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84 ありがとう、サファイア君

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「俺の師匠大好きセンサーが反応したんです。すみませんあまりに急だったものでヴェールなど編むことができず」
「いや、それ要らないと思うからね……?」

 大聖堂の出入り口近くで俺はどうやら三途の川を見ていたらしい。俺が見た人達は凛莉師匠のご両親だったのか……中身が俺でも死ぬな、帰れといってくれていたようだ、ありがとうございます、師匠のお父さんお母さん。
 そんな俺を絞め殺そうとしていたのは新婚ほやほやな旦那さんだっていうからびっくりだよな、うん。俺もびっくりだ。

「つい、喜びのあまり……」

 人を絞め殺しかけながら、頬を赤らめて照れ臭そうにするフロウライト。なんだろう、怒りというか全て通り越して虚無だ、虚無。そんな俺を代弁するのかなんなのか、ダイヤモンドが憐れみを込めて声を上げる。

「良いのか、凛莉それで!? どうする、俺んとこくるか? サファイア君と一緒に俺が可愛がって……」

 全然代弁じゃなかった、こいつはやっぱりこいつだ、嫌いではないが好きになることはないな、この性格は。

「浮気すると死ぬらしい。全身の穴という穴から血が噴き出して原型をとどめないらしい」
「ヤダッなにそれこわいっ……あとサファイア君痛い痛い!冗談だから冗談だからぁ~!」

 脇腹……しかも肝臓の辺りをしっかり狙ってサファイア君のボディブロウが炸裂していた。短いスイングで大して痛そうに見えないけれど、しっかり訓練されたサファイア君のパンチはめちゃくちゃ痛いに違いない。もう2.3発入れば血反吐を吐くだろうけどこれは仕方がない、貧血になるくらい血を吐くが良い。

「おめでとうございます……で、良いんですよね? ししょ……えーとマークさん」
「多分……それでいいです、えーと」
「ファイって言います、仕立て屋をしてます」
「ありがとうございます、ファイさん」

 まだドスドスと肉を殴る鈍い音を立てながらサファイア君が遠慮がちに聞いてくる。俺はこの時やっとサファイア君の表の顔を知った訳だ。しかしサファイア君のセンサーが優秀で良かった……危なく結婚して数分後に死ぬところだったとはどんな犯罪なのかたまったもんじゃない。一流ミステリーよりミステリーすぎるだろう。そんな頭の中がぐるぐると色々な思考で渦巻いている俺を他所に、サファイア君……今は仕立て屋のファイさんは本当に嬉しそうににっこり笑ってくれた。

「良かった……し……マークさんが嬉しいなら、俺も嬉しい……!」
「あ、ありがとう……」

 笑うその顔をみて、自分は結婚したんだという事実がじわじわとやっとしみ込んできた気がする。俺、結婚したんだ?
 隣で気まずそうに立っているフロウライトはどう俺に声をかけて良いのか悩んでいるようだった。

「あ、あの……」
「フロウライトさん、普通こういうことは相談しませんか?」

 流石にその辺は怒っても良いところだろう?何も聞かされず連れて来られて式なんてちょっとどうかと思う。

「す、すまない……でも、どうしても逃したくなくて、君を」

 あんなに人を引き摺り回しておいて、今更徐々に俯いていかれてもなぁ。自信なさげに下を向くフロウライトの顔はあんまり好きじゃない、お前はいつも前を向いていて欲しい。

「私は信用がないですか? 逃げませんよ、あなたからは」

 俯かず顔を上げろ、俺は前を見て自信満々のお前が大好きだからな。



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