だと言われた。殿下の年を考えると1日でも早い方がいいらしい」
え~! 普通だと準備に半年から1年かかる。それを3ヶ月でやるつもりか。
「しかし、私は王妃教育もしておりませんし、3ヶ月で王家に嫁ぐなんて無理です」
本当に無理だ。王妃教育は大変でみんな幼い頃から取り組む。
前世で読んだ小説や漫画の王太子の婚約者はみんなそうだった。
何も知らない私をいきなり王太子妃にするのは無謀だと思う。
父はバツの悪そうな顔をした。
「それなんだがなぁ。実は殿下から結婚の打診があった7年前から、うちに王家より先生を派遣してもらい王妃教育をしていたのだ。7年間みっちりしているし、先生方からも王太子妃になってもなんの問題もないと太鼓判をもらっている」
嘘! あれはただの公爵令嬢としての勉強じゃなかったの?
騙された。
私はなんだか力が抜けてしまった。
「わかりました。どれだけ私が抗ったところで、陛下やお父様たちはあの頃から私を王太子妃にすると決めておられたのですね。知らないのは私だけですか?」
父は額に汗が滲んでいる。あせっているのだろうか。
「いや、私とクラウディア、陛下と王妃様、あとは王妃教育をしていた先生方しか知らない。殿下もフィルも知らないはずだ」
本当か? 殿下もフィル兄様も知っているんじゃないのか?
私は半目でフィル兄様を見た。
「確かに私も殿下も知らない。今初めて聞いた」
「本当ですの?」
「本当だ」
まぁ、今となってはどうでもいい。
父はクロエが淹れてくれた紅茶をひと口飲んで私の方を見た。
「実はな、陛下が殿下にナムーリ国の王女と結婚話をしたら、予想どおり断ったそうだ。しかも、弟殿下を王太子にし、王女と結婚させて、跡継ぎにしてはどうか、自分は分家してもらいヴィヴィと結婚して、領地でのんびり暮らすとか言い出したらしいのだ。殿下はヴィヴィ以外とは結婚しない。ヴィヴィと結婚できなければ一生ひとりでいると言いきったそうだ」
勝手にそんなこと言われてもなぁ。
父はまだ話を続ける。
「ヴィヴィは王太子妃、王妃になるのが嫌で、殿下の事は別に嫌いじゃないと言ったそうじゃないか」
「確かに言いました」
「だから殿下は廃嫡を申し出たそうだ」
廃嫡? 私のために王太子を辞めるのか。それはダメだろう。
生まれた時から帝王学を学んでいるし、すでに王太子として公務も担っている殿下がそんな事を言っても無理だ。
「だがわそれは無理だ。まだ公になっていないが、弟殿下はタギザット公爵の令嬢に婿入りする方向で婚約の手筈をととのえている」
父の言葉にフィル兄様はふふっと笑いながら私を見た。
「ヴィヴィ、もう諦めろ。筆頭公爵令嬢のお前は、殿下の妃になるために生まれてきたと言っても過言ではないんだぞ。ただ年が離れていたので候補に上がらなかっただけなんだ」
はい、諦めます。
これも何かの因果だろう。
王太子妃になってやろうじゃないの!
私はいよいよ腹を括らねばならなくなった。
26
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説
父逮捕のため、王子との婚約破棄を望みます!
メル
恋愛
公爵の地位を剥奪され、逮捕された父の負い目を感じているアリア・ベルトンは汚れた公爵の地位ではなく庶民として生きようと考えていた。
偽名も作り、まわりから見ればアリアは完璧な庶民だった。
だが、庶民になりきるためには数々の難関が待っている。
その中でも一番の難関が...?
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~
Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。
婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。
そんな日々でも唯一の希望があった。
「必ず迎えに行く!」
大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。
私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。
そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて…
※設定はゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
婚約破棄ですって? 1回くらい復讐してもいいですよね?
tartan321
恋愛
王子様はいつでも自由奔放。
婚約も、そして、婚約破棄も。
1回くらい復讐したって、罰は当たりませんよね?
その後は、別の世界の住人に愛されて??
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる