地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。～ざまぁ？ 没落？ 私には関係ないことです～

隣国ヘーラクレール編

25 シロの一撃

「っ！？」
「マーガレッタ！　シロ！」
「敵かッ！！」

　小さな体から発せられたとは思えないほどの大きな鳴き声に、アーサーやカールさんも集まってくる。シロ様一体どうなさったんですか！？

「ジイッ！　（くらいおもいにひっぱられてる！　）」
「暗い、思い？」
「ジッ！　（そう！　よくない！おねえちゃまがちからをかしてくれたの、やっつけたよ！）」
「おねえちゃま……」

　さっきまで私と話をしていた神官さん達は皆、きょとんとした顔をしている。シロ様の大きな声に驚いたんだろうけれど、顔つきがなんだか穏やかに感じる。

「あ、あれ？私達……」
「マーガレッタ様に失礼なことを……」
「も、申し訳ございません！」

　床にひれ伏して許しを請おうとする神官さん達を何とか宥めて、駆け付けてくれた人たちに説明をしなくてはいけない。そしてこの中で一番背が高いカールさんの頭の上に乗っかって満足そうに胸を張るシロ様を褒めてあげなくちゃ。
「ジッジッ！　（ぼく、すごーい！）」
「シロ坊がなんかいいことしたのか？」
「そうなんですが、これは大変なことかもしれません」

　神官長様を含め、皆に集まって貰い今起こったことを説明する。

「シロ様は暗い思いに引っ張られているとおっしゃったんですね」
「ええ、確かに国の情勢を考えると気持ちが暗くなるのは当然だと思うのですが……」

　シロ様がお力を使ってまで何とかしなければいけないほどのことだった、そしてそれが一番瘴気に侵されづらいはずの神官さん達に起こった事。

「聖女不在の事態の重さは神官の方が街の人達より重く受け止めるでしょうが……このままではヘーラクレール国は立ち行かなくなる。早急に聖女を探し出す必要があります……もちろん聖女はマーガレッタ様ではございません」
「あ、はい！」
「マーガレッタ様は薬師様、分かっておりますとも。重々分かっております！マーガレッタ様は薬師様！」
「え、ええ……」

　神官長様があまりに何度も繰り返す。もしかしたら「みなさま」が神官長様に何度も何度もそう囁いたのかもしれない。これ以上負担にならないように、と気を使ってくださっているから……。

「それにマーガレッタ様ではこのヘーラクレールの聖女になれないことは皆分かっているのです……ヘーラクレールの聖女はこの土地で産まれ、育ち、この毒と瘴気の上にある国をそれでも愛す者でなければ務まらないと皆、分かっているのです」
「……神官長様……」
「マーガレッタ様がこの国で育った薬草をお求めになるのと同じです」

　確かにその通りだ。このヘーラクレール国の人々はこの国が毒と瘴気の上に出来た国だと知ってもここで暮らしている。その強さが根本にないとこの国を愛し支えて行くことは到底できない。私にはない強さ……この国の人にしかない力が絶対条件なんだ。

「……はい、その通りですね」

　大きく頷き返す私に、神官長様は安堵の微笑みを向けてくれる。

「神官達にもそのような思いが広がっているのはやはり問題です。シロ様に祓って貰ってばかりいる訳にはいきません。早く聖女となる資格のある方を探さねば……」
「焦りは禁物です。多分その焦りも暗い思いとやらに繋がっていくんじゃないでしょうか」

　黙って話を聞いていたアーサーが口を開いた。最初、私を聖女にと神官さん達が口にしたときの話をしたら神官さんを睨み殺せるくらいな鋭い視線と殺気を放っていたけれど、今は普通に戻っている。

「まさにアーサー殿下の仰る通りですね……私も相当焦っているのですね……」

　ため息をついてしまう神官長様。行き詰りに誰もが頭を悩ませていた。