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社畜と入れ替わった闇暗殺者の私と同期の話
5 ここにいたい
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「ええと、部屋を片付けたのか」
「すみません、駄目でしたか?」
「いや、谷口の部屋を谷口が片付けたって何の問題もない」
ナルミの部屋は清潔とは言えなかった。雑誌類が積み上がり埃も多かった。ナルミの記憶に残っている高額だったり入手が難しいもの以外の雑誌は捨てさせてもらった。徹は元のナルミの部屋が変化するのが嫌だったらしいが、私は……ナルミの持っているゲーム雑誌にある間違いなく私がいた世界のことが書いてあるものを捨てたかったんだ。
徹には言えない……私はどうやらゲームの世界の住人であったらしい……そしてナルミはきっとマラカイト・凛莉になっている。あの世界に戻りたくない私は、あの世界への接点を一つでも減らしたかったんだ。
「リンは……きれい好きなんだな。谷口と違って」
「そうかもしれません。片付けていると落ち着きます」
ごちゃごちゃとモノが多いと落ち着かない。徹は掃除機の使い方を教えてくれた。電気の概念はなんとなくわかったし、魔法はないことも知った。そして人間以外の種族がないこと、魔物がいないこと……とても平和であること。
なんて理想的な優しい世界!ここにいたい、元の世界には戻りたくないという気持ちがどんどん強くなる。どうしたら、どうしたら私はこの世界にずっといることができるだろう?
「リンも元に戻りたいだろう? 谷口は大丈夫なのかな……心配だ」
徹の声に曖昧に笑う。ナルミが元気なのか無事に馴染めているかは気になるが、私は元に戻りたくない……徹の言葉にはどうしても頷けなかった。
「と、徹!スマホの使い方で聞きたいことがーー」
「ん? どれどれ……」
話を逸らした。わざとらし過ぎたかもしれないけれど、嫌だったんだ。スマホは顔認証で何とかなるし、パスワードが分からないものは申し訳ないが変えさせて貰った。もちろんメモは残してあとで困らないように……後で、ナルミが……。
「リン?」
「……あ、なんでもないです。ここなんですけど」
この世界の知識が溜まったら、この部屋から出て行きたい。元の世界に戻りたくない……でもナルミが帰りたいと泣いていたら?徹はナルミが戻ることを望んでいる……私は私のわがままで二人の人間を不幸にして良いのだろうか……良いわけがない。
「……」
徹に色々教えて貰ったけれど、半分も入ってこなかった。
ここにいたい、でもここにいちゃいけない。結局私はどこの世界にいても居場所なんてない。
「リン?」
「え? ああ、ナルミが心配だね……大丈夫なら良いけど」
「……」
この世界で逃げてみようか。徹からも離れて、会社も部長も両親もいない所に。
ナルミが戻りたいと思っても戻れないように誰も知らない遠くへ、一人で逃げてしまおうか……。
「すみません、駄目でしたか?」
「いや、谷口の部屋を谷口が片付けたって何の問題もない」
ナルミの部屋は清潔とは言えなかった。雑誌類が積み上がり埃も多かった。ナルミの記憶に残っている高額だったり入手が難しいもの以外の雑誌は捨てさせてもらった。徹は元のナルミの部屋が変化するのが嫌だったらしいが、私は……ナルミの持っているゲーム雑誌にある間違いなく私がいた世界のことが書いてあるものを捨てたかったんだ。
徹には言えない……私はどうやらゲームの世界の住人であったらしい……そしてナルミはきっとマラカイト・凛莉になっている。あの世界に戻りたくない私は、あの世界への接点を一つでも減らしたかったんだ。
「リンは……きれい好きなんだな。谷口と違って」
「そうかもしれません。片付けていると落ち着きます」
ごちゃごちゃとモノが多いと落ち着かない。徹は掃除機の使い方を教えてくれた。電気の概念はなんとなくわかったし、魔法はないことも知った。そして人間以外の種族がないこと、魔物がいないこと……とても平和であること。
なんて理想的な優しい世界!ここにいたい、元の世界には戻りたくないという気持ちがどんどん強くなる。どうしたら、どうしたら私はこの世界にずっといることができるだろう?
「リンも元に戻りたいだろう? 谷口は大丈夫なのかな……心配だ」
徹の声に曖昧に笑う。ナルミが元気なのか無事に馴染めているかは気になるが、私は元に戻りたくない……徹の言葉にはどうしても頷けなかった。
「と、徹!スマホの使い方で聞きたいことがーー」
「ん? どれどれ……」
話を逸らした。わざとらし過ぎたかもしれないけれど、嫌だったんだ。スマホは顔認証で何とかなるし、パスワードが分からないものは申し訳ないが変えさせて貰った。もちろんメモは残してあとで困らないように……後で、ナルミが……。
「リン?」
「……あ、なんでもないです。ここなんですけど」
この世界の知識が溜まったら、この部屋から出て行きたい。元の世界に戻りたくない……でもナルミが帰りたいと泣いていたら?徹はナルミが戻ることを望んでいる……私は私のわがままで二人の人間を不幸にして良いのだろうか……良いわけがない。
「……」
徹に色々教えて貰ったけれど、半分も入ってこなかった。
ここにいたい、でもここにいちゃいけない。結局私はどこの世界にいても居場所なんてない。
「リン?」
「え? ああ、ナルミが心配だね……大丈夫なら良いけど」
「……」
この世界で逃げてみようか。徹からも離れて、会社も部長も両親もいない所に。
ナルミが戻りたいと思っても戻れないように誰も知らない遠くへ、一人で逃げてしまおうか……。
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