上 下
55 / 117

55 それは私のせいではないだろうか

しおりを挟む
「少しいっておきたい事がある」

 こうして付き合って行く以上、俺はフロウライトにいっておかねばならない。俺がマラカイト・凛莉でもマークでもないこと、そして多分元に戻らないこと。こうして密に付き合い出す前に入れ替わったがフロウライトはかなり前からマークを知っていたみたいだし。
 ここまで来て嫌われることはないとは思うが、隠し事は少ないに越したことはない。

「な、なんだ? 良くなかったか?」
「そうじゃないんだけど……なあ、私の中身が俺だったらどうする?」
「……難しいな」

 そうか難しいか。やっぱり無理な感じか。

「もっとわかりやすく言って欲しい」

 そっちだった。ならもったいぶらずにそのまま聞いた方が良いな……。

「お前の知っているマラカイト・凛莉の中身が途中から別人に入れ替わっていたらどう思う?」
「私の知っているマラカイト・凛莉がか? うーん、別人になったら気が付くと思うが別人なのか? いつから?」
「お前と初めて寝た日の少し前から」
「それは気が付かないな……あの時以前はマラカイト・凛莉とは話したことも目を合わせた事もないから」

 え、そんくらい没交渉だったのか。ちょっとびっくりしてフロウライトの顔を見ると過去の記憶を探っているようで思案顔だった。

「マラカイト・凛莉と言えばとりあえず極会議には顔を出すが、一言も発せず気配もほとんど消しているかどうかも分からない、空気より透明な存在だった。多分途中で帰っていただろうけれど誰も気が付かなかった」

 師匠、ある意味凄すぎだ。あの面子の中でどうやって気づかれず気配消してたんだ?

「そういえばあのあたりから以前よりマラカイト・凛莉がようになったな……」
「……そうか」

 そして口を噤んで、眉毛の間に皺を寄せた。何か思い悩んでいるのか、唸り声を上げそうな勢いを感じる。

「いや、それでな」

 実は中の人が入れ替わったんだ、とフロウライトに説明する前に奴はとんでもないことを言い出した。

「……もしかしたら、それは私のせいかもしれない」
「え? どういうことだ?」

 なんでそこにお前のせいが出てくるのか分からないけれど、とりあえず続きを促した。

「私は神の教えと武を極めることに精一杯生きてきた。それが実を結び、聖騎士・極としてかなりの強さを手に入れた。そこまでは良かったのだが、ある日部下に言われたのだ。もう少し人を愛してみたらどうだろうと」
「愛」
「うむ。人を愛すことは神より与えられた祝福の一つだと思う。そこで誰かを好きになりたいと思った……誰かを好きになり、デートを重ねて受け入れ愛し合う……と、その時に思ったのだ。私を受け入れてくれる大きさの人間はいるのかと」
「あー……」

 なんか凄くデカイ下半身に思わず視線を落としてしまう。なんでこんななの? と思う程でかい。華奢なお嬢さんじゃ絶対裂けて死ぬね、殺人事件だ。

「その時ふと思ってしまったのだ。闇暗殺者・極のマラカイト・凛莉レベルなら受け入れて貰えそうだと」
「何故そうなった」
「私の見知った中で一番大丈夫そうだったから」
「……なるほど?」

 わからん、どゆこと?多分少し思っていることが顔に出ていたんだと思う。俺はフロウライトの前では結構感情が顔に出ているようだ。

「つまり、神は私の願いを聞き届けてしまったのではないか? 私とマラカイト・凛莉が愛し合えるよう、別の精神と入れ替えてしまった……以前のマラカイト・凛莉であれば絶対に愛し合う事はできないから」
「……そう、なのか?」
「可能性はとても高いと思っている……」

 すまない、と小さく呟くフロウライトに謝るな、と伝えてから俺は少し考えこんだ。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

処理中です...