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アルプラゾラム王国編

不思議な日々がはじまってしまいました。

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 私達は帰りの馬車の中にいた。

 ミッシェル殿下は鼻歌を歌っている。余程楽しかったのだろう。

「ミオちゃん、フェノバール公爵夫人面白かっただろう?」

 ミオちゃん? 私のことよね? 突然ミオちゃんと呼ばれびっくりした。まぁミオちゃんでもいいけど。

「はい。あんな感じの方に初めてお会いしました」

「私もミディア様の言う通りだと思うよ。アルプラゾラム王国で予定通りな学び、魔法の力をしっかりつけて、来年からノルスバン国に留学するべきだと思う」

 ノルスバン国には興味がある。でも、アルプラゾラム王国にこれ以上いるのは心が辛い。

「ミディア様の言ってた、あれいいと思うよ」

「あれ?」

「うん。ミランダを利用してみんなに可愛がってもらうってやつ。ミオちゃん、ズルくなろうよ。そしてみんなを自己満足させてやろう。残りの日々をみんなに尽くして貰えばいい。そして時々感謝の気持ちを言葉や贈り物で伝えたらいい。みんなはそれで満足して思いを昇華できる。ミオちゃんは快適なアルプラゾラムライフを送れるよ」

 そんな簡単に言われても。

「これも人助けさ。ミオちゃんの得意の回復魔法みたいなもんだよ。みんななの心に回復魔法をかけてやってよ。みんな無念だったんだよ」

 私は上手く答えられなくて黙り込んでいた。

「ミランダ、まだいるんだろ? アルプラゾラムにいる間は消えないでミオちゃんのフォローしてよ。まだ昇華なんかしちゃダメだよ。みんなを満足させてから昇華しなよ」

 私の目を見ながらミランダに話しかけている。この人何者なんだろう?

 そう思っていたら、私の心が急にほわっと温かくなったような気がした。

「もう、せっかく天に上がってのんびりしようと思っていたのに。お母様は人使いが荒いんだから。仕方ないわね」

 お母様? 再び現れたミランダの言葉に軽く固まる。

「ミランダ戻ってきてくれたの。よかったわ。でもお母様って?」

 私はなぜだかよくわからないがものすごく安堵した。

「ミオリア、ごめんね。ミッシェルは私のお母様、ノルバスク公爵夫人の生まれ変わりなのよ。ノルバスク家はみんな執念深いけど、お母様は他家の出身だからまだマシなの。でも、結局こうやって私のいちばん近くをキープしてるわね」

 ミランダはクスクス笑う。

「心配だからね」

「お父様は記憶は戻らないの?」

 お父様もいるのか?

「あの人は戻さないよ。あの人の記憶が戻ったらミオちゃんは監禁されちゃいそうだろう」

 確かにお父様はミランダを目の中に入れても痛くないほど溺愛していた。それにしてもミッシェル殿下がお母様とは。

 ミランダの声が頭の中で響く。

「みんなと接する時は私が前に出るわ。もうミオリアは悩まないで。ノルバスク家関係の転生者は私が引き受けるから、ミオリアは100年前とは関係ない人達と交流していって。アルプラゾラムにいるうちはやりたい人達の自己満足に付き合ってあげて。お願い」

 ミランダにそう言われたら仕方ない。奇妙な感じにはなるがミランダの提案を受け入れようかと思う。

「ミッシェル殿下は本当にお母様なのですか?」

「あぁそうだよ。だから男色なんだ。女性を異性とし見られないからね。それに私は、王族の魔法特有のギフト持ちなんだ。今世では国王の次男だから特殊鑑定魔法が使える。チャンネルを合わせば全てが見えるし聞こえる。普段は合わさないようにしてるんだけどね」

 全てが見えるし、聞こえる⁉︎ 真実の目と真実の耳を持っているわけ? ミッシェル殿下凄すぎる。

「つまりその人の前世やらなんやらが見えちゃうのですか?」

「そういうこと。だからミオちゃんがものすごく良い子で周りの人のことで苦しんでいるのもわかったんだ」

 この人に隠し事は通用しないのね。

「私はどう呼べば?」

「今までどおりミッシェルと呼んでくれればいいよ。私が夫人の生まれ変わりなのは誰にも言ってないから誰も知らないんだ」

 私の頭は再び混乱していた。

「ミオリアは今まで通りにしていて。とにかく魔法の勉強を頑張ってね。ノルバスク公爵家関係の人以外はみんな100年前とは関係ないから」

 ミランダはそう言って微笑んだ。

 結局、ミランダは私がアルプラゾラム王国にいる間はここにとどまり対処してくれることになった。みんな満足したら昇華していくらしい。

 それにしてもレミニール王国でのことが一件落着したら、今度はアルプラゾラム王国か。多分これで終わりよね。ノルスバン国へ行って、レミニール王国に戻る時には全て終わってクリアになっているわよね。

 そう願いたい。

 とりあえず今年はこの不思議な状態を楽しむしかない。

「ミランダ、よろしくね」

「ええ、任せて。こちらこそよろしくねミオリア」

 不思議な日々がはじまってしまった。

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