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1 ざまぁ読みすぎ女子、うっかり転生してしまう

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 私はたくさん小説を読んでいた。特に好んだのは異世界転生恋愛小説ざまぁあり物だ。本当にたくさんたくさん読んでそして……一人仕事のし過ぎで過労死した。


「でも、ざまぁされる令嬢になんてなりたくなかったわよーーー!!」

 6歳の誕生日の夜に前世を思い出し、絶叫してしまった。私、どうしたらいいの!?ここは一人悩むところなんだけれど、思わずお母様のお部屋へ突撃してしまったのよ。

「お母様ーー!私、私ざまぁされたくないわーー!」

「エイミア!?一体どうしたのです、ざまぁとは一体何のことなの?」

 わぁっとお母様のふんわりした上質なスカートにしがみついて、泣いてしまった。6歳の涙腺はとても緩くて、我慢なんて出来なかったのだ。

「あのエイミアが……きっととても嫌なことなのね?ざまぁ……確かに語感も良くないわ」
「そうなんです、聞いてくださいお母様-!!」

 そして全部話してしまったのです。

「お母様、この世界はきっと間違いなく前世で私が読んでいた小説の中の世界なのですわ。そして私は今、お父様が浮気している平民の女性との間に生まれた妹にすべてを奪われてしまうざまぁされる姉なんですわーーー!」
「エイミアも知っていたのね……お父様が平民と浮気をしていることを……そして妹? 子供も設けたの? それは初耳だわ……」

 お母様の目がギラリと光りました。あ、それは知らなかったのですね……というか私も真偽のほどは分からないのですが、多分間違いなくそんな感じの妹がいるはずなんです。このパターンは間違いない、絶対いるわ。

 ただ……私がどの小説のざまぁされる令嬢に転生したか、今一つ思い出せないのですわ。たくさん読み過ぎてどれがとれだか分からなくなるなんて最低ですわ……。

 ただ、爵位は侯爵。名前はエイミア・リンデンドール侯爵令嬢。豪華な金髪に綺麗な青い瞳で、少し気の強そうな顔立ち……これだけ揃っているのはどう考えてもざまぁされるほうの悪役令嬢に間違いないのです。しかもですよ?

「明日には王太子殿下とエイミアの婚約も控えているというのに、フラットは……これはお父様にお知らせしなくてはいけませんね……」

 私のお父様の名前はフラットと言います。しかも今日は私の6歳の誕生日で明日は婚約をする日なのに夕方に出かけて帰ってこないのです。多分お母様が亡くなってから家にやってくる平民の女性の元へ行ったのでしょう。お父様は最低です。

「でもお母様……そうやってお母様がお爺様に何でも言いつけるから、お父様が嫌がって平民の女性の所にいくようになったのですわ」
「エ、エイミア!? 何を言い出すのかしら……!?」
「でも本当の事ですわ」

 お母様のお名前はルシア。結婚前はアルミス公爵家の次女でいらっしゃいました。お父様のリンデンドール家へ是非にと乞われて、嫁がれてきた政略結婚の方なのですが、お母様のお父様……私にとってはお爺様のアルミス公爵の力はとても強いのです。お母様は気に入らないことがあるとすぐにお爺様に言いつけ、お父様のフラットはそのたびに嫌な顔をし、お母様に辛く当たる。そんな嫌な循環が起こっているんです。

「でも、エイミア……私は」
「お母様はアルミス公爵家の娘なんですよ。気にしなければいいではありませんか……お母様にはその品位も美しさもあります。フラットお父様に縋る意味なんてないんです」
「……フ、フラットに……すがる? この、私が侯爵である、フラットに……?」
「ええ、少し振り返ってみてください。お母様は別にお父様なしでも立派に美しく、楽しく生きて行けるのにどうしてお父様の目を気にするんですか? 私にはわかりません」

 この考え方はきっと私が転生者だからかもしれない。お母様たちみたいなこの世界の女性は自立している人が極端に少ないから、男性ありきという考えが根本から刷り込まれているような気がする。

「……そ、そう言われてみればそうだわ……私、特にフラットなんて必要ないわよね……?」
「ええ、そうですわ。ただ、このリンデンドール家が貧しくなったり没落するのは嫌ですから……そうだ、お母様が手腕を振るってみては? 私もざまぁを回避できなかった時のために経営を学びたいし、自分の資産も作っておきたいわ。結局お金がなきゃ何もできないものね」
「……エイミア、私……なんだか靄が晴れたようだわ。そうね、あなたの言う通りだわ……なぜ気がつかなかったのかしら。私、やるわ」
「ええ、そうしましょう! お母様」

 そうよ、もしざまぁされたとしても一人で強く生きて行けばいいんだわ。金、金さえあれば何とかなる!
 私とお母様は力強く手を取り合ったのです。

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