上 下
81 / 118
隣国ヘーラクレール編

64 本物の騎士団長

しおりを挟む
「もう少しですわ!マーガレッタ様」
「はい!」

 ルシアナ様は完全にこの隠し通路を把握していて、迷う事なく目的の場所まで着いたようだ。

「ここの扉を開ければお城の封印塚の横に出ます。取っ手が……あった! 開けます」

 私も無言で頷き、ルシアナ様が簡素な扉に手をかける。

「硬いっ……うっ」
「お手伝いします」
「ええ! でもこの前の点検の時はこんな事なかったのに……」

 扉は外から何か重しをかけられているかのように開かない……一体どうしたんだろう。

「っ、ルシアナ様、到着なされたか!」
「えっハウエル騎士団長様!」
「お声を小さく!」

 なんと外から男性の声がした。私とルシアナ様は思わず手で口を押さえる。

「申し訳ない、ルシアナ様。騎士団の新人が余計なことを馬鹿共に伝えてしまった」
「……新人がやる気に満ちていたことを喜ぶべき所なのでしょうが……」

 扉の内と外で大きなため息が重なった。

「すみません、もっと遅れてこの場に到着すべきだったのですが、あのボンボンめ」
「仕方がありませんわ。では私達はもう少し先の出口を目指します。レッセルバーグのアーサー殿下とクロードもこちらに来るはずです」
「承知致しました。少し足止めをして突破して頂きます。どうせボンボンは後ろでみているしかできませんし、手抜きか全力かなんて分かりもしないですから……お気をつけて!」
「ええ、ありがとう。マーガレッタ様、もう少し先の出口まで向かいましょう」
「分かりました、ルシアナ様」

 私達はもう一度手を取り合って走り出す。

「レッセルバーグの公女様にはご迷惑をおかけしております、後程改めて謝罪をさせて下さい」
「……はい」

 姿は見えないけれど、きっと立派な騎士なんだろう。礼儀もしっかりしているし、ルシアナ様は彼のことを騎士団長と呼んだ。なるほどな、と納得できる。多分、実力や名声共にハウエル様が本当の騎士団長なんだろう。きっとそこにあの王と王妃、そして宰相が口を挟み、ゴルダさんを騎士団長に捩じ込んだんだろうな……。

「だんちょ……いえ、副団長ぉ~靴の紐は結べましたかぁ?」
「おー問題ない」
「了解でありまーす、正門より続く道から侵入者がやってきますー」
「分かったー団長にー指示をあおげー。団長が決めるまでなんの手出しもするなー丁重にー」
「分かってまーす」

 間延びしたやる気のない男性の大声が響く。きっと彼らは全員騎士でハウエル騎士団長を慕っていて、ゴルダさんに反感を持つ者達なんだろう。私達を捕まえる気もないし、無駄な時間稼ぎもしてくれている。きっと大声での報告は私とルシアナ様がいることを知ってアーサー達の動きを教えてくれているのかもしれない。

「もう! クロードの到着が遅いのが悪いっ」

 ぷんっとまるで駄々を捏ねる少女のようにルシアナ様は不満を漏らす。この方はこういうところがとても可愛らしい。

「あっ! 悪いのはクロードであって、アーサー殿下は一欠片も悪くないですわ、絶対に!」

 怒っているのとは少し違うルシアナ様のお小言、どこかで聞いたことがあるようなそれに思いを巡らせて気が付いた。アルティナ様がイグリス様に対する態度と似ているんだ。大好きで信頼している方へ漏らす不平不満と似ている……ということはルシアナ様はクロード様のことが好きなのかしら……?



 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に転生したので裏社会から支配する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:735

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,392pt お気に入り:1,699

ここはあなたの家ではありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,663pt お気に入り:1,916

次期公爵閣下は若奥様を猫可愛がりしたい!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,322

これがホントの第2の人生。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:864

転生したら、なんか頼られるんですが

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:7,166

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。