65 / 117
65 私、無職になりました
しおりを挟む「フロウライト! 帰って来ておると聞いたぞ! 一体今まで何を腑抜けておったのだ!」
「父上、風呂にまで押し掛けるとは何ですか。失礼な」
ぱさりとフロウライトは体を拭く大きな布を頭から俺にかけてくれた。アイアンメイデン侯爵にはマークの姿でしか会ったことがないから、マラカイト・凛莉だと知られるのは避けたい所だ。
俺も存在しているのに、アイアンメイデン侯爵の息子に対する怒声は続く。
「お前がたかが平民の遊び相手がいなくなったくらいで神聖な聖騎士の職務を放り出しておるからだ! ワシがどれほど陛下にお叱りを受けたか!」
「遊び相手ではありません。生涯の伴侶です。見つかったので仕事には戻りますよ、行きましょう?」
「……」
無言で頭だけ動かす。相手に与える情報は少ないに越した事はない。フロウライトの体の影に入り込み、気配を薄くする。目の前でやっても注意力散漫な人物なら俺に気付けなくなる。
「ふざけるな! お前の結婚相手はワシが決める! 平民など絶対に許さん」
「お断りします。私はこの人と一生添い遂げる。父上の許しなど必要ありません」
おいこら、腕を引っ張るんじゃない。影から出ちゃう。一生懸命隠れてるのにー!
「許さんといったら許さん! この由緒あるアイアンメイデン家から追放されて良いのか!」
「どうぞご自由に。しかし父上こそ良いのですか? 私が聖騎士団団長として働いているからこその陛下からの信頼を失いますよ」
「う、ぬぬ……っ! で、では聖騎士団長の座を我が家の誰かに譲るのだ!」
俺、凄い。今、噴き出すのを堪えた、俺凄い。まじで! 譲る?聖騎士団長を? それは俺の代わりに靴屋のおじさんを闇暗殺者にすると言ってんのと同じだぞ?極めた技の持ち主だからこそ務まる役職なのに。
「はあ、構いませんけど。この後一度だけグリフォンを使います。その後はお好きになさってください。しかし父上」
フロウライトは一度言葉を切り、自分の父親を正面から見据えてこう言った。
「聖騎士団団長は誰にでも務まる職ではございません。ゆめゆめ、忘れる事なきよう」
「うぐっ」
フロウライトはアイアンメイデン侯爵を置き去りにして歩き出した。良いのかな?大混乱が起こるんじゃないのかなぁ……。
「どうしましょう? 私、無職になりました」
笑って俺の顔を覗き込むフロウライトに釣られた。
「二人で一緒に街を回ろうか?」
「デート!」
「違う……いや、そうだなデートしよう。毎日一緒に」
「……楽しみだ!」
こんな冗談をいえるから、アイアンメイデン侯爵の決断は誰からも承認されないと分かっているんだろう、小狡い奴だ。そのまま真っ直ぐフィンの獣舎まで行ってふかふかの背中に跨った。
「風呂上がりで冷えると良くないからマークの家まで送ってくれ」
「くるるぅっ」
「私たちにはお前みたいな暖かな羽毛がないから、夜風を冷たく感じる時もあるんだ」
「くるぅ……」
相当残念そうにしていたけれど、フィンはマークの家に寄り道せずに連れて行ってくれた。
「ずっと乗せてくれようとしてたからな」
「では近いうちに遠くまで飛ぶことにしよう」
「くるっ!」
狭い獣舎から外に出て一緒に遊ぼうと何度も誘われていたんだ。でも隠れているから駄目だと断り続けていたんだっけ。
約束したからねー!とでも言ったように一声鳴いて、フィンは翼を羽ばたかせて帰って行く。
「マークの家の隣の家は空き家だな? フィンの休憩所でも作るか……」
「街中はやめとけ」
とりあえず軽くツッコミだけは入れておいて、さっさと家に引っ込もう。まだ眼鏡してないんだからな。
81
お気に入りに追加
1,472
あなたにおすすめの小説
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる