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29 無言茶会数回目

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「マ、マーク」
「なんでしょう聖騎士団長様?」

 マラカイト、と言いかけて口に出さなかったフロウライトは進歩しているけれど、今日もまた別の喫茶店でフロウライトと街のおしゃれなカフェのオープンテラスで向かいあってお茶をしている、何故。
 何故なのかは分かっている、街の人達が誘導してくれるんだ、迷惑な事に。そしてフロウライトと一緒の聖騎士達も俺とフロウライトがお茶をするようにセッティングをする、その辺は何故かと問いたい。

「き、君はわ、私と……その、どうこうなりたいとか考えているのだろうかっ」

 どゆこと、どうもこうもなりたくないけど。仕方がない、少しだけ集中して周りの声を聞き取ろう。
 そうだな、フロウライトと始終一緒にいる聖騎士達が良いだろう。何かヒントがあれば良いが。暗殺者のスキルに聞き耳というものがある。その上位職の闇暗殺者ともなれば本気を出せば周りの音を聴くなんて造作もない事だ。耳に少しだけ神経を集中させれば覗き見している奴らのひそひそ話が全部聴こえてくる。

「だ、団長! そんなストレートに聞かないでっ!」
「むしろ曲げ過ぎだろ?! そうじゃなくて素直に結婚してくださいって言うとこだろ!」
「あーっ焦ったいっ! 気になるなら付き合ってっていえば良いのにっ何してんすか、団長ぉー!」
「恋に鈍感すぎだろ! あの人ぉ」
「毎回デートをセッティングするの大変なんだから、早く結婚してくれよ!」

 えー……これ、デートだったの……信じられないんだが。ていうか何、何なの? 聖騎士団も俺とフロウライトをくっ付けようとしてんの? まじかー……噂が広がり過ぎてるだろ。本当に噂だけなのにどうしてこうなった……!

「ど、どうなんだ!」

 聖騎士団の対応にがっかりしたが、俺はマークとして返答を返すしかない。

「……そんな事は……考えていません」

 なんか目の前のフロウライトがあからさまにがっかりして肩を落としたんですけど?!え、何、なんなのっ!
 俺がいつお前と結婚したいだの付き合いたいだのいったか? いってねぇよ、一回も! ちょっとカッコいいですね、と独り言をいっただけだ。そんなのテレビでみたアイドルにかける言葉と一緒だろ?!誰も本気でアイドルと結婚したいなんて思ってねーよ? それと一緒よ??

「急用を思い出した。失礼する……」
「え、あ、はい……」

 今日の無言茶会は早く終わった。良かった。折角だから残ったお茶を堪能して帰ろうとしていると、フロウライトと合流したであろう騎士達の声が聞こえて来た。 当然ながら普通は聞こえる物じゃない。闇暗殺者だからこそのスキルなんだがびっくりして茶を吹き出すかと思った。

「フラれた」
「馬鹿いってんじゃないですよ!あなたは聖騎士団長なんですよ!マークさんはただの平民みたいなもんです!釣り合わないと身を引いたんですよ!」
「そうですよ!何ですか、あの聞き方は!まずは付き合おうと告白してから、徐々にお互いを知っていかなきゃならないのに!」
「どうすんですか!マークさん落ち込んでますよ! このままこの世を儚んで身投げしまったら、団長の責任ですからね!」
「あんなに辛そうな顔をして……涙を堪えてるんですよ?!」

 待てい!どうしてそうなる?!俺は身投げなんてしないし、身分の差なんて考えたこともない! あと全然泣きそうな顔なんてしてない! 聖騎士団目が腐ってじゃねーの??

「マークさん、うう……可哀想」
「いつもいってたもんね、自分とじゃ釣り合わないって」
「見てるだけで良いんだって」
「そばにいてくれるだけで嬉しいって言ってた……なんていじらしい」

 街のみんなも俺の台詞を捏造してる。そんな事一言も喋った事ねーよ?!ヤバい、茶を全部飲んでから帰ろうと思ったけどこのままじゃないことない事捏造されてどうなっちゃうか分かんない!
 ちょっと怖いけど少しこの街を離れた方がいい。死亡説の方がまだマシだこれ!俺は素早く立ち上がってこのテラスを出ていく!

「団長っ!マークさんが泣きながらこの場を去ろうとしています!」
「今ならまだ間に合いますっ」
「団長っ! 男でしょう?!」
「団長ーっ!マークさんを幸せにしてやってくださいっ」

 やめろ!勘違い聖騎士団、フロウライトを焚き付けんな!そして俺、ヤバいすぐ逃げろ!ああ、アサシン術を使えればすぐさま背後の影に溶けて消えれるのに、初級治癒術師じゃモタモタとするしかないっ。ヤバい、本当にヤバい!

 スッと頭上に影ができた。長身の凛莉師匠の頭上に影を作れる奴は数少ないけど、この場には居る。フロウライトは凛莉師匠より背が高い。

「マーク、わ、私と結婚を前提に付き合って欲しいっ!」

 力いっぱい正面からぎゅっと抱きしめられた。

あ、ゴキっていった、肩がゴキって、そんで腕がバキって、いった……ぁあ……。



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