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隣国ヘーラクレール編
9 たすけてー!
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「あ、あの」
「遠い所わざわざご足労を願い、更にこんなに急がせて申し訳ございません。ですが、ですが……一刻も早く神獣様に会っていただきたくて」
「……分かりました。神獣様のお加減は……」
「悪いです……更に悪いことに」
顔色が悪い女性神官は奥から聞こえてくる大きな音にびくっと体を竦ませた。がしゃーんっ!何かが乱暴に倒される音だ。物が割れた、というより何か鉄製の物を引き倒した、そんな音だった。
「っ!」
音の鳴った方向に私以外の同行者達は一瞬で向きを変える。カールさんとアーサーに至っては私の後ろにいたはずなのに、いつの間にか庇うように私の前に立っていた。凄く素早い……!
「目障りなのよッ!! この役立たずッ!」
とても不快な耳を覆いたくなるような、甲高い女性の叫び声が辺りをつんざく。そちらの方向に全員が緊張を走らせる。例え神殿の中でも、女性の声でも危険なことがあるかもしれないということだ。
「私のどこか悪いのっ! 私はこの国の第一王女にして唯一の聖女なのよ!!その私がこうしてきてやってるのに、役立たずがっ」
もう一度大きな音がする……何かを蹴った音、なにかが空中に蹴り上げられ、そして床にたたきつけられたような……。
〈ぎゃんっ! い、いたいっ! こわいっ、たすけてーっ〉
「アーサー、急いで! 怖がってる、痛がってる!」
「あっちか!?」
神獣様と契約で繋がった私の頭の中に、恐怖で震えた声がはっきり伝わってきた。神の使いをこんなに怖がらせるなんて、一体誰がそんな罰当たりなことをしているんだろう!それに祝福された存在である神獣様が怯えるなんて……悲しみできゅっと心臓が締め上げられる。
「声の方!」
「分かった!」
アーサーはほんの一瞬だけカールさん達の視線を交わし、案内してくれた女性神官を押しのけ物騒が声が聞こえた扉を開けた。
「な、なによ……」
ノックもなしに開けたため、中にいた一人の女性が驚いてこちらを見ている。私はアーサーの肩、カールさんの筋肉、トリルさんの帽子、メリンダさんのマントの後ろからほんの少しだけ見ることができた。
その女性は少しだけくすんだ金色の髪をしていた。真っ白だけれど銀糸や金糸で美しく縫い取りをされて、とても高価そうなドレスを纏っている。女性神官がかぶっているヴェールと似たものを身に着けているけれど、それは髪を隠すためじゃなくて、神職に見えるように手が加えられている装飾だろう。そしてその上に大きめの銀のティアラすら乗っていて、彼女は一体何者なのか一目では分からない様相だった。
ただ、その声は先ほど聞こえた癇癪を起して当たり散らしたような女性の声と一緒だったから、叫んだのはこの目の前の謎の女性で間違いないだろう。
「遠い所わざわざご足労を願い、更にこんなに急がせて申し訳ございません。ですが、ですが……一刻も早く神獣様に会っていただきたくて」
「……分かりました。神獣様のお加減は……」
「悪いです……更に悪いことに」
顔色が悪い女性神官は奥から聞こえてくる大きな音にびくっと体を竦ませた。がしゃーんっ!何かが乱暴に倒される音だ。物が割れた、というより何か鉄製の物を引き倒した、そんな音だった。
「っ!」
音の鳴った方向に私以外の同行者達は一瞬で向きを変える。カールさんとアーサーに至っては私の後ろにいたはずなのに、いつの間にか庇うように私の前に立っていた。凄く素早い……!
「目障りなのよッ!! この役立たずッ!」
とても不快な耳を覆いたくなるような、甲高い女性の叫び声が辺りをつんざく。そちらの方向に全員が緊張を走らせる。例え神殿の中でも、女性の声でも危険なことがあるかもしれないということだ。
「私のどこか悪いのっ! 私はこの国の第一王女にして唯一の聖女なのよ!!その私がこうしてきてやってるのに、役立たずがっ」
もう一度大きな音がする……何かを蹴った音、なにかが空中に蹴り上げられ、そして床にたたきつけられたような……。
〈ぎゃんっ! い、いたいっ! こわいっ、たすけてーっ〉
「アーサー、急いで! 怖がってる、痛がってる!」
「あっちか!?」
神獣様と契約で繋がった私の頭の中に、恐怖で震えた声がはっきり伝わってきた。神の使いをこんなに怖がらせるなんて、一体誰がそんな罰当たりなことをしているんだろう!それに祝福された存在である神獣様が怯えるなんて……悲しみできゅっと心臓が締め上げられる。
「声の方!」
「分かった!」
アーサーはほんの一瞬だけカールさん達の視線を交わし、案内してくれた女性神官を押しのけ物騒が声が聞こえた扉を開けた。
「な、なによ……」
ノックもなしに開けたため、中にいた一人の女性が驚いてこちらを見ている。私はアーサーの肩、カールさんの筋肉、トリルさんの帽子、メリンダさんのマントの後ろからほんの少しだけ見ることができた。
その女性は少しだけくすんだ金色の髪をしていた。真っ白だけれど銀糸や金糸で美しく縫い取りをされて、とても高価そうなドレスを纏っている。女性神官がかぶっているヴェールと似たものを身に着けているけれど、それは髪を隠すためじゃなくて、神職に見えるように手が加えられている装飾だろう。そしてその上に大きめの銀のティアラすら乗っていて、彼女は一体何者なのか一目では分からない様相だった。
ただ、その声は先ほど聞こえた癇癪を起して当たり散らしたような女性の声と一緒だったから、叫んだのはこの目の前の謎の女性で間違いないだろう。
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