50 / 117
50 あのおっさん捨てて来てって言いそうに
しおりを挟む
「王太子殿下には先に解毒薬を差し上げなさい」
「はっすみません!」
会場に踏み込むとまだ中の空気は淀んでいた。うっすらと空気に色がついているから、毒を撒いたという公然の事実を知らしめる目的もあったようだ。顕示欲もある奴が黒幕か。誰だろう? まあ、そこを調べるのは俺の仕事じゃないな。
「どうして空気を入れ替えない?」
「申し訳ございませんっすぐやります」
本当にいい所に就職できたからってサボり過ぎだろう? 毒の漂う会場をフロウライトと躊躇なくスタスタと最奥へ向かう。
フロウライトは少し眉毛を寄せて違和感の出た鼻の頭を触っている。
「これが麻痺系という奴なのか?」
「ああ、鼻の奥がピリピリするだろう?私達はこの程度だが、普通の冒険者でも武器を取り落としたりすることがあるタイプの毒だな。何の心得もない……貴族なんかはこうだ」
床に全身が痺れて動けなくなっている礼服やドレスの男女が転がっているのを視線で指し示す。壁にもたれ掛かったり、蹲って症状の軽い者も多いけど概ねこんなもんだろう。
「持病がある奴とか年寄りはこれで死ぬかもしれないが、稀だ」
「解毒薬は?」
「一般的なもので効く。手分けして飲ませている最中だろう」
多分身分の高い人からね。ま、よっぽどじゃなきゃ間に合うだろうし。
俺とフロウライトが並んで歩いているととても目立つ。街ではフロウライトと歩くのはマークだから、マークはどちらかというと背中を丸めて小さくなっている……そう見せたいから。だがマラカイト・凛莉はそんなことはしない。すっと伸びた体躯はフロウライトとも見劣りしない。むしろこの煌びやかな夜会の明かりの下では黒ずくめの姿はよく目立つ。
「あー……凛莉師匠が明るい所を歩いてるなんて……目に焼きつけとかなきゃ、ありがたやありがたや、寿命が10年伸びたぁ」
拝んでる影達、やめなさい。寿命は伸びません。
「皆、聞いてくれ……凛莉師匠、今パンツ穿いてないんだぜ……」
「ぶはっ?!」
サファイア君、黙ろうか?穿いてないけど。サファイア君へのペナルティはダイヤモンドに何か素敵な情報を流す事にしようかな? とりあえず依頼でも遂行しようか。国王を生かしておくこと、だったな。
バタバタと貴族が倒れた夜会の会場の真ん中を、最奥で転がる国王の元へ歩を進める俺たちの前に立ちはだかる人間が現れた。
「フロウライト・アイアンメイデン!何をしに来た!今日は聖騎士の出る幕などないっ」
俺じゃなくて隣のフロウライトに食ってかかってきたのは王宮騎士団団長、名前は忘れた。多分フロウライトなら知っているだろう。
「マクベス・レーガリア。そんなことよりこの場を早く収めたらどうだ?」
「遅れてこの場に来て手柄をあげようとてそうはいかんぞ! 少し実力があるからといってこの王宮で大きな顔が出来ると思うな!!」
「私は今日は非番であり、この夜会への参加者だ。それに私達はついさっき王太子殿下に依頼を受けたのだ、正式にな」
「な、なんだとーっ!」
少し後ろを見れば王太子殿下が青い顔で頷いている。青いのは毒のせいだろう……先に解毒薬を飲んでも不快で刺すような喉の痛みがあるだろうし、喉が痛んで多少の吐血もあるかもしれない。まあだが死にはしない。
「そ、それになんだその男は!黒ずくめでいかにも怪しい……そ、そいつが犯人かっ!」
こんな堂々と戻って来る犯人がいる訳がない。こいつ何言ってんだ?頭がおかしい。
そのおかしな奴を軽く無視して、フロウライトは俺に囁く。
「マクベス・レーガリアに紹介した方が良いか?凛莉」
「要らん、二度と会うこともないだろうし。先に仕事を済ます」
「そうだな」
殊勝にもマクベスは倒れた国王と我々との間に立ち塞がったから目に入れない訳にいかなかっただけで、俺が気にかけてやる要素は一欠片もない。壮年の、似合ってないちょび髭がカッコ悪いし、真っ赤でテカテカのマントもダサさ半端ない。顔も痩せこけてて張りがないし、それなのに目玉はギョロッとして何かを物色しているようだし、俺をみる視線に粘着質の気持ち悪さが滲んでいる。
性的な目で見たいなら見れば良いがこの目は気持ち悪いな。
てか、犯人だと思った奴をエロい目でみんなよ。取り調べの時にねっぷりとか思ってそうでさらに気持ち悪さが加速した。
フロウライト、ちょっとあのキモいおっさん、外に捨てて来て。って言いそうになってやめた。口にしたら本当に外に捨てて城の外堀の水の中に落としそうだったからな。
「はっすみません!」
会場に踏み込むとまだ中の空気は淀んでいた。うっすらと空気に色がついているから、毒を撒いたという公然の事実を知らしめる目的もあったようだ。顕示欲もある奴が黒幕か。誰だろう? まあ、そこを調べるのは俺の仕事じゃないな。
「どうして空気を入れ替えない?」
「申し訳ございませんっすぐやります」
本当にいい所に就職できたからってサボり過ぎだろう? 毒の漂う会場をフロウライトと躊躇なくスタスタと最奥へ向かう。
フロウライトは少し眉毛を寄せて違和感の出た鼻の頭を触っている。
「これが麻痺系という奴なのか?」
「ああ、鼻の奥がピリピリするだろう?私達はこの程度だが、普通の冒険者でも武器を取り落としたりすることがあるタイプの毒だな。何の心得もない……貴族なんかはこうだ」
床に全身が痺れて動けなくなっている礼服やドレスの男女が転がっているのを視線で指し示す。壁にもたれ掛かったり、蹲って症状の軽い者も多いけど概ねこんなもんだろう。
「持病がある奴とか年寄りはこれで死ぬかもしれないが、稀だ」
「解毒薬は?」
「一般的なもので効く。手分けして飲ませている最中だろう」
多分身分の高い人からね。ま、よっぽどじゃなきゃ間に合うだろうし。
俺とフロウライトが並んで歩いているととても目立つ。街ではフロウライトと歩くのはマークだから、マークはどちらかというと背中を丸めて小さくなっている……そう見せたいから。だがマラカイト・凛莉はそんなことはしない。すっと伸びた体躯はフロウライトとも見劣りしない。むしろこの煌びやかな夜会の明かりの下では黒ずくめの姿はよく目立つ。
「あー……凛莉師匠が明るい所を歩いてるなんて……目に焼きつけとかなきゃ、ありがたやありがたや、寿命が10年伸びたぁ」
拝んでる影達、やめなさい。寿命は伸びません。
「皆、聞いてくれ……凛莉師匠、今パンツ穿いてないんだぜ……」
「ぶはっ?!」
サファイア君、黙ろうか?穿いてないけど。サファイア君へのペナルティはダイヤモンドに何か素敵な情報を流す事にしようかな? とりあえず依頼でも遂行しようか。国王を生かしておくこと、だったな。
バタバタと貴族が倒れた夜会の会場の真ん中を、最奥で転がる国王の元へ歩を進める俺たちの前に立ちはだかる人間が現れた。
「フロウライト・アイアンメイデン!何をしに来た!今日は聖騎士の出る幕などないっ」
俺じゃなくて隣のフロウライトに食ってかかってきたのは王宮騎士団団長、名前は忘れた。多分フロウライトなら知っているだろう。
「マクベス・レーガリア。そんなことよりこの場を早く収めたらどうだ?」
「遅れてこの場に来て手柄をあげようとてそうはいかんぞ! 少し実力があるからといってこの王宮で大きな顔が出来ると思うな!!」
「私は今日は非番であり、この夜会への参加者だ。それに私達はついさっき王太子殿下に依頼を受けたのだ、正式にな」
「な、なんだとーっ!」
少し後ろを見れば王太子殿下が青い顔で頷いている。青いのは毒のせいだろう……先に解毒薬を飲んでも不快で刺すような喉の痛みがあるだろうし、喉が痛んで多少の吐血もあるかもしれない。まあだが死にはしない。
「そ、それになんだその男は!黒ずくめでいかにも怪しい……そ、そいつが犯人かっ!」
こんな堂々と戻って来る犯人がいる訳がない。こいつ何言ってんだ?頭がおかしい。
そのおかしな奴を軽く無視して、フロウライトは俺に囁く。
「マクベス・レーガリアに紹介した方が良いか?凛莉」
「要らん、二度と会うこともないだろうし。先に仕事を済ます」
「そうだな」
殊勝にもマクベスは倒れた国王と我々との間に立ち塞がったから目に入れない訳にいかなかっただけで、俺が気にかけてやる要素は一欠片もない。壮年の、似合ってないちょび髭がカッコ悪いし、真っ赤でテカテカのマントもダサさ半端ない。顔も痩せこけてて張りがないし、それなのに目玉はギョロッとして何かを物色しているようだし、俺をみる視線に粘着質の気持ち悪さが滲んでいる。
性的な目で見たいなら見れば良いがこの目は気持ち悪いな。
てか、犯人だと思った奴をエロい目でみんなよ。取り調べの時にねっぷりとか思ってそうでさらに気持ち悪さが加速した。
フロウライト、ちょっとあのキモいおっさん、外に捨てて来て。って言いそうになってやめた。口にしたら本当に外に捨てて城の外堀の水の中に落としそうだったからな。
73
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
記憶の鳥籠〜転生したら元彼が運命の番だった話〜
天宮叶
BL
遠距離による寂しさに耐えられず、何度も彼氏と別れを繰り返していた満人は、いつも自分を受け入れてくれる優しい彼を自分から解放してあげるために結婚を決意した。しかし、孫に恵まれ、天寿を全うする時が来ても、満人は彼のことを忘れられることができないままだった。
命の灯火が消える寸前、やり直すことができたならと神様に願った満人が目を覚ますと、彼は男爵家の次男マテオ=ルーカスとして前世とは全く違う世界へと前世の記憶を持ったまま転生をしていた。
時は流れ、彼が18歳の時、婚約者を見つけるため初めての舞踏会への参加をすることとなる。
そこで公爵家の長男、レオニード=スペンサーと出会った。レオニードはマテオに「お前は私の運命の番か?」と尋ねてきて......。
※本編完結済みです✨
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
異世界召喚に巻き込まれ転移中に魔法陣から押し出され、ボッチで泣いてたらイケメン幼馴染が追いかけてきた件<改定版>
緒沢 利乃
BL
僕、桜川凛は高校の卒業式の日に、教室に突然現れた魔法陣のせいで同級生の数人と一緒に異世界に転移することになった。しかも、転移の途中に同級生の誰かに魔法陣から押し出されてしまう。
えーっ、そんな、僕どうなっちゃうの?
目覚めると森らしきところに一人ボッチでした。
小柄でやせ型で学校でも地味で目立たない特技なしの僕。
冒険者初心者でも楽勝の小型魔獣でさえ倒すこともできず泣きながら逃げ回り、それでもなんとか異世界で生き延びれるよう四苦八苦しながら頑張っていたら……。
幼稚園のときからの幼馴染、橘悠真が現れた。
あれ? 一緒に異世界転移したけれど、悠真は召喚された場所にみんなといたはずでしょ? なんで、ここにいるの?
小学校高学年から言葉も交わさず、視線も合わさず、完全に避けられていたのに、急に優しくされて、守ってくれて……ちょっとドキドキしちゃう。
えっ、どこ触ってるの? いや、大丈夫だから、撫でないで、ギュッとしないで、チュッてしちゃダメー!
※R18は予告なしで入ります。
この作品は別名義で掲載していましたが、今回「緒沢利乃」名義で改定しました。
どうぞ、よろしくお願いします。
※更新は不定期です。
どうか僕のことを、忘れて
あか
BL
ある日、生まれた時から身につけていた首飾りを壊してしまった僕は、《リザードマン》の姿になってしまった。
そんな僕の姿を見た僕の大好きな先生は、険しい顔で僕のことを睨んでいて。
ーーーその恐ろしい視線を、忘れることは出来なかった。
《リザードマン》の姿になってしまった僕と、《リザードマン》を憎む僕の大好きな先生の、お話。
※これから血の描写や残酷描写がある可能性があるため、R15にしてます。
愛され奴隷の幸福論
東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。
伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──……
◇◇◇◇◇
*本編完結済みです*
筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり)
無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。
体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる