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隣国ヘーラクレール編
91 新国王
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「力は示された。そしてヘーラクレールの悲願は一つ果たされる。これで、かの英雄も一つ神の座に近づく。よくやった英雄の血を引き子孫たちよ。頭はまだ八つある。私がこの地にいるうちに片付けたいものだ」
「はっ! このクロード・レイ、神獣様の命に従い、全身全霊を賭けやり遂げる所存でございます」
「私、ルシアナ・ファンミルも神獣様のお心に叶うよう、クロードを助け残りの憂いも取り払えるよう尽力致します」
二人はシロ様の前に跪き、祝福を浴びている。とても正しく、美しい新しい英雄の姿だ。どことからもなく拍手が湧き上がる。私とアーサーもパチパチと手を叩いていた。
「うむ。では今この時より、クロードがこのヘーラクレール国の王である。これは誰の目にも明らかなことである、クロードよ、今一層の努力をし、国を守るのだぞ」
「神命承りました」
わああっと歓声と拍手が大きくなり、私達は新国王の誕生の瞬間にも立ち会ってしまったようだ。沸き立つ中、やはり声を上げる者がいた。
「お、お待ち……お待ちくださいっ神獣様!レ、レイの息子が国王!? いいえ、ヘーラクレールの国王は私です、私なのですぞ!私以外のものが国王になどなってはならんのです!」
広場の石畳の上を這いながらシロ様の方へ寄ってくる国王……ううん、もう元国王。当然その行く手には騎士団が立ちふさがり、不埒者をシロ様には近づけない。
「何を言う、貴方は国王としての責任も力も果たせなかったではないですか。ですからヘーラクレールの国王にはなれませんよ」
シロ様の代わりに神官長様が元国王を冷たく見下ろす。シロ様は神獣様なんだから、シロ様と言葉を交わせるのは選ばれて人だけ。鳥の時は良くいろんな人にお話をしていたけれど、今はそのことは横に置いておきたい。
「しかし、私は長年国王として……」
「国王として何をしていましたか? 私はあの椅子に座っていただけだと思っておりますがねえ」
それに答えたのはレイ公爵だった。当然公爵の目も冷めに冷めている。
「こ、国王、として……」
「外交は何一つできない、しない。文を書くこともなく、剣を持つこともなく、書を読むこともなく。ただ、三度飯をくらい、酒を飲み……本当に何をしていたか知りたいくらいだ」
「あ、あの……あの、こ、この人が王でなくなったらわ、私は、私はどうなるのですか!? 王太子の母として王宮に残れますよね!?」
元王妃の言い分も何かと酷い。国のことより自分のことが先に出るなんて本当に王妃だったのだろうか?
「王太子の母? 王太子は今はおりませんよ」
「わ、私がいるではないか! 私は、私は王太子だぞ!」
ディエゴ元王太子が叫ぶ、彼も這って出て来た。もちろん騎士団に止められてシロ様や皆に近づけないけれど、恐怖で腰が抜けているのかもしれない。
「ディエゴ元王太子。あなたも王家の人間である資格がないではないですか。力を示せなかったんですからね」
いっそ少し優しさすら感じられる神官長様の声。でもそれは憐みより、優しさより……侮蔑の性質の方が大きかった。
「クロード陛下はまだお子がいらっしゃいませんからね。王太子はまだいない、当然です」
「そ、そんな……私は……私は、王太子だぞ!」
へたりと座り込むディエゴ元王太子に慰めの言葉をかける人はもちろん誰もいない。彼はそういう人生を歩んできたんだから仕方がない、自業自得という言葉がぴったりくる。
「はっ! このクロード・レイ、神獣様の命に従い、全身全霊を賭けやり遂げる所存でございます」
「私、ルシアナ・ファンミルも神獣様のお心に叶うよう、クロードを助け残りの憂いも取り払えるよう尽力致します」
二人はシロ様の前に跪き、祝福を浴びている。とても正しく、美しい新しい英雄の姿だ。どことからもなく拍手が湧き上がる。私とアーサーもパチパチと手を叩いていた。
「うむ。では今この時より、クロードがこのヘーラクレール国の王である。これは誰の目にも明らかなことである、クロードよ、今一層の努力をし、国を守るのだぞ」
「神命承りました」
わああっと歓声と拍手が大きくなり、私達は新国王の誕生の瞬間にも立ち会ってしまったようだ。沸き立つ中、やはり声を上げる者がいた。
「お、お待ち……お待ちくださいっ神獣様!レ、レイの息子が国王!? いいえ、ヘーラクレールの国王は私です、私なのですぞ!私以外のものが国王になどなってはならんのです!」
広場の石畳の上を這いながらシロ様の方へ寄ってくる国王……ううん、もう元国王。当然その行く手には騎士団が立ちふさがり、不埒者をシロ様には近づけない。
「何を言う、貴方は国王としての責任も力も果たせなかったではないですか。ですからヘーラクレールの国王にはなれませんよ」
シロ様の代わりに神官長様が元国王を冷たく見下ろす。シロ様は神獣様なんだから、シロ様と言葉を交わせるのは選ばれて人だけ。鳥の時は良くいろんな人にお話をしていたけれど、今はそのことは横に置いておきたい。
「しかし、私は長年国王として……」
「国王として何をしていましたか? 私はあの椅子に座っていただけだと思っておりますがねえ」
それに答えたのはレイ公爵だった。当然公爵の目も冷めに冷めている。
「こ、国王、として……」
「外交は何一つできない、しない。文を書くこともなく、剣を持つこともなく、書を読むこともなく。ただ、三度飯をくらい、酒を飲み……本当に何をしていたか知りたいくらいだ」
「あ、あの……あの、こ、この人が王でなくなったらわ、私は、私はどうなるのですか!? 王太子の母として王宮に残れますよね!?」
元王妃の言い分も何かと酷い。国のことより自分のことが先に出るなんて本当に王妃だったのだろうか?
「王太子の母? 王太子は今はおりませんよ」
「わ、私がいるではないか! 私は、私は王太子だぞ!」
ディエゴ元王太子が叫ぶ、彼も這って出て来た。もちろん騎士団に止められてシロ様や皆に近づけないけれど、恐怖で腰が抜けているのかもしれない。
「ディエゴ元王太子。あなたも王家の人間である資格がないではないですか。力を示せなかったんですからね」
いっそ少し優しさすら感じられる神官長様の声。でもそれは憐みより、優しさより……侮蔑の性質の方が大きかった。
「クロード陛下はまだお子がいらっしゃいませんからね。王太子はまだいない、当然です」
「そ、そんな……私は……私は、王太子だぞ!」
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