上 下
25 / 118
隣国ヘーラクレール編

9 たすけてー!

しおりを挟む
「あ、あの」
「遠い所わざわざご足労を願い、更にこんなに急がせて申し訳ございません。ですが、ですが……一刻も早く神獣様に会っていただきたくて」
「……分かりました。神獣様のお加減は……」
「悪いです……更に悪いことに」

 顔色が悪い女性神官は奥から聞こえてくる大きな音にびくっと体を竦ませた。がしゃーんっ!何かが乱暴に倒される音だ。物が割れた、というより何か鉄製の物を引き倒した、そんな音だった。

「っ!」

 音の鳴った方向に私以外の同行者達は一瞬で向きを変える。カールさんとアーサーに至っては私の後ろにいたはずなのに、いつの間にか庇うように私の前に立っていた。凄く素早い……!

「目障りなのよッ!! この役立たずッ!」

 とても不快な耳を覆いたくなるような、甲高い女性の叫び声が辺りをつんざく。そちらの方向に全員が緊張を走らせる。例え神殿の中でも、女性の声でも危険なことがあるかもしれないということだ。

「私のどこか悪いのっ! 私はこの国の第一王女にして唯一の聖女なのよ!!その私がこうしてきてやってるのに、役立たずがっ」

 もう一度大きな音がする……何かを蹴った音、なにかが空中に蹴り上げられ、そして床にたたきつけられたような……。

〈ぎゃんっ! い、いたいっ! こわいっ、たすけてーっ〉

「アーサー、急いで! 怖がってる、痛がってる!」
「あっちか!?」

 神獣様と契約で繋がった私の頭の中に、恐怖で震えた声がはっきり伝わってきた。神の使いをこんなに怖がらせるなんて、一体誰がそんな罰当たりなことをしているんだろう!それに祝福された存在である神獣様が怯えるなんて……悲しみできゅっと心臓が締め上げられる。

「声の方!」
「分かった!」

 アーサーはほんの一瞬だけカールさん達の視線を交わし、案内してくれた女性神官を押しのけ物騒が声が聞こえた扉を開けた。

「な、なによ……」

 ノックもなしに開けたため、中にいた一人の女性が驚いてこちらを見ている。私はアーサーの肩、カールさんの筋肉、トリルさんの帽子、メリンダさんのマントの後ろからほんの少しだけ見ることができた。

 その女性は少しだけくすんだ金色の髪をしていた。真っ白だけれど銀糸や金糸で美しく縫い取りをされて、とても高価そうなドレスを纏っている。女性神官がかぶっているヴェールと似たものを身に着けているけれど、それは髪を隠すためじゃなくて、神職に見えるように手が加えられている装飾だろう。そしてその上に大きめの銀のティアラすら乗っていて、彼女は一体何者なのか一目では分からない様相だった。
 ただ、その声は先ほど聞こえた癇癪を起して当たり散らしたような女性の声と一緒だったから、叫んだのはこの目の前の謎の女性で間違いないだろう。

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に転生したので裏社会から支配する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:735

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,236pt お気に入り:1,699

ここはあなたの家ではありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,642pt お気に入り:1,917

次期公爵閣下は若奥様を猫可愛がりしたい!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,322

これがホントの第2の人生。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:864

転生したら、なんか頼られるんですが

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:7,166

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。