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猫になった
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俺はまともな会話をしたくなって、節制のシェザラさんに声をかけてみることにした。
「あの、俺、特に王都に行く用事もないし帰りたいんですが」
一瞬、シェザラさんは驚いたような顔をしてから苦笑した。
「やはりリックの勘違いなんだね?君がグランベルンの獅子王のせいで全てを失ったと言うのは」
「ええ、全ては失っていません」
数個だけです、とは絶対に口には出さない。
「すまない。説得はしてみるが、言い出したら聞かない性格でね。もう少し付き合ってもらう事になるかもしれない……昔はここまで酷くなかったんだがな」
列の先頭、遥か前で当たりを警戒しつつもまったく後ろを振り返る事のないリックさんは歩いている。
からの歩みに曇りはない。何故ならリックさんは自分の正義を疑っていないからだ。
「昔?昔からの馴染みなんですか?」
「ああ。私とリック、スーティオは幼馴染と言う奴だ」
スーティオ。多分星の事だと思う。先行しすぎるリックさんとムイさん、後ろ過ぎる俺たちの中間くらいにいて両方に気を配っている中世的な顔立ちのきれいな人だ。
とてもモテそう!
「だから仲が良いんですね」
「そう、だな。私とスーがリックをどうしても見捨てられないと言うか野放しに出来ないと言うか」
「あははは……」
もう少し手綱をきつくしてくれても良いのに!と思う。
「リックはな、生まれた時から神獣だったんだ。母親のお腹から猫が出てきて驚いたやら、嬉しいやらでワイドナー家は上へ下への大騒ぎだったらしい」
神獣とはそれほど尊ばれる者らしい。
「たとえ、悪をもたらすかも知れない塔や悪魔だったとしても、ものすごい力を持っている事は確かだからね。やりよう、つかいようはいくらでもある」
「なるほど」
「しかもリックは正義だ。間違えたことはしない。リックの言う事は絶対正義だと、ワイドナー家では誤解してしまってね」
ふーーー、とシェザラさんは長いため息を吐いた。
「神獣とはいえ、4.5歳の子供が正義を口にすると思うかい?そんな訳ないのに」
「あー……」
リック・ワイドナーのアレは子供の頃に形成されてしまったのか。
「私もスーも最初は神獣ではなかったんだ。本当の子供の頃はリックは凄い、リックの言う事は正しいって思ってたよ。しかし、大きくなるにつれて気がつくよね、違うってことに」
シェザラさんは空を見上げた。青い雲ひとつない空が広がっているが、彼の心の中は晴れてはいないようだ。
「そして私とスーはリックを見捨てた。二人で違う街の寄宿舎付きの学校に転入したんだ。リックじゃ学力が足りなくて来れない事を知っていてね」
そうか、この人は後悔しているんだ。幼馴染のリック・ワイドナーを一人にした事を。
「あの、俺、特に王都に行く用事もないし帰りたいんですが」
一瞬、シェザラさんは驚いたような顔をしてから苦笑した。
「やはりリックの勘違いなんだね?君がグランベルンの獅子王のせいで全てを失ったと言うのは」
「ええ、全ては失っていません」
数個だけです、とは絶対に口には出さない。
「すまない。説得はしてみるが、言い出したら聞かない性格でね。もう少し付き合ってもらう事になるかもしれない……昔はここまで酷くなかったんだがな」
列の先頭、遥か前で当たりを警戒しつつもまったく後ろを振り返る事のないリックさんは歩いている。
からの歩みに曇りはない。何故ならリックさんは自分の正義を疑っていないからだ。
「昔?昔からの馴染みなんですか?」
「ああ。私とリック、スーティオは幼馴染と言う奴だ」
スーティオ。多分星の事だと思う。先行しすぎるリックさんとムイさん、後ろ過ぎる俺たちの中間くらいにいて両方に気を配っている中世的な顔立ちのきれいな人だ。
とてもモテそう!
「だから仲が良いんですね」
「そう、だな。私とスーがリックをどうしても見捨てられないと言うか野放しに出来ないと言うか」
「あははは……」
もう少し手綱をきつくしてくれても良いのに!と思う。
「リックはな、生まれた時から神獣だったんだ。母親のお腹から猫が出てきて驚いたやら、嬉しいやらでワイドナー家は上へ下への大騒ぎだったらしい」
神獣とはそれほど尊ばれる者らしい。
「たとえ、悪をもたらすかも知れない塔や悪魔だったとしても、ものすごい力を持っている事は確かだからね。やりよう、つかいようはいくらでもある」
「なるほど」
「しかもリックは正義だ。間違えたことはしない。リックの言う事は絶対正義だと、ワイドナー家では誤解してしまってね」
ふーーー、とシェザラさんは長いため息を吐いた。
「神獣とはいえ、4.5歳の子供が正義を口にすると思うかい?そんな訳ないのに」
「あー……」
リック・ワイドナーのアレは子供の頃に形成されてしまったのか。
「私もスーも最初は神獣ではなかったんだ。本当の子供の頃はリックは凄い、リックの言う事は正しいって思ってたよ。しかし、大きくなるにつれて気がつくよね、違うってことに」
シェザラさんは空を見上げた。青い雲ひとつない空が広がっているが、彼の心の中は晴れてはいないようだ。
「そして私とスーはリックを見捨てた。二人で違う街の寄宿舎付きの学校に転入したんだ。リックじゃ学力が足りなくて来れない事を知っていてね」
そうか、この人は後悔しているんだ。幼馴染のリック・ワイドナーを一人にした事を。
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