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   第一章 地味令嬢、婚約破棄の上、国外追放


 私の名前はマーガレッタ・ランドレイ。ランドレイ侯爵家の次女で、リアム王国の王太子、ノエル様の婚約者。
 王宮の豪華な広間でおこなわれているノエル様のパーティーに参加していた私は、ノエル様が言い放った言葉を理解できず、壇上に立つ彼の前で立ち尽くしていた。

「マーガレッタ! お前のような令嬢とも呼べぬ娘を、私の婚約者にしておくわけにはいかない!お前との婚約を破棄させてもらう!」
「え……?」

 突然のことにおろおろする私をよそに、ノエル様の言葉は続く。

「ロゼライン、こちらへ」
「はい……ノエル様」

 ノエル様が名前を呼んだのは、一人の美しい女性。
 地味な色でレースもない私の質素なドレスとは違い、彼女のドレスは黒を基調とした豪華なもので、純白の服を身にまとうノエル様と対になるよう、純白のシルクと金糸で装飾されている。
 絢爛けんらんな衣装に身を包んだ彼女も壇上に上がり、自信満々な表情で私を見下ろしノエル様の隣に立つと、彼の腕に手を絡めぴったりとくっついた。
 まるでこの大陸で広く信仰され、私もよく知る女神フェリーチェ様の寵愛ちょうあいを一身に受けたかのようなきらめく姿。
 残念ながら、私は彼女のことをよく知っている。彼女は、血のつながった私の姉だった。

「ロゼライン……お姉様」
「マーガレッタ……酷いわ。いくら私が聖女の資格を得て、人々に慕われているからといって、数々の嫌がらせをしてくるなんて……ノエル様が気づいてくれなかったら、私……」
「嫌がらせ……何のことですか? わ、私はそんなこと、しておりません!」

 なぜ私がお姉様に嫌がらせをしたことになっているのだろうか。
 お姉様の言葉の意味がわからず、思わず大きな声で言い返した。しかしお姉様は眉をつり上げて私の言葉を遮った。

「嘘おっしゃい! あなたの薬より私の癒しの技が優れていると言って、いつも邪魔をしてくるじゃありませんか! お兄様もそう思いますわよね?」
「ロゼラインの言う通りだ。ノエル殿下がお怒りなのも致し方ないこと。マーガレッタは隠れて嫌がらせをしているつもりなのかもしれないが、私は知っているんだぞ! 我がランドレイ家の面汚つらよごしめ!」
「オ、オリヴァーお兄様まで……なんてこと」

 私の後ろに立っていた実の兄、オリヴァーお兄様まで、ロゼラインお姉様の味方になり、私に罵声ばせいを浴びせる。
 まさか血のつながった親族に、いわれのない罪で責められるなんて、思ってもみなかった。
 たしかに私は家族の中で一人だけとても地味だ。
 はしばみ色の髪に、緑の瞳。
 そんな地味な容姿だからか、家族の中で冷遇されているのは自覚している。
 お父様もお母様も美しい金髪で、二人とも青い瞳。お兄様もお姉様もならったように金髪に青い瞳だけれども、私の色はお父様のお母様、つまりお祖母様から受け継いだ色だから何もおかしいことはないのに。

「そういうことよ、マーガレッタ! だからランドレイ家から……いえ、このリアム王国から出て行ってくれないかしら?」

 美しく目鼻立ちのはっきりした美女のお姉様が高らかに言い放つと迫力がある。さらには聖女という特別な地位に十年もいるからか、その言葉は人の心に染み渡る。

「ひ、ひどいです! 私たちは血のつながった家族じゃないですか!」
「家族……あなたと私が? 冗談でしょう? その見た目で? そばかすの浮いた汚い顔。薄汚れた髪で、いつも土にまみれてコソコソやっていて……気味が悪い!」
「そ、それは薬草を育てているだけです!」

 私が必死にそう言っても、ロゼラインお姉様やオリヴァーお兄様、ノエル様は顔をしかめたまま。周りを見渡すと、お姉様を称賛し、私をさげすむ貴族たちの視線が突き刺さる。

「どちらにしろ、私にはお前との婚約を続ける気などない! その顔を二度と私の前に出すんじゃない、消えろ」
「ノエル様……ひどい……」


 たしかに私は、実の家族だけでなくノエル様からも冷たく扱われてきた。
 美しいお姉様ではなく、地味な私が婚約者と決まった時から、彼の冷たい視線を受けてきたし、無視もたくさんされた。
 それでもノエル様にふさわしくなるため、精いっぱい努力して難しい本を読み、知識をたくわえた。お父様の言いつけどおり、国の利益を考えて薬草を研究し、効果の高い回復ポーションや、病気を癒すキュアポーションを作り出してきた。
 聖女であるロゼラインお姉様のヒールやキュアといった回復魔法はよく効き、一瞬で傷や病を癒すことができるけれど、庶民には到底払えないとても高いお布施が必要である。
 使用人や街の人、冒険者などはお布施を払えない人も多いため、私が陰で研究する安価なポーションが必要なのだ。
 お姉様より容姿は劣るけれど、真面目に学びポーションを研究しているうちに、少しずつノエル様に認めてもらえていると思っていたのに、彼がそんな風に思っていたなんて。

「う、うぅ……わ、わかりました……」

 悲しくて虚しくて、ぼろぼろと涙がこぼれる。
 そんな私を、ノエル様もお姉様も冷たく見下ろしているし、お兄様は吐き捨てるように追い打ちをかけてきた。

「ふん、醜い女は泣き顔すら醜い」
「ひどい……」

 もういい。私は十六歳で成人です。ノエル様と婚約して明日でちょうど十年になる。
 王家とランドレイ侯爵家、そしてこの国のために必死に努力することはやめ、これからは別の国で生きていこう。
 幸い私には薬師としての腕があるから、きっとどこの国でもやっていけるはずだ。

「……お世話になりました……皆さまのお言葉通り、この国から、出て行きます」

 なんとか声を振り絞り、意地悪く笑う三人に背を向ける。その時、静観していたお父様が、顔を青くして声をかけてきた。

「マ、マーガレッタ……う、嘘だろう? この国から出て行くのか? あ、明日の契約更新は……ど、どど、どうするつもりだ」

 お父様がいまさら何を言っているのか分からない。しかも私を慰めるのではなく『契約』の話を出してくるなんて、やっぱりそういうことなんだ。
 契約を継続させられれば、私という人間は必要なかったんだ。
 少しでもいいから、両親の優しい言葉が欲しかった。そう思うのは贅沢だったのか、と思うと、全身がすうっと冷たくなり、それから新しい涙がり上がることはなかった。

「父上、いまさらその女に声をかける必要などありません! 毎日おっしゃっていたではありませんか。マーガレッタは私の娘ではないと、あんな醜い娘が自分の子供であるはずがないと!」

 私の心をえぐるお兄様の声が会場に響く。あまりにひどすぎる追い打ちに、くらりと天地が揺れた気がした。体がフラフラしてほとんど倒れる寸前だけれど、こんな人たちの前で倒れたくなんてない。
 気力を奮い立たせ、なんとか外へ向かう。磨かれた廊下には私の土気色の顔が映っていることだろう。

「黙れ、オリヴァー! マーガレッタ、契約は……契約の更新はどうするのだ⁉」

 お父様が何かわめいているけれど、十年前の契約は六歳の何も知らなかった私をだますようにして結んだものだった。そして今、こんなに馬鹿にされているのに契約の更新なんて、する訳ないでしょう……
 ついさっきまでお父様を信じていた私は、馬鹿で愚かだった。
 今日、婚約破棄されてよかったのかもしれない。明日、契約が更新されてから婚約破棄されたら、もっと悲惨だっただろう。それだけはノエル様に感謝しないと。
 ノエル様のお父様である国王陛下は沈黙したまま。

「へ、陛下……マ、マーガレッタが……」

 お父様だけが慌てている。そうですか。王家にも私は必要ないということなんだ。
 国王陛下も王妃殿下も、ノエル様を止めることもしない、お二人のご意向もそういうことなんだ……もう振り向きたくない。
 ああ、部屋に戻って……荷物をまとめて出ていこう。
 ランドレイの家からも、この国からも。
 足に合っていないヒールの高い靴が滑り、足がもつれた。これ以上あの人たちに醜態を見せたくないのに、私の体は言うことを聞かずにぐらりと大きく傾いてしまう。

「マーガレッタ嬢、大丈夫ですか!」

 倒れそうになる私を、飛び出した騎士が支えてくれた。この方は、よくポーションを分けていた方だと思い出す。
 訓練が厳しいと有名なこの国の騎士団は怪我人が多く、ポーションを渡すといつも感謝してくれたのを覚えている。

「え、ええ……ありがとうございます」
「……この国を出られるのですか」
「はい、そうするしか……ないようです」

 小さな声で確認してくる騎士はとても悲しそうな顔をしたけれど、騎士も私を止めたりはしなかった。
 私がノエル様に邪険に扱われていることは騎士団にも知れ渡っているし、彼はこの国に仕える騎士なのだから、王族の命令は絶対に守らなければならない。

「……馬車を呼んであります。それに乗ってランドレイ侯爵邸へ。その後はレッセルバーグ国方面に行かれるとよいでしょう」

 レッセルバーグ国とは今私がいるリアム王国の隣にある大国。
 レッセルバーグ国にはダンジョンや魔物が多く出現する深い森が多いため、薬師や薬師が作るポーションが大事にされると聞いたことがある。
 ポーションを作れる私が向かうのに、ふさわしい国だ。きっとこの方は私の行く末をおもんぱかって提案してくれたんだ。

「ありがとうございます……そうさせてもらいます。あの、馬車の代金は……」
「騎士団に払わせてください。あなたのおかげで何人もの騎士の命が救われました。王族はどうあれ、私たちは感謝の念しかありません」

 騎士の言葉を聞いて、冷たく重い私の心に、ぽつんと暖かい火が灯った。
 よかった……私の作ったポーションは、命を救えたんだ。私がしていたことは決して無駄なんかじゃなかったんだ……!

「こちらこそ……ありがとうございます。これで胸を張って、この国から出ていけそうです」
「我々はこの国に仕える者であるがゆえに、これ以上お助けできないのです。誠に申し訳ございません」

 いいえ、十分です、と私はゆっくり首を横に振る。
 むしろ、追い出される私に話しかけた騎士さんが罰せられるかもしれないのが怖い。ノエル様やお姉様たちから叱責しっせきされるかもしれない。
 それなのにこうやって私を助けてくれて、とても嬉しい。

「いえ……。団長様に感謝をお伝えくださいませ」
「かしこまりました」

 騎士と別れ、私はきらびやかな王宮を、侮蔑と好奇の視線の嵐の中、後にする。名だたる貴族の馬車が並ぶ場所に着いた私は、その場所の中でも王宮から最も遠いところにいる、騎士団が用意してくれた馬車を見つけた。
 素早く馬車に乗り込むと、御者ぎょしゃさんは私の顔を見て不思議そうに首をかしげた。

「あんた、薬師のマーガレッタ・ランドレイだろ? いったいどうしたんだい。騎士の人からあんたを乗せて、ランドレイ家に寄って隣の国まで行けって、言われてんだけど」

 御者ぎょしゃさんがいぶかる。
 たしかに女の子が一人で王宮から出てきて、家に寄ってから隣の国へ行く……なんて普通はないだろう。不審がられて当然だと思う。

「私……この国を追い出されちゃったんです」
「な、なんだって⁉」

 御者ぎょしゃさんの大声に、馬たちが驚いて耳をびくつかせる。

「それで隣の国に行こうかと思いまして……」
「す、するってぇと、あんたのポーションは隣の国に行かなきゃ買えなくなるってことか⁉」
「え? ええ、この国にある在庫が切れたらそうなりますね」

 こ、こりゃ恐ろしい事が起こるぞ、と御者ぎょしゃさんはブツブツと呟き始めた。そうしながら御者ぎょしゃさんは目を閉じていたが、少しして勢いよく顔を上げた。

「お嬢さんや。ランドレイ家を出たら、ちょこっとギルドへも寄って行こう。隣の国までは結構距離があるから、冒険者を何人か連れてったほうが安全だ」
「でも私、冒険者の方を雇うお金なんてありません……」

 あいにく、私は冒険者を雇うような大金を持っていない。なけなしの宝飾品を売れば、この馬車の運賃くらいはなんとかなるかなと思うけれど。

「その辺は俺がなんとかするから、お嬢さんは馬車に乗ったまま待っててくれ。ちょっとでいいから!」
「そ、それなら……」

 御者ぎょしゃさんの勢いがすごく、私はつい頷いてしまった。

「よっし、そうと決まればさっさと行くぞ!」
「きゃっ!」

 私を乗せた馬車は勢いよく走り出し、ガラガラと車輪の音を激しく鳴らす。嫌味やさげすんだ視線にさらされながらも何度も訪れた王宮が遠ざかっていく。でも、もう行くことはないと思うと、なぜか悲しみがこみ上げてきた。
 少しでもノエル様に好かれようと努力したあの日々は何だったのか。
 視界が涙でぼやける。令嬢の端くれとして大勢の前ではなんとか堪えていたものが、一人になって落ち着いて、あふれ出してきたようだ。

「うう……うう……どうして……」

 馬車には私しかいないし、王都の整った石畳とはいえ、急ぐ馬車の音は大きいから、中の音なんて誰にも聞こえやしない。
 私はドレスの裾を握り締めて、家に着くまで泣き続けた。


「お嬢様⁉」

 家に着くと、執事やメイドたちが驚きながら駆け寄ってきた。
 心配そうな皆の一番前に、ランドレイ侯爵家の執事長、トマスがいる。

「私……ノエル様から婚約破棄を言い渡され……国も出るように宣告されました」
「……いつかこんな日が来るのではないかと思っておりました」

 私が俯きながらトマスに小さな声でそう伝えると、トマスは心底残念そうに呟いた。それに同調するように、周りの皆も頷く。
 彼らは私が家族やノエル様から冷たく扱われていたのを知っていて、きっといつかこんなことになると、予想していたのかもしれない。

「マーガレッタお嬢様……契約はどうなさるのですか」

 トマスは私が小さな頃からこの家に仕えているから、私の契約のことも知っている。そしてその契約が切れる日も。

「しないわ……さすがに無理よ」
「そう……そうでございますね……分かりました」

 トマスは残念そうに、しかし安堵したようにため息をつき、そして微笑んだ。

「そのほうがよいでしょう。お嬢様お一人が犠牲になるのはおかしいと、私たちは昔から思っておりましたから」
「……ありがとう、トマス」

 その優しい笑顔に少しだけ救われた。この笑顔のおかげでこれまでなんとかこの家でやってこられたのだろう。

「ならば、旦那様たちがお戻りになる前に荷物をまとめて、出ていかれるほうがようございますね」
「……そう、ね」

 トマスは、私が契約のことを知る誰かに引き止められることを心配しているんだろう。大丈夫よ、きっと誰も引き止めない。
 家族もノエル様も、私のことなど必要ではないのだから。

「皆、お嬢様のお荷物をおまとめして。あとなにか食べるものと……動きやすい服装に着替えましょう」

 トマスの声でメイドたちが辛い表情を浮かべたまま忙しく動き始める。
 私のために忙しくさせてなんだか申し訳ないけれど、一人で準備していては、いつ出発できるか分からないからとても助かる。

「お嬢様の作ったお薬でメイドやその家族が何人も救われました。私たちは全員、マーガレッタお嬢様の味方です」
「ありがとう……トマス。皆も」

 この屋敷の使用人は皆、優しい。私は受けた優しさに応えただけなのだが、こう言ってくれるとなんだか誇らしい気持ちになるし、この家で暮らせてよかったと思える。

「お幸せになってくださいませ!」

 荷物をまとめて家を出る準備ができると、玄関に使用人が出てきて、頭を下げて見送ってくれた。私よりも辛い表情の皆にこれ以上心配をかけたくなくて、私は頑張って笑顔を浮かべて馬車へ戻った。

「使用人に好かれてるんだな」
「ええ……」

 馬車で待っていてくれた御者ぎょしゃさんに返事をしながら、私はため息をつく。見ないようにしていた現実を突きつけられ、心が暗く沈んでいく。
 私は家族やノエル様たちに何をしたのだろうか。彼らと仲良くなれるように頑張ったつもりだったのに。
 ランドレイ侯爵邸を出発して馬車は街の中を走り、冒険者ギルドの前で止まった。御者ぎょしゃさんはちょっとだけ待ってな、と言って入っていき、言葉通り本当にすぐに出てきた。
 御者ぎょしゃさんが馬車を動かし始めると同時に、冒険者ギルドの敷地から一台のほろ馬車がやってくる。それは、私たちの馬車についてきた。

「あ、あの……後ろの馬車って……」
「ああ。あのほろ馬車に、あんたの護衛をする冒険者が乗ってるんだ」
「え? 本当ですか?」

 冒険者との交渉ってそんなにすぐにできるものでしたっけ、と半信半疑だったけれど、その後小休憩を取った時に、ほろ馬車からいかつい鎧や大きな剣をぶら下げた人たちが出てきて、御者ぎょしゃさんの言ったことは本当だったと少し驚いた。

「あんたがマーガレッタお嬢様? この花がついたポーションを作った人?」
「え、ええ。瓶にマーガレットの花の型がついているなら、私が作ったものです」

 私に話しかけてきたのは、とても大きな剣を背負った男性。見上げないとまともに顔を見られないほど背が高く、筋肉質でいかにも冒険者といった雰囲気の人だ。
 初級ポーションの瓶を握っているが、見慣れたあの瓶は間違いなく私が作ったものだ。
 強面こわもてで少し恐いけど、破顔という言葉が似合う笑顔を見せてくれて、安心した。

「そうか! ありがとう、あんたのおかげで俺の腕はくっついて、まだ仕事ができているよ」

 彼が袖をめくって見せてくれたのは太い丸太みたいな右腕。彼の二の腕には大きな傷跡がぐるりと残っていて、ひどい怪我を負ったことが分かった。

「クリティカルマンティスっちゅーでかい虫がいてな、そいつに腕を飛ばされたんだ。もう駄目だと思ったんだが、あんたの特級ポーションのおかげでくっついたんだよ」
「と、飛ばされた⁉ そしてく、くっついた⁉」

 そんなことがあったなんて、と私は目をみはる。
 巨大昆虫は珍しい魔物でかなり強く、ギルドが決める魔物の強さランキングのかなり上に位置することは、本で読んで知っていた。
 そして私が作る一番効果の強い特級ポーションにそういう効能があることはわかっていたけれど、実際に目の当たりにしたのは初めてだった。
 この男性はそんな恐ろしい魔物と戦うことができる凄腕のようだ。そんな方が護衛についてくれるなんて、と改めて驚いていると、男性の後ろから何人もの冒険者が顔を出した。

「アタシは目玉よ! 魔法使いなのに目をやられちゃってね、ほんと助かったわ! なにせ目が見えないと魔導書が読めないでしょ?」
「俺は足!」
「俺は腹を真っ二つにされた!」
「私なんて顔が命の吟遊詩人なのに、顔をぶっ飛ばされましたからね」

 ちょ、ちょっと……待ってください! にこにこ笑いながらとんでもないことを話す人たちの話を聞いて、血の気が引く。目や顔って……嘘でしょ⁉

「こらお前ら。貴族のお嬢さんに、なに血生臭い話してるんだ!」
「「「「あっ」」」」

 思いっきり、その光景を想像してしまった……。私の顔はひどく真っ青なのだろう。冒険者の皆さんは必死に謝ってくれた。


 休憩を終えて再び馬車が走り出す。
 辺りは日が傾き、空が暗くなり始める。そんな中、私は同じ馬車に乗ることになった戦士さん、女性の魔法使いさん、吟遊詩人さんに話しかけた。

「私のポーションに感謝していただいたのはとても嬉しいのですが……どうして隣の国まで護衛してくださるのですか?」

 私のポーションを使ったことがあるということだったが、私じゃない薬師が作る同じようなポーションは少なからずある。
 こんなに私によくしてくれる理由を知りたかった。
 魔法使いさんと吟遊詩人さんは顔を見合わせてから、リーダーらしき戦士の人を見る。戦士さんはぼりぼりと派手に頭を掻き、口を開いた。

「……ああ、もう! 黙ってるのはだましてるみたいで嫌だから言うぜ! 俺たちはお嬢さんが作ったポーションを買いたいんだ。だから、隣の国のどこで店を開くのかとかを知りたいんだよ!」
「え?」
「そうなの、私も下心いっぱいでごめんなさい……。でもお花印のポーションがあるのとないのじゃ全然安心感が違うし、あなたのポーションが買えなくなるのは冒険者にとって死活問題なのよ」
「マーガレッタさんのポーションは、普通のポーションの五十倍の値段でも、効果は百倍ですから、いくつでも欲しいんです」

 え、私のポーションってそんなに高いんですか? お父様は普通の値段で売っていると言っていたから、何かの間違いだと思うんだけど……

「普通の値段で卸しているので、お値段は他のと変わらないはずですけれど……?」
「取り合いになったら、どんなものでも高くなるんだよ」
「知らぬは制作者ばかりなりってことね。どっかでもうけをピンハネしてるんじゃない?」
「絶対やってます……もしかして、ひどい環境で作っていたのではありませんか?」

 冒険者の皆さんは顔をしかめた。
 心当たりがなくてただただ驚いていると、冒険者たちは一斉にため息をついた。

「……こりゃ、心配だなあ」
「誰か、レッセルバーグに貴族の知り合いがいない? なるべく偉い人」
「あー……ちょっと何人かに当たってみます」
「ホント、心配だよ。お嬢さん、よくしてくれるからって、知らない人についてっちゃだめだからな?」
「わ、私はそんな子供ではないです!」


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