【完結】闇暗殺者と入れ替わった社畜の俺を聖騎士様が離さない

鏑木 うりこ

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65 私、無職になりました

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「フロウライト! 帰って来ておると聞いたぞ! 一体今まで何を腑抜けておったのだ!」
「父上、風呂にまで押し掛けるとは何ですか。失礼な」

 ぱさりとフロウライトは体を拭く大きな布を頭から俺にかけてくれた。アイアンメイデン侯爵にはマークの姿でしか会ったことがないから、マラカイト・凛莉だと知られるのは避けたい所だ。
 俺も存在しているのに、アイアンメイデン侯爵の息子に対する怒声は続く。

「お前がたかが平民の遊び相手がいなくなったくらいで神聖な聖騎士の職務を放り出しておるからだ! ワシがどれほど陛下にお叱りを受けたか!」
「遊び相手ではありません。生涯の伴侶です。見つかったので仕事には戻りますよ、行きましょう?」
「……」

 無言で頭だけ動かす。相手に与える情報は少ないに越した事はない。フロウライトの体の影に入り込み、気配を薄くする。目の前でやっても注意力散漫な人物なら俺に気付けなくなる。

「ふざけるな! お前の結婚相手はワシが決める! 平民など絶対に許さん」
「お断りします。私はこの人と一生添い遂げる。父上の許しなど必要ありません」

 おいこら、腕を引っ張るんじゃない。影から出ちゃう。一生懸命隠れてるのにー!

「許さんといったら許さん! この由緒あるアイアンメイデン家から追放されて良いのか!」
「どうぞご自由に。しかし父上こそ良いのですか? 私が聖騎士団団長として働いているからこその陛下からの信頼を失いますよ」
「う、ぬぬ……っ! で、では聖騎士団長の座を我が家の誰かに譲るのだ!」

 俺、凄い。今、噴き出すのを堪えた、俺凄い。まじで! 譲る?聖騎士団長を? それは俺の代わりに靴屋のおじさんを闇暗殺者にすると言ってんのと同じだぞ?極めた技の持ち主だからこそ務まる役職なのに。

「はあ、構いませんけど。この後一度だけグリフォンを使います。その後はお好きになさってください。しかし父上」

 フロウライトは一度言葉を切り、自分の父親を正面から見据えてこう言った。

「聖騎士団団長は誰にでも務まる職ではございません。ゆめゆめ、忘れる事なきよう」
「うぐっ」

 フロウライトはアイアンメイデン侯爵を置き去りにして歩き出した。良いのかな?大混乱が起こるんじゃないのかなぁ……。

「どうしましょう? 私、無職になりました」

 笑って俺の顔を覗き込むフロウライトに釣られた。

「二人で一緒に街を回ろうか?」
「デート!」
「違う……いや、そうだなデートしよう。毎日一緒に」 
「……楽しみだ!」

 こんな冗談をいえるから、アイアンメイデン侯爵の決断は誰からも承認されないと分かっているんだろう、小狡い奴だ。そのまま真っ直ぐフィンの獣舎まで行ってふかふかの背中に跨った。

「風呂上がりで冷えると良くないからマークの家まで送ってくれ」
「くるるぅっ」
「私たちにはお前みたいな暖かな羽毛がないから、夜風を冷たく感じる時もあるんだ」
「くるぅ……」

 相当残念そうにしていたけれど、フィンはマークの家に寄り道せずに連れて行ってくれた。

「ずっと乗せてくれようとしてたからな」
「では近いうちに遠くまで飛ぶことにしよう」
「くるっ!」

 狭い獣舎から外に出て一緒に遊ぼうと何度も誘われていたんだ。でも隠れているから駄目だと断り続けていたんだっけ。
 約束したからねー!とでも言ったように一声鳴いて、フィンは翼を羽ばたかせて帰って行く。

「マークの家の隣の家は空き家だな? フィンの休憩所でも作るか……」
「街中はやめとけ」

 とりあえず軽くツッコミだけは入れておいて、さっさと家に引っ込もう。まだ眼鏡してないんだからな。
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