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38 イケメンはお得すぎる
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「戻りました、愛しい人。体の調子はどうだろうか」
「心底、治癒術を習得しておいて良かったと思っているよ、馬鹿野郎」
いつの間にか知らないが、マークの家の鍵をフロウライトは持っていて、仕事場からここに帰ってきたようだ。そして流石に頭に来たのもあって、奥の部屋で話をしている。まあ、マークの家は小さいから奥の部屋は一つしかなくて……ベッドルームなわけなんだが。
流石の石頭も俺がベッドの上で不機嫌に怒っているのは一目で分かったようで、帰ってきた時の能天気さは鳴りをひそめた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ、馬鹿野郎。もうやめてくれって言ったよな?」
「あ、ああ……君が……マラカイト・凛莉が……泣きながら許してくれって言った……凄い、可愛かった」
「忘れろッ!! この大馬鹿野郎!!」
手直にあった枕を掴んでぶん投げつける。ふわふわの枕でも俺が投げれば殺人級だが、それをぽふんと簡単に捕まえてしまうフロウライトもどうかしてる。くっそ、悔しい!
「あの君を忘れる? それは無理だ……ああ、凛莉。今日も良いだろうか?」
「良くねえよ! 今日はナシだ!!」
「え? 今何と言った?」
「今日はしない! 今日は、絶対に、しないっ!!」
「う、嘘……だろ……?」
おいおい、戦場で絶対に膝をつかない王国の盾が両ひざをついてがっくり項垂れてるんだが? なにしてんだフロウライト・アイアンメイデンよ……。
「きょ、今日もお前といっぱい、色々出来ると思って……た、楽しみに、楽しみにしてたのに……今日はナシなんて……酷い、酷過ぎる」
昨日の俺の代わりに今日はお前が泣け、フロウライト。あとどこの発情期の動物だよ? 何が楽しみだ、一日中そんなこと考えたのか?! この変態っ。
「昨日のお前のやり過ぎのせいで、今日マークは街へ出れなかった。突然来なくなったら皆困るだろうが。次の日に動けなくなるようなやり方は絶対しない。当然だろう!」
「……それはそうだな……すまなかった」
「……分かってくれたらいい」
やけにあっさり素直だな。しかし俺より大きな男が両ひざを情けない顔でついてこっちを見上げている。なんだか大型犬を躾けた気持ちだ……ちょっと気分が良い。気分が良くなってちょっと寛大になったのは失敗だな。
「最強の盾がこんな所で膝をつくな」
「戦場では盾ともなろう。だがここは戦場ではあるまい……うう、今日も君と過ごせると思ったのに」
中々面白い事をいうな、こいつ。ただのカチコチの石頭かと思ったけどそうでもないようだ。まあ聖騎士団を率いているんだ、そこそこ融通も利かせなければやっていけないこともあったんだろうな、多分。
「……戦場かもしれないぞ?」
「え?」
ついからかってみたくなって笑みを浮かべてしまう。ついさっきまで絶対に許さない、一晩中説教してやると思っていたのにどうしたことだろう。多分顔のせいだ、イケメンは何かとお得だな。
「お前と私の意見が対立した、そういう戦場かもしれないぞ?」
聖騎士は顔を上げ、ついていた膝を床から離した。
「もし、私が勝ったら私の意見が通るのだろうか」
「さあ、どうだろうな? でも、楽しみにしていたんだろう、すぐに諦められるくらいなのか?」
「……いや、全力を出させてもらうとしよう」
なんだ、こいつ。頭固いくせにこういう言葉遊びも乗ってくるのか。型通りのNPCかと思ったけれど、違うんだ。
「マラカイトは非常に言いにくいと思う」
「そうかもな」
くだらない会話を楽しむのも悪くない。この世界に入り込んでしまってから見える物は多岐に渡って、それも楽しいと感じている。
フロウライトは床から立ち上がって俺が横になっているベッドに腰掛けた。さて、どんな話して口説いて来るんだろう、石頭なのに話す話題はあるのかな?まずは今日あった事を色々教えてくれる。いつも見ている街の様子がだフロウライトの口から語られるのを聞くのは中々新鮮だった。
「団員は治癒術師のマークと私が付き合っていると思っているから、私がマークを絞め落とさないか心配しているんだ」
「正しい判断だな」
「マラカイト・凛莉なら問題ないだろう?」
「いや? マラカイト・凛莉でも油断すればオトされるぞ。お前は自分の腕力を過小評価しすぎている。元に一度締め落としてるじゃないか」
「そ、そうか……そういえばそうだな」
「一体どんな訓練してるんだ? 野生の熊と抱き合ってる?」
「だ、抱き合うのは、君だけだが」
「……そうか」
なんだか素直に言われると恥ずかしいな……。つい無言になって微妙な空気が流れてしまうじゃないか。もう何なんだよ!
にしても利用してやろうと思っていたのに、フロウライトといると何だかちょっと楽しくて最初の企みを忘れてしまいそうになるな。これもイケメン効果に違いない。やっぱりイケメンは何かとお得過ぎるだろう。
「心底、治癒術を習得しておいて良かったと思っているよ、馬鹿野郎」
いつの間にか知らないが、マークの家の鍵をフロウライトは持っていて、仕事場からここに帰ってきたようだ。そして流石に頭に来たのもあって、奥の部屋で話をしている。まあ、マークの家は小さいから奥の部屋は一つしかなくて……ベッドルームなわけなんだが。
流石の石頭も俺がベッドの上で不機嫌に怒っているのは一目で分かったようで、帰ってきた時の能天気さは鳴りをひそめた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ、馬鹿野郎。もうやめてくれって言ったよな?」
「あ、ああ……君が……マラカイト・凛莉が……泣きながら許してくれって言った……凄い、可愛かった」
「忘れろッ!! この大馬鹿野郎!!」
手直にあった枕を掴んでぶん投げつける。ふわふわの枕でも俺が投げれば殺人級だが、それをぽふんと簡単に捕まえてしまうフロウライトもどうかしてる。くっそ、悔しい!
「あの君を忘れる? それは無理だ……ああ、凛莉。今日も良いだろうか?」
「良くねえよ! 今日はナシだ!!」
「え? 今何と言った?」
「今日はしない! 今日は、絶対に、しないっ!!」
「う、嘘……だろ……?」
おいおい、戦場で絶対に膝をつかない王国の盾が両ひざをついてがっくり項垂れてるんだが? なにしてんだフロウライト・アイアンメイデンよ……。
「きょ、今日もお前といっぱい、色々出来ると思って……た、楽しみに、楽しみにしてたのに……今日はナシなんて……酷い、酷過ぎる」
昨日の俺の代わりに今日はお前が泣け、フロウライト。あとどこの発情期の動物だよ? 何が楽しみだ、一日中そんなこと考えたのか?! この変態っ。
「昨日のお前のやり過ぎのせいで、今日マークは街へ出れなかった。突然来なくなったら皆困るだろうが。次の日に動けなくなるようなやり方は絶対しない。当然だろう!」
「……それはそうだな……すまなかった」
「……分かってくれたらいい」
やけにあっさり素直だな。しかし俺より大きな男が両ひざを情けない顔でついてこっちを見上げている。なんだか大型犬を躾けた気持ちだ……ちょっと気分が良い。気分が良くなってちょっと寛大になったのは失敗だな。
「最強の盾がこんな所で膝をつくな」
「戦場では盾ともなろう。だがここは戦場ではあるまい……うう、今日も君と過ごせると思ったのに」
中々面白い事をいうな、こいつ。ただのカチコチの石頭かと思ったけどそうでもないようだ。まあ聖騎士団を率いているんだ、そこそこ融通も利かせなければやっていけないこともあったんだろうな、多分。
「……戦場かもしれないぞ?」
「え?」
ついからかってみたくなって笑みを浮かべてしまう。ついさっきまで絶対に許さない、一晩中説教してやると思っていたのにどうしたことだろう。多分顔のせいだ、イケメンは何かとお得だな。
「お前と私の意見が対立した、そういう戦場かもしれないぞ?」
聖騎士は顔を上げ、ついていた膝を床から離した。
「もし、私が勝ったら私の意見が通るのだろうか」
「さあ、どうだろうな? でも、楽しみにしていたんだろう、すぐに諦められるくらいなのか?」
「……いや、全力を出させてもらうとしよう」
なんだ、こいつ。頭固いくせにこういう言葉遊びも乗ってくるのか。型通りのNPCかと思ったけれど、違うんだ。
「マラカイトは非常に言いにくいと思う」
「そうかもな」
くだらない会話を楽しむのも悪くない。この世界に入り込んでしまってから見える物は多岐に渡って、それも楽しいと感じている。
フロウライトは床から立ち上がって俺が横になっているベッドに腰掛けた。さて、どんな話して口説いて来るんだろう、石頭なのに話す話題はあるのかな?まずは今日あった事を色々教えてくれる。いつも見ている街の様子がだフロウライトの口から語られるのを聞くのは中々新鮮だった。
「団員は治癒術師のマークと私が付き合っていると思っているから、私がマークを絞め落とさないか心配しているんだ」
「正しい判断だな」
「マラカイト・凛莉なら問題ないだろう?」
「いや? マラカイト・凛莉でも油断すればオトされるぞ。お前は自分の腕力を過小評価しすぎている。元に一度締め落としてるじゃないか」
「そ、そうか……そういえばそうだな」
「一体どんな訓練してるんだ? 野生の熊と抱き合ってる?」
「だ、抱き合うのは、君だけだが」
「……そうか」
なんだか素直に言われると恥ずかしいな……。つい無言になって微妙な空気が流れてしまうじゃないか。もう何なんだよ!
にしても利用してやろうと思っていたのに、フロウライトといると何だかちょっと楽しくて最初の企みを忘れてしまいそうになるな。これもイケメン効果に違いない。やっぱりイケメンは何かとお得過ぎるだろう。
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